第20話 危なっかしいから

「だって、危なっかしいから。見てらんねえよ」


 そうこれはあくまで幼なじみとして、だ。他意は無い。俺が好きなのはバベルさんだけバベルさんだけ。


「ゆゆゆゆうちゃん、ついにその気になってくれたんですね!?」

「違うわ。ほ、ほら、昔と同じだよ。なんでかほっとけなくて、仕方なくこうやって手引いてるだけだ。それだけだ」

「それでもめちゃくちゃ嬉しいですけどね私は!」


 急に元気になって、俺の手を握り返してくる。さっきまで寝てたせいか、ポカポカと温かい。


「こういう時だけだからな。登下校の時はしないからな。これに味を占めて仮病使ってもダメだぞ」

「ゆうちゃんはエスパーですか?」


 考えなくともそれくらい分かるわい。お前の行動原理は単純明快で読みやすいからな。


「てかもう目バッチリ覚めてるじゃないか。手、繋ぐ必要ないな」


 容赦なく手を離す。直後、風祭が再び手をつなごうとしてきたので、避ける。追ってくる。逃げる。

 結局、家に着くまで風祭に指一本触れられないよう追いかけっこしたのだった。風祭の尋常じゃない行動力を封じるためには、こちらも相応の行動力を発揮するしかない。

 二人してハアハア吐息を吐きながら膝に手を置く。


「そ、そんなに私と手つなぐのが嫌ですか? ふぃ、ふぁ」

「はあ、ふう、て、手はな、好きな女と子のつなぐもんなんだよ」

「くっ、はぁ、負けませんよ私は、いつか必ずゆうちゃんの好きな人に、っはぁ」

「と、とりあえず、今日は、お疲れ、今後は特訓方針変えて、もっと、お前が楽しみながら作れるような構成にするから、か、覚悟しておけ」

「た、楽しむ覚悟ですか」

「そうだ、楽しむことが上達の近道だ。今日はそれを蔑ろにしていた。すまん。まずお前に作る楽しさを、演じる喜びを教えてやる。これから諸々の負担を考えて、アサシンの家に行くのは週一、土日のどっちかに絞る」


 お互いようやく呼吸が平常時に戻ったため、両家の狭間で立ち話。汗をかいた状態で、クリーム色のブレザーを脱いだせいで露わになる透けてそうなナニカは見ないよう極力意識しつつ。


「了解しました! ところでゆうちゃん、亜佐美さんの部屋にはよく行くんですか?」


 後半だけ声音変えてくるのやめろ。怖いだろ。光里を彷彿とさせて。鮮やかすぎるんだよ武器を切り替えるタイミングが。


「一年前はよく行ってたな。最近はめっきり行かなくなったけど。そのむくれ顔を見るに変な勘違いしてるな。アサシンは純粋に創作仲間だ。きっと、最初から最後まで」

「ゆうちゃんはそう思ってるかもしれないですけど、亜佐美さんの方はどうでしょうね」

「は? ないない。あいつ、俺に対してとことんフラットで、興味ゼロだから」 

「どーだか」

「説得力のある話してやる。あの光里が、俺とアサシンの関係を認めてるんだ。シロだと。完全に友人関係だと」


 風祭は驚きのあまり、のけぞった。人がのけぞるとこはじめて見た。


「ええええ!? あの光里さんが!? にわかには信じられません」

「嘘じゃないぞ。本人に聞いてみれば分かる」

「はぁ。あの光里さんが。じゃあほんっとうにゆうちゃんと亜佐美さんは友人関係なんですね」


 納得していただけたようだ。流石光里。常軌を逸した愛ゆえの説得力。


「だから俺たちを失礼な目で見るんじゃないぞ」

「りょーかいです」


 じゃ、おやすみ、と別れの言葉を交わして帰宅する。

 中々身のある一日だったな。充実感を感じてしまっているのが悔しい。結局俺は、コスプレから離れられないのか。

 考え事をしていたから気づかなかった。

 両親は光里に金を握らされたため旅行中。家主は俺。なのに既に家に明かりが点いている。

 リビングのドアを開けた時にその事実に気づいたため、もう遅かった。

 空き巣? 不審者? それらの疑惑は一瞬で消え去った。


「おかえり、ゆうくん。遅かったね。なに、してたのかな?」 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る