第3話 修羅場注意報

 おかしいな。玄関の外にいるはずなのに、なぜかすごくクリアに声が聞こえる。

 ダッシュで玄関口へ向かうと、令嬢コーディネイトをバチバチに決めてきた光里が、既に戸を開けて中にいた。


「おい。ついに金にモノを言わせてうちの玄関ピッキングしたのか」

「ううん。先日ゆうくんのご両親には許可取ったよ。光里ちゃんなら別に合い鍵作ってもいいよって言ってもらえたんだ〜」

「うちの両親とてそこまでモラルの欠けた行動はしないはずだ。そういえば昨日から二人して有休とって一週間旅行いくって言ってたけどまさか」

「何のことだろうね〜。そういえば私、ゆうくんのご両親の前で、ちょっと財布の紐が緩んじゃったような気がしなくもないかも」

「なんだかんだそうやってタネ明かししてくれる点は評価しよう。でも金で買収するのはいただけない」

「私、使えるものは全部使ってゆうくんを手に入れる所存なので、そこのところヨロシク〜」

「よろしくしません」

「で、ゆうくん。私、見ちゃったんだけど。女が、ゆうくん一人しかいないはずの家に入っていくのを」


 女、って言い方、ホラー味あるな。何かの作品とかでこういう台詞が発せられると、もれなく修羅場モード突入でスプラッタ展開不可避みたいな。

 ここで下手に隠そうとするとさらにこじれるので、正直に伝えよう。


「それなんだけどな。光里には話したことなかったけど、実は」

「ちょっと待って。視線を感じる」


 戦闘民族みたいなことを言い出した光里は、眼球を高速移動させた後、一点へ視線を固定させる。

 果たしてそこには、リビングのドアの隙間から片目だけでこちらをのぞいている風祭がいた。

 何という気配察知能力。ここがホラー、あるいはギャグ時空だったら、光里はナイフあたりを瞬時に抜き放って飛びかかっていただろう。


「ゆうくんに、ついに変な虫がついたようだね。フフフ。あなたはだぁれ?」

 

 だぁれ、の部分がやたらねっとりしてて、半月形に細められた目といい、もうとにかく怖い。ここ、ホラー時空じゃないよね? 大丈夫だよね? トマトジュース的なのが吹き出したりしないよね?


「わ、わたしは、ゆうちゃんの幼なじみです。あなたこそ誰ですか? もしかして。ゆうちゃんの好きな人って」

「いや、それはちが」

「そう! 私こそ! ゆうくんの想い人で、あなたよりゆうくんと付き合いが長い真・幼なじみで、なおかつ将来を誓い合っている仲!」

「や、やっぱり!」


 ここぞとばかりに胸を張り、俺の腕をとってアピールする光里と、膝から崩れ落ちる風祭。会わせちゃいけない二人だったわ完全にこれ。


「ちっげえよっ! 色々間違ってるよ! こうなったら仕方ねえ。誤解解きたいし三人で話すぞ。リビングでな。あと光里は腕放せ」

「やだ」

「やだじゃない」

「やだやだ」


 イヤイヤ期の子どもかお前は。


「わたしも!」


 凄まじい早さで俺に肉薄し、反対の腕に飛びつく風祭。

 豊かな胸部が押しつけられ、心臓が跳ねる。むにゅっとしてます。むにゅっと。

 そんな俺の心の動きを読んだのか、光里は無表情で俺を見つめてくる。

 色んな意味で心臓が保たない。 

 二人の隙を突いて一気に腕を引っこ抜く。

 拘束から解放された俺は二人の背を押してリビングに押し込んだ。   

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