第16話 受難の日々の幕開け
「え!? あんなに渋ってたのに! ほ、ほんっとに!? 付き合ってくれるんですか!?」
「お前が自分のコスプレに納得いくまでな。他の意味は一切ないからな」
「この勢いで男女交際的な意味での付き合ってに発展させようと思ったのに〜」
「お前正直すぎるだろ。本音はある程度隠しとけ。実生活でも」
「善処します。やった、やりました! ゆちゃんの協力をとりつけることができましたぁ!」
はしゃぎながらベッドの上に立ち、ピョンピョン飛び跳ねる。制服のスカートでそんなことするものだから、真っ白な太股や、その付け根付近に存在するであろう布が見えそうになっている。風祭が他の女子生徒みたいに規定より短くスカートを穿いてなくて良かった。光里くらいの短さにしてたらモロ見えだった。
「おい! パンツ見える! 跳ねるのやめろ!」
「べ、べべべ別にゆうちゃんに見られるなら」
「無理すんな顔真っ赤だぞ」
「無理してないです!」
そんなわけで、風祭にコスプレのイロハを叩き込むことになってしまった。
「おはようございます、師匠!」
ローファーを履き、玄関を出ると、満面の笑みの風祭が、そこにいるのが当然とばかりに自信満々、胸を張って立っていた。
「その呼び方はやめろそれに何でまた待ち伏せしてるんだ」
「じゃあ呼び方ゆうちゃんに戻しますね。言ったじゃないですか。毎朝一緒に登校しましょうって」
「俺、了承してないんだけど」
「まあまあ。減るもんじゃないですし」
「減るんだよ周囲からの好感度が!」
「でも私の好感度は爆上がりですよ?」
「別にそっちは上がらなくてもいいんだよ」
「傷つきました。責任とって慰めてください」
「はいはい。くだんねーこと言ってないで行くぞ」
風祭の横を通り過ぎ、通学路へ。
「え!? 一緒に登校しちゃっていいんですか!?」
パタパタとやかましく靴で地面を蹴りながら俺の横に並ぶ風祭。
「妥協する。だってお前、退かないだろ。俺が何言っても。置いてったら全力で着いてくるし。もう昨日で学んだ」
「押しが弱いですねぇ。そんなんじゃ悪い女の子に押し切られちゃいますよ?」
「お前それブーメランだって分かってて発言してるんだよなそうなんだよなギャグなんだよな」
「どういう意味ですか!?」
こいつ分かってないな。
まあでも、ほんっとうに拒絶しようとすればできるはずだ。それをしないのは、俺自身が受け入れている部分があるわけで。
あくまで幼なじみとして接する。その線引きはきちんとしないと。
にしても厄介な幼なじみを弟子にしてしまったものだ。また校門前事件を繰り返さないよう、穏便に学校前で風祭と離れないと。
結果的に説得には成功した。
俺が手に入れた交渉材料。コスプレ。稚拙な手だが、言うことを聞かないとコスプレ講座しないぞと脅したところ、泡吹きそうになるまでもがき苦しんだ後、息も絶え絶えに了承した。
その決定に、俺は、本来の意味とは違う意味で、嬉しくなった。風祭は、コスプレの方を優先したのだ。
よし、今日の部活では気合い入れて指導するとしますか。どうやって教えるか考えておかないと。
「ゆうちゃんゆうちゃん! 楽しみですね、今日の部活! 私、待ちきれないですよ! 昼休み家庭科室行きません?」
「行かねえよ」
そうだった。風祭が隣の席になったこと、忘れてた。
教室に入ったときから、あれお二人さん今日は追いかけっこしないの〜とかくっそむかつく声のトーンで言われるし、今だって俺たちの周りだけクレーターができたのごとく穴のように空間が空いている。別にさ、友達沢山作ってリア充ライフ送るぜ、とかは考えてなかったけど、クラス内で絡める知り合い皆無なのは流石にキツい。あ、あの声がデカい二人組はノーカウントで。
リアルに頭を抱えていると、ポケットの中のスマホが震えた。
『また一緒に登校してたでしょわたし知ってるよ?』
拝啓母さん。学校生活、苦しいよ。何とかしてよ。母さん。母さーん!
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