第13話 矜持
「あれ、風祭さん。ゆうくんに何か用?」
「わ、私が入ろうとしている部活に偶然にもゆうちゃんが所属していたので、詳しく話を聞こうと思っただけです! それに、調子悪いって」
「偶然? 事前に調べておいたんじゃないの? あとこの通りゆうくんはピンピンしてるよ」
「ほんっとうに偶然なんです!」
「あ、そう。でもちょうど良かった。風祭さんに言っておきたいことがあったんだよね」
光里の目が完全に据わっている。雰囲気的にかなりヤバめ。今にも殴りかかりそうだ。
光里が早まった行動に出ないよう、いつでも押さえつけられるように注視する。
「なんですか?」
「学校でゆうくんに迷惑かけるの、やめてもらえないかな? 朝から見てたよ。分からない? ゆうくんが、波風立たない平和な学校生活を望んでることを。風祭さんみたいな目立つ子が、他の子と仲良くしようとせず、ゆうくんとだけ絡む。風祭さんからすればそうするのが当然かもしれないけど、ゆうくんは違うんだよ。男子の嫉妬、クラス全体でのイジリ、そういうのがストレスになっちゃう。だからわたしは、学校ではゆうくんと関わらない。わたしは、わたし自身が魅力的で、影響力があることを自覚しているから」
握り込んだ拳は小刻みに震えている。
光里はずっと我慢してくれている。俺に迷惑をかけないために。それだけじゃなくて、自分のコミュニティの立場を守るためっていうのもあるかもしれないけど。
光里に射すくめられた風祭は、その迫力にたじろぐも、数瞬後には光里をにらみ返し、言い放った。
「自分が関わりたい人と関わって何がいけないんですか? 光里さんの一番大切なものは何ですか? 自分のクラス内の立場ですか? ゆうちゃんのクラス内の生活ですか? 私は、ゆうちゃんとの時間が、何よりも大切です。一番だと言い切れます。時間は有限なんです。大切じゃないものまで全部守ろうとしたら、時間が足りません。ゆうちゃんのクラス内の立場についても、解決策は見えています。ゆうちゃんが、クラス内の立場とか、平穏な学校生活とか考えられないくらいに、私に夢中にさせればいいだけの話です。ゆうちゃんの一番大切なものに、私がなればいいんです。それだけです」
よく見ると風祭も足が笑っている。脂汗をかいているところを見ると、相当無理をしているようだ。
言ってることはめちゃくちゃだ。エゴの塊。自己中の極み。説得力なんて皆無なはずなのに。
なのに、どうしてこんなにも、眩しく見えるんだろう。
無理をしてでも言い切ったその姿に、惹かれるのはなぜだろう。
風祭なら、本当にやってのけてしまいそうだな、と思わされてしまった。思わされちゃダメじゃないか俺。特に後半部分。
光里もあまりの内容に拍子抜けしたのか、怒りのオーラが消え、口が半開きになっている。
光里と風祭はしばらく見つめ合った。先に目をそらしたのは、光里。
「できっこない。そんなこと。これから先、風祭さんは今の態度を続けていたら、クラス内で孤立して、孤立している自分に耐えられなくなる。ゆうくんの一番になることだってできっこない。ゆうくんの中には、まだ好きな人の影が
残ってるもの。無理だよ。夢物語だよ」
「諦めませんよ私は。欲しいものは全部手に入れます」
弱気になってきた光里とは対照的に、語気が強くなる風祭。
完璧超人、常に余裕を振りまいている光里。
周囲の目をうかがい、縮こまり、自信なんてひとかけらも無さそうな風祭。
二人とも、別人に見えた。
「わたしだって、ゆうくんのこと、諦めてないもん。とにかく、これ以上、ゆうくんに迷惑かけないでよね」
光里は言いながら、そそくさと部屋を出て行った。俺たちに目もくれずに。
逃げるように去った光里は、唇を強く噛みしめているように見えた。
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