第20話 企業秘密に決まってるでしょ?
マッシュたちがスライムの皮を持ち帰ってくれて、二階の床に貼り付けてくれる。
一番簡単な作りなんだけど、意外に効果あるみたい。
これでお城のにトレーニングルームに行かなくても良くなるわね。
一瞬だけ男たちに場所を追われていた女性の姿が頭を過ったけど、無理に脳内から追い出して、マリーたちと葉っぱの上に乗り込んだ。
「さてと。まずはギルドからかしら? レンタル品じゃない普通の商品も販売してくれるのよね?」
「はい! ギルドの中にお店があって、特注も出来ます!」
「あら、そうなのね。それじゃぁ、決まりかしら」
一応2人の顔色をうかがってみたけど、不満はないみたい。
いつものように秘密の通路を抜けて、裏口からギルド長の部屋に入っていく。
「あっ、やっほー。久しぶりー、元気だったー?」
「えぇ、みんな元気いっぱいよ。ちょっとだけリリの特訓をしていたの。今日は買い取りと武器の販売をお願いするわ。質はそこそこのやつで良いわよ」
「そこそこねー。わかったよー。そんじゃ、いつもの席にどうぞー」
ショタ長に案内されながら机の上をチラリって見たんだけど、書類の山が今にも崩れそうね。
そんな状態を放置して、やっと解放されたー、って顔のショタ長がスキップ交じりに駆けて行った。
どう見ても盛大な仕事放棄ね。
でもまぁ、私にはあまり関係ないし、ほっといても良いかな。
なんて思いながら、1体のマッシュを呼び出して、集めた物を机の上に並べてもらう。
「わぉ! すごい量」
素直に驚いた表情を見せたショタ長が、そう評価をしてくれる。
建設と平行だったけど、召喚できる数が飛躍的に増えたから、毎日そこそこの数が集まったのよね。
「どうやってこんなに集めたんですか?」
「もちろん、企業秘密よ」
「むぅぅ……」
唇を突き出しながらショタ長が不満げな表情をしたのだけど、放置したら寂しそうに引いてくれた。
そうして最終的に提示された金額は、小金貨25枚。
それと一緒に、面倒な話が舞い込んだみたい。
「実はお願いがあって。最近、南側にある森に見慣れぬ魔物が大量に出てくるんだー。それの調査をしてくれないかな?」
「森の調査? つまりは、大量発生の原因を探ればいいのかしら?」
「うん! その魔物たちって、結構強いんだって。だからお姉さんみたいな強い人に頼みたいんだよねー。森の様子を報告するだけで、小金貨2枚。原因を特定出来たら小金貨10枚あげる!」
んー……、お金には困ってないんだけど、魔物の大量発生ねぇ……。
正義感の強い方じゃないけど、放置もなんだか怖いわね。
「マリーはどう思う?」
「そうですね。マッシュ様のお力を借りれば可能かと存じます。それと南の森は畑が近いことが気がかりですね……」
「そっか、森から魔物があふれてくると、野菜なんかに影響が出るのね?」
「恐らくは……」
もしそうなれば、冒険者の仕事っていうより、王族や貴族の仕事ね。
城にいる人たちが動く前に私たちだけで終わらせるのも、案外面白いかもしれないわ。
「わかったわ。引き受けましょう。期限とかはあるかしら?」
「ううん、ないよー。でも、出来るだけ早い方がいいかな? お願いしていい?」
「えぇ、任せておきなさい」
敵の姿もわからないし、南の森なんて行ったことないけど、まぁ大丈夫でしょ。
「その任務に必要になると思うのだけど、短剣を大量に売って欲しいのよ。出来るかしら?」
「ん? 大量に? 良い武器が欲しいとかじゃなくて??」
「えぇ、最初に言ったけど、質はそこそこでいいのよ。予算も限られてるしね……。んと、そうね、とりあえず50本くらいかしら」
同時召還は12体が限界だけど、このまま増え続けるとしたらすぐにそのくらいになるかもしれないしね。
目標は高い方が良いでしょ?
どこか不思議そうに眉をひそめながらも、ギルド長は前回とは違う倉庫に案内してくれた。
部屋の中には剣や盾などが立てかけられてて、槍、弓、杖なんかも並べられているわね。
「んーっと、短剣は奥にあるタルだったかな? 全部売り物だから、好きなの選んでいいよ」
「値段とかは?」
「……、あとで職員さん呼んでくる」
なんとも頼りない言葉に肩をすくめながら、ショタ長が指さしたタルの中をのぞき込んだ。
見えてきたのは、ぎゅうぎゅうに押し込まれた短剣の山。
最低でも300本はあるわね、これ……。
「マリー、お願いしてもいいかしら?」
「かしこまりました」
私には短剣の心得なんてないから、困ったときのマリー頼り。
真剣な表情で1本ずつ手に取った彼女が、いろんな角度から短剣を眺めて仕分けを始めてくれた。
そんなマリーを尻目に、リリが心配そうな瞳で私のことを見上げてくる。
「ごめんなさい。もっとお勉強します」
短剣の仕分けを手伝えないことを恥じているみたい。
はじめてあった時のように、しょんぼりとしているわね。
「大丈夫よ。リリにはリリにしか出来ないことがあるのだから、心配しなくていいわ」
本心からそう言ったのだけど、リリの表情はあまり優れない。
むしろこの3人の中じゃ、私が1番なにも出来ないのだけどね。
(なんて説明しようかしら? リリが出来ることはリリに頼るって形にすれば、わかってもらえると思うのだけど……)
どう言葉をかけて良いのかわからなくて、曖昧にほほ笑みながら彼女の髪を優しくなでてあげた。
そうして必死に脳内をフル回転させていると、隣に立っていたマッシュが、突然トコトコって壁の方に向けて歩き始めた。
「ん? どうしたの?」
そう声をかけてもマッシュの足は止まらない。
「キュ!」
そのまま壁際まで歩いて行ったマッシュが、そこに立て掛けられていた弓を持ち上げて、片手で構えて見せた。
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