落ちこぼれ達の下克上～死にたく無いから目立たせて頂きます！～

第3話 マッシュの生態調査

「本当に行かれるのですか？」

「もちろんよ。爺は焦るな、って言ってたけど、時間が無いのも事実だもの。それに、実体験は大事だって言ってたでしょ？」

「……かしこまりました」

「そんな顔しないでよ。私は大丈夫だから」

　マリーに着替えを手伝ってもらって、出来るだけ目立たない服に着替えていく。

　その目的は、マッシュの生態調査――

　なんだけど、王族の衣服に地味って文字は無いらしくて、背丈も似たマリーに服を借りたの。

「姫様、いかがですか？」

「んー……、そうね。私の服なんじゃないかな、って思うくらいピッタリよ。…………胸以外は」

　恐る恐る視線を下げれば、ぶかぶかに余った布が見える。

　指先で摘まんでみたらミヨンと伸びて、余計に悲しくなった。

　初めからわかっていた話だけど、詰め物をしても埋まらないだなんて、寂しすぎるわね。

「いえ、あの、えっと……」

　頬を赤く染めたマリーが、たわわな胸を隠すように身をよじる。

「申し訳ありません……」

　しょんぼりとした表情で紡がれたのは、謝罪の言葉。

　余計にむなしく感じるわね。

　毎日同じ物を食べてるはずなのに、どこで間違えたのかしら。

　私の方がいっぱい牛乳飲んでるはずなのに……。

　はぁ……、と心からの息を吐いて、私はクルリと背中を向けた。

「簡易のやつでいいわ。整えてくれるかしら？」

「……かしこまりました」

　戸惑い混じりの声で返事をされて、余った布が背中の方へ引っ張られていく。

　余分な布が見る見るうちに消えていった。

　あまっていた埋められない布が……。

「終わりました。いかがでしょう？」

「うん、大丈夫みたい」

　壁に埋め込まれた鏡に映る自分の姿は、どう見ても普通の街娘ね。

　ごまかした布の余りも、お姉ちゃんのおさがりを着ているみたいで、誰も王族だとは思わないでしょ。

　マリーとは同い年なんだけどね……。

　まぁいいわ！　私は大器晩成なんだから！　うん！　……うん。

「それで？　本当にマリーもついて来るの？」

「もちろんです。姫様の隣が私の居場所ですから」

「…………わかったわ。ありがとう」

　そうして再び鏡の前に立った私たちは、ヨイショって息を合わせて、大きな鏡を横にずらした。

　その下から現れたのは、地下へと伸びる緩やかな斜面。

　ヒンヤリとした風が、頬を撫でていく。

「ここを開くのもひさしぶりね」

「あのときは大変でしたね……」

　この道を見つけたのは5年も前のこと。

　マリーと2人でかくれんぼをしていたら、鏡にぶつかっちゃったのよ。

　そしたらいきなり動き出すんですもの。あのときは本当にびっくりしたわ。

「ミリ様、滑りやすくなっておりますので、ご注意を」

「わかったわ」

　ランタンを片手に進むマリーの背中を追いかけて、私も中に入って行った。

　小柄な私たちでも少し狭く感じるような穴をゆっくり進んでいく。

　途中にある分かれ道を右に進めば城下町に出るんだけど、今日の目的地は左側ね。

　そしてとうとう、左側の最奥に到着した。

「マリー、離れててくれるかしら？」

「かしこまりました」

　うやうやしくお辞儀をするマリーの横を駆け抜けて、行き止まりだった壁に手を当てる。

　ヒンヤリとした感触に気を引き締めながら、手のひらに魔力を集めた。

　ガコン、と音がして、目の前の壁が横に開いていく。

　ランタンの光をかき消すような強い光が差し込み、木の葉のざわめきが聞こえて来る。

「マッシュー、来てくれるかしらー？」

「「キュ！」」

　元気な声と共に魔方陣の中から飛び出してきてくれた彼らを先頭に、光の中に飛び出して行く。

　その先にあるのは、人の手が入っていないうっそうとした森。

　頭上のすべてが木の葉に覆われいて、太陽の光を遮ってしまっている。

「さてと、それじゃぁ、スライムを探すわよ？　倒せない敵が出てきたらすぐに逃げるからそのつもりでね？」

「かしこまりました」

「「キュ！」」

　さっきも言ったけど、やることはマッシュの生態調査ね。

　不安げなマリーとは対照的に、マッシュは元気いっぱいみたい。

　スライムを食べればもっと増えるのかしら？

　最初の検証は、そんな疑問からね。

　あまり奥まで進んで迷ってもイヤだから、通路の近くだけにしておこうかなー。

　なんて思っていたんだけど、近くの茂みがガサゴソと動いて、その影から1匹のスライムが飛び出してきた。

「向こうから来てくれるなんて、ツイてるわね。マッシュ、お願い出来るかしら？」

「「キュッ！！」」

　2人がそろって右手を掲げ、スライムを迎撃するためにポテポテと走り始める。

　右側を走る子が、いつの間にか、マリーのナイフを握りしめていた。

「キュ！」　

「キュキュ！」

　初めから役割分担でも決めてあったかのように、スライムの直前で2体が左右に分かれる。

　瞬時に方向を変えて、マッシュたちが同時に頭からスライムに突っ込んだ。

「ギュゥ……」

　聞こえてきたのは、断末魔のようなスライムの声。

　動きを止めたスライムを逃すまいとばかりに、マッシュの握るナイフがズブリと差し込まれた。

　攻撃力は無いなんて思っていたけど、あっけなく倒したわね。

　というか、ナイフ、扱えたなんて知らなかった……。

「お疲れ様、食べちゃって良いわよ？」

「きゅ！」

　トドメを刺した子が右手をシュタっとあげて、スライムに食らいつく。

　あの時と同じようにその子が光に包まれて、

「「「キュ！」」」

　合計3体になったマッシュが、楽しそうにプルプルの傘を震わせていた。