第5話 特定しますた

 リビングに戻って、ソファに寝転がってスマホをいじることによりようやく精神が平常時に戻る。

 光里の態度が過激なのはいつものことにして。いやいつもじゃないな。特に激しかった。それだけ光里にとって風祭の存在は脅威だったと言える。風祭の豊かな胸部を親の仇のように見てたし。


 しかし、隣に引っ越してきたのが、風祭だったとは。当時は伊吹って名前をもじって、いぶきっちょとかぶっきーとか呼んでたな。途中から普通にイブキ呼びになった気がする。

 衝撃的な再会の仕方だったから他のこと考えてる余裕なかったけど、再会自体は普通に嬉しい。夏休みは毎年海に行ったり山に行ったり遊んだな。別れの時は泣きじゃくりながら抱き合った気がする。まだ、男女の壁を意識していないような年頃だったからこそだな。


 マンガやアニメみたいに、特別な約束とか、印象的なエピソードとかは特にない、ごく普通の友人関係だった。風祭が言ってた一生手下だのなんだのは子どもの戯れ言なのでノーカンで。

 バタバタしてゆっくりと話せなかったから、明日以降、光里に捕捉されないように接触したいところだ。そういえば連絡先まだ交換してなかったな。


 だらだらとそんなことを考えながらSNSアプリを開くと、ダイレクトメッセージ通知が目に飛び込んでくる。

 珍しいな。DM届くことあんまりないんだけど。


 メッセージを開くと、『ゆうちゃん』という単語が見えて心臓が跳ねる。おいおいまさか。

 メッセージを送ってきていたのは、最近SNS上で仲良くなった新人コスプレイヤーの『風の息吹』さん。風祭と再会した今となってはこのユーザーネームがかなり本名に近いことが分かる。

 いやなんで俺だって特定されてるんだこえーよ。アカウントは鍵付きで学校での人間関係用に一つと、昔使ってたのが一つと、趣味用のが一つあって、DMが届いたのは趣味用のアカウント。個人情報漏れないよう気を付けてたのに。

 メッセージの末尾にはチャットアプリの連絡先が添えられていた。早速連絡してみよう。


『なんで俺のアカウント特定できたんだよ』

『再会した幼なじみに最初に送るメッセージがそれですか!? もっとこう、ないんですか!?』

『ねえよ特定されたことによる恐怖が真っ先に襲ってきたよ』

『特定材料は色々ありますよ。ゆうちゃん五年前からあのアカウント運用してますよね? 最初の呟きから一つ一つ情報を精査して組み合わせていけば難しいことじゃないです。ゆうちゃんだと思われるアカウントを絞り込むのが一番大変でした』


『どんだけ時間かけたんだよ』

『半年くらいですかね? 案外早く特定できました』

『こええええ。連絡先知りたいんだったらもっとやりようはあっただろ』

『ゆうちゃんの何気ない呟きが見たかったんですよ。あとこうやって急にDM送りつけて驚かしたかったっていうのもありますけど』

『こっわ。リア友にこっちのアカでの呟き見られたくないからブロックするわ』

『無駄です。また特定します』

『有言実行しそうで怖い。どう足掻いても逃げきれないのか』

『逃げるんじゃなく受け入れましょう。わたしはプライベートも何もかも全部、ゆうちゃんと共有できる準備整ってますよ』


『整えなくていい。そこまで共有する気ないから。つか通話しないか? チャットはまだるっこしくてあんまり好きじゃない』

『では、明日直接会って話しましょう。実は家族より先にわたしだけこっちに来たのでやること溜まってて』

『そうなんだ。分かった。明日、何時にどこで話す?』

『秘密です』

『なんじゃそりゃ』

『明日になれば分かります』


 アニメキャラが、じゃあね! と言っているスタンプが送られてくる。

 明日になれば分かる? そこはかとなく嫌な予感がするなぁ。 

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