第36話 さすがは王女
大いに盛り上がった模擬戦の後片付けを職員たちに任せて、Aランクの男と一緒に1度ギルドに帰る。
「はぁっ!? 王女!????」
「えぇ、第4王女のミリアン・フィリアよ。改めてよろしくお願いするわ」
「っぁっ、っ、は、はひ! よろしくお願い申し上げ奉りまする!!」
打ち合わせのために案内された小さな部屋の中で普通に普通に自己紹介をしたら、Aランクの男がガチガチに緊張し始めてしまった。
一緒に戦うのなら彼にも秘密を守ってもらう必要があって話したんだけど、ちょっと効き過ぎたみたいね。
さっきまで余裕はどこに行ったのよ……。
「ショタ長さん。悪いんだけど、彼にお茶をあげてくれるかしら? 話は落ち着いてからにしましょうか」
「うん、そうだね。そうしよっか。えーっと、お茶、お茶……」
ピヨンと椅子から飛び降りたショタ長が、パタパタと部屋の外に駆けていく。
結局は自分じゃいれられなかったのか、職員だと思われる女性が良い香りのするお茶を運んできてくれた。
心に染み渡るようなお茶をすすって、ホッと一息入れる。
「一応はお忍びだから、敬語は不要よ。むしろ普段道理が好ましいわね。出来るかしら?」
「……あぁ、了解した。気をつけまするる。……俺はムハン。先ほどは無様に負けたが、一応はAランクの冒険者ってことになっている。足を引っ張らないかが不安だが、案内役は出来ると思う。よろしく頼む」
「そんなに卑下する必要はないわ。あの火の玉を消したんですもの、頼りにしているわ」
「……そうだな。今回の失態は依頼中に挽回すると約束しよう」
私が右手を差し出したら、大きな手のひらで優しく握り返してくれた。
マリーにリリ、ジニが簡単に自己紹介をして、念のための釘を刺しておく。
「わかっているとは思うのだけど、私たちの事を流言しない方が良いわ。特に私に関しては簡単に死罪になるわね。知らない方が良かったって事も多いと思うのだけど、それでも良いのかしら?」
「無論だ。まずは周囲の村を救うこと、ダンジョンを封印すること。それ以外の面倒ごとは終わった後で悩むことにする」
「そう、わかったわ。それじゃ、行きましょうか」
聞けばダンジョンが出来た森の近くにある村の出身らしくて、今回の依頼に関しては特に強い思いで取り組んでいるみたい。
みんなで一緒にギルドを出る頃には、ギルドの職員や冒険者たちが表に集まっていて、この街を頼んだぞ、なんて言う温かい声に見送ってもらった。
南の門を抜けて人目に付かない場所で人数分のマッシュに出てきてもらう。
「これは……」
複数の召喚獣にムハンが大きく目を開いたのだけど、唇に人差し指を当ててウィンクしたら神妙な顔でうなずいてくれた。
「さすがは王女。そういうことか……」
マッシュの上に載せてもらって進む中でムハンが何やらブツブツと1人つぶやいていたのだけど、森に着く頃にはむりやりにでも納得してくれたみたい。
木々の隙間に大きな魔方陣を思い浮かべて、30体のマッシュに出てきてもらう。
いつの間に増えていたのか、このくらいならリンゴ無しでも大丈夫そうね。
「この前と一緒で4体1組で魔物退治ね。よろしくお願いするわ」
「「「キュ!!」」」
武器を掲げたマッシュたちが、木々の合間に消えていく。
そんなマッシュたちの姿にムハンが何かを言いかけたのだけど、結局は首を横に振るだけで何も言っては来なかった。
「さてと、私たちは敵の本陣に向かうわよ。ムハンもそれで良いわね?」
「あぁ、ダンジョンからあふれ出る魔物を止めるには、ダンジョンを攻略する事。それが最善だ」
「わかったわ。案内を頼めるかしら?」
「任されよう」
軽く胸をたたいたムハンが、木々の隙間を縫うように森を奥へと進んでいく。
マッシュに案内してもらっても良かったのだけど、彼の顔を立てた結果ね。
そうして見えてきたのが、あのときと同じ地下に続く穴。
「ムハン。敵はこちらで引き受けるから罠の類いをお願いしていいかしら?」
「わかった。全力を尽くそう」
マリー、リリ、ジニの順に視線を向けてうなずき合い、ダンジョンへと足を踏み入れた。
私たちが入った瞬間に、等間隔で設置されていた松明に火が入る。
足下から壁、天井までもがすべて石で覆われていて、空気がヒンヤリと湿り気を帯びていた。
どうやら遺跡型のダンジョンみたいね。
城にあった本には、迷路のように通路が入り組んでいる、って書いてあったのだけど……。
「ここからは全員に1体ずつマッシュを預けるわ。もしはぐれたらマッシュの案内で地上に帰ること。動けなくてもマッシュが無事なら居場所がわかるから、そのつもりでね」
松明のおかげで見通しは良いのだけど、何があるかはわからない。
それぞれのそばと、先頭を行くムハンのそばに盾の子を3体、左右と背後にも3体ずつを配置して、弓と剣の子にも来て貰う。
そんなマッシュたちに付随して何も持っていない子が2体勝手に出て来て、なぜかムハンの側まで走って行った。
これで合計39体。
外の子たちには一度帰ってもらったから、2時間くらいならリンゴなしで大丈夫そう。
「すげー数だな。敵の見落としの心配は必要なさそうだ」
どこかあきれたように肩をすくめたムハンが、剣を握り直して奥へと進み始めた。
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