第4話 常識を破り捨てる

 召喚獣がこの世界に居られるのは、1日8時間。

 それが神様の決めた宿命で、召喚スキルの弱さなのよね。


 制限時間内なら魔法や武力のスキルを超える事もあるのだけど、残りの16時間は恩恵が何も無いの。


 私の場合はその8時間内でも弱い、ってバカにされて居たんだけど、今なら三交代勤務で24時間体制に出来るわよね!?


 いつ命を狙われるとも限らない王族にとって、大きなアドバンテージじゃないかしら?


「スライムを倒すなんてすごいわ。さすがは私のマッシュね!」


「「「きゅ!」」」


 3体になったマッシュをなでていると、なんだか10票も不可能じゃない気さえするから不思議よね。


 それにしても、やっぱりこの子たちのプニプニは気持ち良いわ。


 程良い弾力で押し返して来るし、手に吸い付くようなモチモチだし……。


「ん?」


 なんて思っていたら、不意に右の膝がペシペシと叩かれた。


 どうやら犯人は、ナイフを持ったマッシュみたい。


 丸い手で、私の膝をプニプニしてる姿もかわいいね!


「どうしたの?」


 何かを伝えたそうに私を見上げたマッシュが、なぜかクルリと背を向けてトテトテと走っていった。


 だけどそれも数歩だけ。


 ホテホテ走って振り返り、ポテポテ走って振り返る。そんなことを繰り返していた。


「そっちに行きたいの? 良いわよ。それじゃぁ、みんなでーー」


「キュ!」


「え? ちょっと!」


 なにがあるのかわからないけど、行こうかしら。


 なんて思ってたら、1体だけで森の奥へと駆けて行ってしまった。


 姿が木々の影に隠れて、ガサゴソって動く音が遠ざかって行く。


「いっちゃったわね……」


「はい……」


「「きゅ~」」


 静かになった方向を眺めてマリーと共につぶやけば、大丈夫だよ~、とでも言うように、2体のマッシュが体をすり寄せてくれる。


 ここは人の手が入っていない、魔物が支配する土地。


 倒されてしまった召喚獣は、翌日になれば復活するんだけど、出来ることなら痛い思いなんてしてほしくないのよね。


「行くのならみんなで行けば良かったのに」


 やるせない気持ちが口をついて出ちゃって、隣にいるマリーが優しいほほ笑みをくれた。


「より多くを護衛として残したかったのではないですか?」


「……そうね。私の騎士としては合格かしら」


 友達としては一緒に行きたかったけどね。


 なんて思いながら待ち続けること、10分くらい。


 不安が徐々に大きくなり、マリーの表情も硬くなり始めた頃。


 不意に前方の茂みが大きく揺れた。


「キュ!」


 そこからひょっこりと顔を出したのは、先ほど走り去っていったマッシュ。


「「「キュ!」」」


 その背後に3体のマッシュ。


「……増えたのかしら?」


「「「キュュ!!」」」


 合計6体になったマッシュが、ポヨンポヨンって跳ねてた。


 召喚獣は1人1体。


 そんな常識を蹴破って、うちの子は6体に増えたみたい。


 だけどそれは、良いことばかりでもないのかも。


「このままじゃ、私の魔力が持たないわ。1度に5体が限界ね」


 意識しないと気が付かなかったけど、ちょっとずつ体内の魔力が減っていた。


 申し訳ない気持ちになりながらも1体には帰ってもらって、残る5体をぼんやりと眺めてみる。


 もしかするとまだまだ増えてくれるのかもしれないけど、今日はここまでね。


 焦りは禁物。


「マリー、城に帰ったら魔力増加トレーニングをしようと思うのだけど、付き合ってくれるかしら?」


「もちろんです。どこまででもお付き合いします」


「ありがとう」


 今後の目標は、マッシュたちの上限を見極めること。


 こんなことになるのなら、もっと真面目にトレーニングしておけばよかったわね。


 なんて思うけれど、図書室以外に居場所が無かったのだから仕方がないわよね?


「ん?」


 不意に感じたのは、ぷにぷにとしたマッシュの手先。


 視線を向けた先に居たのは、さっき走り去っていったマッシュと一緒に帰ってきた3匹だった。


「今度はどうしたの?」


 膝を折って視線を合わせると、彼らは傘の内側に手を伸ばして、ごそごそと何かを探し始めた。


「え? これって……」


 中から取り出されたのは、数本の草。


 葉はギザギザってとがってて、スーッ、っとした香りがする。


「薬草、よね?」


「はい。薬草だと思います」


 記憶を頼りに問いかけると、背後のマリーが同意の言葉をくれた。


 昔読んだ本には、煎じて飲めば体調を整える効果がある。良い値段で取り引きされるって書いてあった。


 そんな薬草を両手に握りしめて、合計6本の薬草を手渡してくれる。


「ありがとう、助かるわ」


 くれるみたいだから貰ったんだけど……。


「マリー。これはどうしたら良いと思う?」


「そうですね。調剤部に持ち込むと、没収されてあらぬ疑いをかけられるかと。ご自身でお使いになる分を除いて、城下町で売却されてはいかがでしょう?」


「そうよね。こんなのどこで見つけたんだ、って言われるわね。マッシュもそれで良いかしら?」


「キュ!」


 マッシュはどこまでも楽しそうに、ぷにぷにの右手を掲げてくれた。

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