第32話 勢力争い

 いつものようにマッシュの背中に乗って街に行く。


 その予定だったんだけど、


「きゃっ……、!?」


 移動のために8体を同時に召喚したら、大きく目を開いたジニが尻餅をついちゃった。


「はち? はち……!???」


 予想以上のリアクションで、逆に私の方が驚いたわよ。


 やっぱり同時召喚ってそのくらいビックリするものなのよね。


 改めて思い知らされたわ……。

 

 そんなハプニングもあったんだけど、葉っぱに乗って少ししたらジニも落ち着いてくれたかしら?


 だけど、やっぱり沢山いるマッシュたちが気になるみたいね。


「姫様は最大で何体の同時召喚を?」


「最大、ねぇ……。ん~、まだまだ増え続けているのだけど、今は100体を5分が限界かしら? 私の魔力が持たないのよね」


「ひゃく……!?」


 思わずと言った感じでジニが天井を仰ぎ見る。


 考え込むように唇に指を当てた彼女の口から、ミリ様だけで1個大隊と戦える戦力が……、なんて声が漏れ聞こえた。


 ん~、まぁ、確かに数は同じなんだけどね。


「さすがにそれは無理よ。1対1じゃ勝てないわ。でも、あなたの稽古次第じゃ可能なのかしら?」


「……そう、だね。それがボクの仕事だった。了解したよ」


「えぇ、期待しているわ。よろしくね」


 私がそう言葉にすると、彼女は気合いの乗った表情で深く頭を下げてくれた。




 ギルドに入った私たちを待っていたのは、慌ただしく駆け回る職員と血相を変えたショタ長の姿。


 普段は彼1人しかいないギルド長の部屋が、今は職員らしき人たちで埋め尽くされていた。


 みんな、浮き足立っているわね。


 手紙を見た時点でわかっていた事態だけど、やっぱり面倒ごとみたい……。


「それで? なにが起きたのよ?」


 机にしがみついて書類と格闘するショタ長に近付いて声をかけたんだけど、持ち上げられた顔は予想以上にやつれてた。


 私の顔を見るなり大きく開いた彼の瞳にうっすらと涙がにじみ始める。


 そして、鼻をすすりながら彼が私の手を淡く握った。


「お姉ちゃん、助けて……」


 涙の奥には安心と希望の光が見て取れて、私の手にすがりつく彼は本当に追い詰められているみたい。


 瞳を閉じてふぅ……、って大きく息をした私は、彼のフワフワな髪に手を伸ばした。


「大丈夫。私はそのために来たわ。まずは状況を説明してくれないかしら? 出来るわよね?」


「うん……」


 視線を合わせて出来るだけ優しい声を心がける。


 こぼれそうになっていた涙をハンカチで拭ってあげると、彼は少しだけ持ち直したように見えた。


 目を真っ赤に腫らしながらも、そばに落ちていた紙を拾い上げたショタ長が、懇願するような上目遣いの視線を向けて私に手渡してくれる。


 ほんと、この子の見た目って反則よね。演技じゃない分、破壊力が増してるじゃない……。


 って、そんな場合じゃないわね。


「えっと、なになに? 私が見つけたダンジョンの攻略を国に押しつけられて、Aランク2人を送り込んだけど返り討ち。比較的軽傷だった方と一緒にダンジョンを攻略して欲しい。そういうことかしら?」


 中身を要約して問いかけたら、ショタ長の首がコクリと縦に振れた。


「討伐してるけど増える方が早い。このままじゃ周囲の村が全滅する……」


「だけど王族や貴族たちは動かない。勢力争いの方が重要だもんね、はぁ……」


 このままずっと放置ってことは無いと思うけど、誰の兵を派遣するとか、誰の指示でやるとか、そんな話で盛り上がっているんじゃないかしらね。


 ダンジョンを放置して骨折男の協議をやっている可能性もあるんだけど……、あいつらなら普通に有り得るのよね。


 あまり考えたくは無いのだけど、周囲の村が滅んで、この街が襲われてから出兵を決めるなんてこともあり得るわ。


「ほんと、貴族の責任ってのはどこまで散歩に行ったのかしらね……。敵は前回嫌と言うほど戦ったから良いとして、問題は一緒に行くAランクの人物ね。どんな人なの?」


「えっと、武器は大きな剣1本で、面倒見が良くて、頼れる兄貴って感じです」


 あにき、ねぇ……。Aランクなんだから強さは大丈夫だし、ショタ長の評価も悪くない。怖


 いのは私たちの情報が漏れ出る事なんだけど、それは会って確かめたらいいかな。


 さすがにあの骨折男みたいなやつは紹介しないと思うし。


「とりあえずはその人に会ってたいのだけど、どこに居るかしら?」


「ついさっき討伐から帰ってきたって話が上がってきてるから、武器の手入れ中だと思います。すぐに案内しても良いですか?」


「えぇ、よろしくお願いするわ。ついでに今までわかっている情報ももらえるかしら?」


「かしこまりました。よろしくお願いします」


 そういうことになった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る