第17話 コスプレスケジュール
光里からの怒濤のメッセージを捌きつつ、同時に襲い来る視線オブ絶対零度から目を逸らしつつ、風祭からのウザ絡みをいなしつつ、迎えた放課後。
帰りのホームルームが終わった瞬間、涙が出そうになった。ようやく俺の平穏が訪れる。教室は未だ戦場だ。
「さあさあ行きましょうゆうちゃん部活部活部活部活ぅ! いえーい!」
「お願いだから静かにしてくれ」
もう嫌じゃ。我、嫌じゃ。クラスメートからの視線もさることながら、何より光里の蛇のような目つきがキツいんじゃ。
風祭を引き連れて早足で教室を出る。早く我が安息の地へ。
家庭科室では、既にアサシンが針と糸を操っていた。この安心感よ。誰よりも早く、一人静かに縫い物をするその姿は、疲弊した俺の心を癒すのに十分なものだった。
「アサシン。女神よ。救世主よ」
「なに。矢車くん。そんな泣きそうな顔して」
「あまりにお前の姿が神々しくてな。ずっと、そのままのお前でいてくれよ」
「変なの」
こちらへ目もくれず、流れるような動きで細かいパターンを刻んでいく。その腕前は俺に匹敵する。今度共作したい。服以外のものを。
「と、アサシンが俺の心の癒しというのは置いとくとして。話したな。俺が服作れること。風祭に」
「隠してたの?」
しらばっくれやがって。断片的に事情、知ってるくせに。
「意地悪な奴だ」
「自分では優しい方だと思ってるんだけど。風祭さんに話したのも、矢車くんと風祭さん、双方にメリットあるだろうな、と思って」
「余計なお世話だっつの」
「そ」
アサシンは気配を引っ込め、作業をする機械と化した。雰囲気で分かる。集中モードに入った。もう話しかけても一段落するまでは応えないだろう。
「ゆうちゃん。亜佐美さんと仲良いんですね」
教室でのテンションが嘘のようにどよーんと低い声で責めるようにそう言う。喜怒哀楽ハッキリしすぎだろ。
「普通だよ」
「いいえ。熟年夫婦のような匂いを感じます。くっ、人間的な相性が良いということですか。厄介な」
「変な妄想すんな。部活やるぞ部活」
「はい! 早速作りましょう!」
「待て。その前に予定を立てよう。どのコスプレイベントに参加するか、どんな衣装を作りたいか。目的が決まっていた方がやる気でるし、計画的に物作りができる」
「それもそうですねー」
木のテーブルを挟んでお互いスマホのカレンダー帳を表示させる。
風祭のカレンダーには、いくつもイベントマークがついていた。
「そのマーク、もしかして全部コスプレイベントか?」
「はい! 電車で三時間範囲内で行ける場所のイベントは全て網羅してます!」
「やるな。で、一番行きたいイベントは?」
「もちろん、私たちの祭典、マンガマーケットです!」
注目度、規模が段違いのイベント。。年に二回の祭典。コスプレ好きなら行かないテはないだろう。
「ま、そうなるわな。夏マケは約二ヶ月後。イチからメイク、衣装作りの技術を身につけるんだから、今から相当頑張らないと。モチベーションの維持のためにも、夏マケ前に一個イベント挟んでおきたいな。とするとこのショッピングモールのイベントが時期的にも良さそう」
「ゆ、ゆうちゃんが頼もしいです」
「やると決めたからには全力で、だ。このスケジュールでいいか?」
「異論ありません!」
風祭は早速、一ヶ月後と二ヶ月後にある二つのイベントだけを残し、他のマークを削除する。
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