第33話 責任

 ショタ長に案内されるままその後ろについていったんだけど、行き先には悲惨な現状が広がってた。


 元々倉庫だったと思う場所にはケガをした人たちが50人くらい寝転んでいて、その隙間を医者や薬剤師が走り回っている。


 所々に血の付いた鎧なんかが脱ぎ捨てられていて、どこを見ても血のにおいが漂っていた。


「ショタ長さん。今日も薬草を買い取って欲しいのだけど良いかしら? お金は後で良いわ」


「……お言葉に甘えさせてもらいます。救護班のみんな、追加物資が来たよ」


「ありがとうございます。これだけあれば……」


 マッシュに傘の中から取りだしてもらってギルド長に渡したんだけど、やっぱり足りてなかったみたい。


 持ち合わせすべてをショタ長に渡したら、すごい勢いで集まってきた薬剤師の人たちが奪い合うように持ち去った。


 王族の責任、なんて言うつもりはないのだけど、さすがに放ってはおけないわよね。


 さてと……。


「重体の人にはこっちを使ってくれるかしら。言うまでもないけど、絶対にバレない事。良いわね?」


 回復薬に加工した物を自分の体で隠すように持ってショタ長に押しつける。


 物を察してくれたのか、大きく目を開いた彼が、神妙な顔でコクリとうなずいてくれた。


「お心遣いに感謝致します」


 緊張した面持ちで回復薬を懐にしまい込んだショタ長が、近くに居たギルド員に指示を出す。


 どうやら重篤患者を別室に振り分けているみたくて、私たちの案内を別の職員に押しつけて足早に消えていった。


 そんな物々しい雰囲気の中で私たちが案内されたのは、机と椅子だけが置かれた小さな部屋。


 ここで待っていて欲しいと告げて、職員が去って行った。


 そうして待つこと10分くらい。


「ごめんね、遅くなって。作戦会議を始めよっか」


 心なしか顔色の良くなったショタ長が、ガッチリとした鎧を身にまとった大きな男性と共に部屋へと入ってきた。


 だけど、いきなりの事で連絡が不十分だったみたい。


 私たちの姿を流し見た男が、ショタ長に詰め寄って肩を強く握りしめた。


「おい、どうなってんだ。任務を共にする者が見つかったと聞いたからここに来たんだぞ!!」


「いや、だからね。彼女たちが――」


「ふざけるな! おまえは女や子供にこの任務をやらせるつもりか!?」


 顔を真っ赤に染めた男が、こめかみに青筋を立てて怒鳴り始めた。


「確かに人手は欲しいがな、死人は増やしたかねぇんだよ!!」


「大丈夫だって、本当に強いから。ね? 落ち着いて」


「バカも休み休み言いやがれ! 何が強いだ! 気絶魔女までいやがるじゃねぇか!! あの中で気絶したら即死だぞ、わかってんのか!!」


 今にも首を絞めさんとばかりに、男がショタ長に詰め寄っていく。


 彼の言葉をようやくすると、足手まといは連れて行けない、そんな意味みたい。


 だけど、その言葉の端々には私たちの安否を心配するような意図が見て取れた。


(あの骨折男と違ってバカではないみたいね)


 そうは思うのだけど、私やマリーはともかくとして、リリやエマを弱い者と決めつけているのは頂けないわね。


「ショタ長、悪いのだけど、私も他者の力量も測れない雑魚とは組みたくはないわよ?」


 ニヤリと挑発的な笑みを浮かべながらそう言葉にしたら、案の定、男の怒りが私に向いた。


「おい、そこの女。死なねぇうちに消えろ」


「あら? 顔に似合わずお優しいのね。だけど大丈夫よ。もしあなたに斬りかかられても、天才魔法使いのリリちゃんが返り討ちにしてくれるから」


「ぅぇ!? わっ、私ですか??」


 意味ありげなほほ笑みを浮かべてリリの両肩に手を添えたんだけど、リリは本気で驚いたみたい。


「大丈夫よ、リリなら勝てるわ」


「相手はAランクですよ?」


「あら、知り合い?? でも大丈夫よ。今のあなたなら楽勝ね。頑張れるかしら?」


「……はい!」


 視線の高さを合わせて問いかければ、戸惑いながらもリリが元気に応えてくれた。


 そんな私たちの様子に勢いをそがれたのか、どこがばつの悪そうな表情を浮かべながら男が頬をかく。


「……っち。それで? 何をどうしようって言うんだ?」


「そうね、まずは模擬戦かしら? こちらはリリ1人、って言いたいところなんだけど、さすがに魔法使い1人は厳しいのよ。盾役に私の召喚獣を1体。それでどうかしら?」


「……時間はねぇが、このままじゃそっちは引けねぇよな。わかった。どうせなら全員でかかってきても良いんだぜ?」


 腰に差した剣をたたいて男がニヤリと笑ってみせる。


 自信がありそうに見えるけど、それはさすがにリリをなめすぎね。


「そうね。もしも私たちが負けたら、薬草を100本プレゼントするわ。それでどうかしら?」


「薬草か、品薄の現状でどうやって入手するんだ? ってのも聞きたいが、可能だとするならそれは有り難いな。それで? 俺が負けたらどうするんだ?」


「……そうね。今回の依頼で獲られた報酬から1つを私たちにプレゼント。それでどうかしら?」


「いいぜ。1つと言わずに全部くれてやらぁ。ギルド長、いつもの場所借りんぞ。付いて来い」


 言うや否や、扉を蹴破らんばかりの勢いで、男が外へと飛び出して行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る