第51話 壁一面に
爺の言葉に若者たちが首をかしげる。
次いで聞こえてきたのはいら立ちの声。
「ふざけるなよ。平民姫の亡命で我が国が滅ぶ!? じじいの妄想に付き合ってる暇はねぇんだよ!! たった3人で何が出来るってんだ!!」
「ほっほっほ。それじゃよ」
「あ゛ぁ゛??」
「おぬしらの認識がその程度じゃから、ワシらがこうやって出てきたんじゃ。もう1度言おう。我が国の第2王女であさせられるミリアン・フィリア様を敵に回せば、王国は滅びる」
真剣な表情を崩さないまま、爺が1度言葉を句切った。
「姫様はいま、10体の召喚獣を呼び出された。御前試合では50体近く。そのお力で兵士たちを打ち倒された。果たしてその上限は何体なんじゃろうか?」
「それは……」
若者がなんとか言葉を紡ごうとするのだけど、肝心の言葉は出てこないみたい。
まぁ、当たり前よね。
だって、本人である私ですら知らないもの。
なんて思っていたら、爺の視線が私の方を向いた。
「ミリアン様。申し訳ないんじゃが、剣を持ったマッシュ様に出てきてもらますかな? 数はお任せしますぞ」
「剣の子? わかったわ」
この流れで50体じゃ面白くないわよね。
「マッシュー、出てきてくれるー?」
「「「キュ!!」」」
って事で、100体のマッシュに出てきてもらった。
部屋を囲うように壁に並んでもらって、みんなで一斉に剣を構える。
「ついでに短剣の子も出すわ。おいでー」
「「「キュ!」」」
50個くらいの小さな魔方陣を無造作に並べて、部屋の至る所から短剣を持ったマッシュに出てきてもらった。
剣100。短剣50。合計150体のマッシュが貴族たちを取り囲む。
「弓と杖も必要よね?」
ってことで、全員呼び出してみた。
いつの間にか、300体を越えてたみたい。
5分が限界だけど、余興には素敵じゃないかしら?
周囲を守っていた兵士たちが慌てて剣を抜いたのだけど、若手の貴族から制止の声が飛んだ。
「待て!! ……そのまま、待機だ。こいつらを、……王女様を刺激するな」
顔を青く染めた男の手足が恐怖に震えてる。
周囲にいる男たちも、ひきつった瞳を周囲のマッシュに向けていた。
「ほっほっほ。わかったようじゃな。じゃがのぉ、姫様はこれでも控えめに召喚されたようじゃぞ? こやつらは召喚獣じゃ。どれだけ倒そうが翌日には前線に復帰する」
爺が言葉を重ねれば重ねるほど、貴族たちの顔に緊張の色が増えていった。
短剣を片手にトテトテと歩くマッシュを見詰めて、誰かがゴクリと息をのむ。
「無限に増え続けるキノコ……」
そうつぶやいた誰かの声は、恐怖に震えていた。
「王家追放に成れば、この国はキノコに攻め滅ぼされる。キノコに埋め尽くされる……」
「そうじゃ、ワシらはそれを恐れておる」
全員がマッシュから距離を取って、身を寄せ合うように離れていった。
いやいや、さすがに国を埋め尽くしたりはしないわよ!!
なんて思ったのだけど、マッシュたちがこのまま増え続けるたら不可能じゃないのかしら?
マッシュ 対 国軍
……10,000体くらいのマッシュなら、勝っちゃうかもしれないわね。
「もう1度言おう。よく考える事じゃ。彼女にも王家の血が流れておる。心優しく、知恵も知識もある。今見たとおり武力もじゃな。国にとって何が最善かをもう1度考えることじゃ」
そう言って爺が部屋を出て行った。
その後行われた貴族たちの投票と結果の発表。
「ミリアン・フィリア。投票数268票。ミルヘルンの土地と、ミルヘルン伯の称を与える」
「謹んでお受け致します」
すべての兄弟たちを抑えて、私の投票数が1番多かったみたい。
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