第46話 強くなりたい
みんなで強くなる。
ただそれだけを目指した1週間は、あっという間に飛んでいった。
初日にマッシュたちが温泉を掘り当ててくれた事があったんだけど、それ以外はいつも通りって感じね。
そうして迎えた勝負の日。
御前試合と投票が行われる第1闘技場に入った私たちの周囲には、300人近くの人々がいて、独特の熱気に包まれていた。
闘技場の正面には王とその側近たちの姿があって、周囲の観客席を埋めるのは男爵以上の貴族たち。
「すごい人ですね……」
ちょうど第1王子が戦いの舞台に上がった直後らしくて、隣にいるリリの声も耳を近付けないと聞こえないくらいの盛り上がりね。
「普段はもっと多いわよ? 緊急開催の影響でしょうね」
「え……? これで少ないんですか?」
「えぇ、本来なら男爵以下は立ち見ね」
いつもなら今の倍ってところかしら。
慣れない雰囲気と大勢の貴族たちを前にして、リリの表情がこわばっていた。
「でも、大丈夫よ、リリなら出来るわ。あなたは私が見込んだ魔法使いですもの。そうでしょ?」
「……はい!!」
何かを振り払うように首を振ったリリが、優しくほほ笑んでくれる。
マリー、リリ、ジニ。
みんなで手をつないで、私たちは戦いの舞台に足を進めた。
選手用の通路を抜けるといつものように貴族たちのヤジが飛んでくる。
王家の面汚し。無能姫。追放王女。
だけど今日はそんな言葉たちに加えて、平民のくせにとか、すみっこ騎士、偽貴族、なんて言葉も飛び交っている。
それぞれがみんな私の大切な仲間たちに向けられた言葉。
(試合までは我慢よ。始まったらみんなまとめて黙らせてあげるわ。私の仲間たちは最高なの)
そう心に宿して、客席の顔を1人1人眺めていった。
貴族は平民より強い。
男は女より強い。
魔法を制御出来ないから弱い。
誰がそんなことを決めたのかしらね。
「私たちは勝つわ……」
そう口の中でつぶやいて正面の王を見る。
ふと周囲に目を向ければ、いつの間にか3人の王子と2人の王女が舞台に出そろってたみたい。
場所の広さは400人が両手を広げてもまだ届かないくらいで、それぞれが距離を取って準備を進めていた。
そんな中で王が席を立ち、声を拡散する魔石の前に立つ。
「戦いを始める。王の資質を見せてみよ」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
一瞬の静寂の後に会場が奮い立つ。
各陣営に着いた騎士たちが一斉に剣を抜いた。
周囲の貴族たちからは、面汚しをさっさと消せ!! 邪魔者から潰せ!! なんて声が飛び交ったりしているけど、王子も王女も私に興味はないみたい。
そんな中で最初に大きく動いたのは、第1王女のクリナだった。
「土の女神よ。私に鉄壁の力をお与えください。<クリエイト・ゴーレム>」
かわいらしい声で詠唱を始めた彼女の周りに石の壁が生えていく。
あふれていた魔力が膨らんでいって、彼女の騎士たちの周囲にも石の壁が建ちはじめた。
「……長男に動きなしか。レオ、まずはクリナを攻めるぞ!!」
「OK、兄さん!!」
そんな彼女目掛けて、同じ母を持つ第2王子と第3王子が同時に駆けて行く。
御前試合は共闘も買収もOKなバトルロワイヤル方式。
合わせて100人の男たちが、クリナの元へと向かっていった。
数だけなら共闘した仲良し兄弟の方が圧倒的に有利なんだけど、それだけじゃ終わらないのが王家の戦い。
「……っち。さすがに成長してやがるか……」
第2王子が彼女の元にたどり着く頃には、いつの間にか小さな城と呼んで差し支えない物がそびえ立っていた。
突撃の勢いを抑えて、兄弟軍が城を見上げる。
見る見るうちにクリナがいると思う建物が分厚い門に覆われて、4つ角にやぐらが現れた。
「これ以上増強される前に攻め滅ぼすぞ。着いてこい!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
第2王子が先頭に立って駆け出す先では、クリナの魔力が飛び回って空堀を作っていく。
城の踊り場には大砲のような物まで見え始めた。
放置すれば舞台すべてを覆るほどの堅ろうな城に成長するクリナの特殊魔法。
前回の御前試合で見た物と比べるとはるかに速いスピードで成長しているわね。
そんなクリナの城目掛けて先頭を走る第2王子が、空堀に近付き剣を掲げた。
「<雷鳴>」
激しい稲妻が周囲に走り、そびえ立っていた門がはじけ飛ぶ。
「レオ!」
「はい!! <シールド>」
降り注ぐ石目掛けて第2王子が両手を大きく広げ、自分の3倍はあろうかという大きな塊を魔力の盾で受け止めた。
少しだけ位置をずらして、空堀に放り込む。
「決まりましたね」
「えぇ、クリナの魔力が消えたわ。再起動には時間が掛かりすぎるでしょうし、それを許す兄弟じゃないわ」
もう少し時間をかけて成長出来ていれば、第2王子の攻撃も防げたと思うのだけど、作りかけの門じゃ防げなかったみたい。
城の一部が大きく破損したことで魔法が停止。
城の中からクリナの騎士たちが飛び出して兄弟軍に攻撃を仕掛けているのだけど、強力な攻撃魔法を持つ兄と変幻自在の盾を持つ弟2人相手には分が悪いみたい。
数で負けて、頼りの魔法も封じられたクリナは、このまま攻め込まれるのを待つだけでしょう。
「けどね。2人がかりで乙女をいじめるのはどうかと思うのよ」
壊れた城とそれに群がる男たちを眺めながら、私は小さくほほ笑みを浮かべた。
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