第4話 俺の幼なじみと幼なじみが修羅場すぎる

 俺の右となりに光里。左となりに風祭という配置に。もちろん俺の希望ではない。


「皆さん、お集まりいただき、誠にありがとうございま」

「ゆうくん、そういうのいいから」

「緊張してんだよ。お前の殺気がすごいから」

「殺気なんてそんな。ただゆうくんへの愛が抑えられず溢れ出ちゃってるだけだよ」

「言い得て妙だな。その愛とやらが殺気という形で漏れ出てんだよ。じゃあもう軽くいくぞ軽く。別に重い話じゃないし」


 まず左となりの風祭の方を向く。


「風祭。こいつの名前は光里。時期的には、お前が引っ越した後、俺の隣に引っ越してきたのかな。まあそれから家がお隣さんってことで何かと付き合いのあるやつだ。ただ、友達付き合いみたいなもんで、さっきも否定した通り俺の想い人じゃない。そしてもちろん将来を誓い合ってもない。ここまでは大丈夫か?」

「ええ。光里さんが虚言を吐き、わたし相手にマウント取ろうとしてきたということはよく分かりました」


 俺越しにジト目で光里へ恨めしげな視線を送る。

 その視線を受けて尚、余裕の笑みを崩さない光里は、なぜか俺の頬をぷにぷに突っつついてくる。


「実は虚言を吐いてるのはゆうくんの方だったりして? 私と実はもう婚約までしてるのにしらばっくれてるとか?」

「そうなんですかゆうちゃん!?」

「光里。これ以上事態をややこしくさせるな。流石の俺でもそろそろキレるぞ」

「はいはーい。ごめんねー冗談だよー」


 手をグッ、パー、グッ、パーと握ったり開いたりしながら笑っている。こいつのこういう部分をどうにかしなきゃいけないと常々思っているのだが、俺と親しい女子以外には天使のように優しく完璧に振る舞うので難しいところだ。

 今度は右となりを向く。俺が向き直るなり両腕を扇のように開いてハグを要求してきたが当然スルー。

 しかしスルーすることを予想していたのか、そのまま俺の方へ身を寄せ強引に抱きつこうとしてきた。

 と、そういう行動をとるだろうと俺は予想していたため、光里のおでこを抑えこれ以上近づかせないようにする。


「なんで?」


 笑顔のまま疑問を呈してくる。この図太さがあればどこでも生きていけそうだな。見習いたくない。


「逆に、なんで? だわ」

「小さい頃、よくギュッてしてくれたのに〜。あの時の感覚が忘れられなくてさ〜いいじゃ〜ん」

「よくねえよ何年前だと思ってんだ」


 こいつが引っ越してきてから一年間ぐらい、俺は確かによくハグしていた。

 よく、泣いていたから。抱き締めてやると、泣きやんでくれたから。


「わ、わたしだって、一緒にいるときはずぅっと手握っててくれましたっ」


 それも覚えてる。目を離すとすぐ転んだり迷いそうになったり、とにかく危なっかしかった。

 そうだ。二人ともベクトルは違えど、危なっかしくてしょうがなくて、つい構ってしまっていたんだ。

 張り合おうとする風祭。余裕ぶっているが目元がヒクついている光里。

 最低限の情報は伝えた。これ以上同じケージに入れておくとお互い噛み合って血塗れになりかねないから早く離さないと。そう、動物と同じで、相性を見つつゆっくり慣れさせていくしかないのだ。なんで飼い主みたいな考えになってんだ俺。


「もうこの話終わり! 今日のところは解散ってことで! 気いつけて帰れよ! じゃあな!」


 二人の手を引いて玄関まで移動させる。口で言っても動かないだろうから強行突破だ。

 光里がにぎにぎと、握った手に力を入れたり抜いたりしてくるが対応せず、やたら嬉しそうな顔をしている風祭の方を極力見ないようにしつつ歩く。

 有無を言わせないため、玄関の段差に腰かけてもらい、俺が二人に靴を履かせる。


「お姫様気分味わえて満足。強引な王子様もまた良し」

「毎日ゆうちゃんに靴を履かせてもらいたいです」

 頬を赤らめる二人を急かし、外の世界へ放つ。

「お疲れ! 二人ともまたな!」


 玄関の戸を閉めたところで、ようやく一息つく。

 ごり押しで二人を追い返すことに成功。非常に疲れた。

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