第8話 マズイところを見られてしまった
「矢車、お前朝から面白いことしてたなぁ! あれ誰だよ。遠くからじゃあんまり見えなかったけど、女子に追いかけられてたことだけは分かる! 何やらかしたんだよぅ教えろよぅ」
「拙者見たでござるよ。ぬしを追うおなご、胸部に禁断の果実を宿していたでござる! 羨ましいでござるよぉ!」
「なにぃ!」
「しかも低身長でござる! ロリ巨乳属性の持ち主でござるよおっほう!」
「オレのストライクゾーンのど真ん中じゃねえか! くぅぅうう! その子の名は!」
「名は!」
うっとおしい二人組に絡まれた。助けてくれ。こいつら無駄に声デカいせいでクラス中の女子からゴミクズを見るような目で見つめられてるんだが。
ある程度こうなることは覚悟していた。聞き耳立ててるやつも多いし、皆気になってるだろうな。マジでここからは慎重に動かないと。
傷を浅くする方法その一。正直に話す。
「すぐ分かるよ。今日うちのクラスに転校してくるんだと。急なことで通達とか諸々遅れたらしいからお前等が知らないのも当然だ」
「なんで矢車がそれ知ってるんだよぅ。朝の追いかけっこといい、その子と何かあんだろ?」
「揉みしだいたでござるか? あの推定Fはありそうなボゥルを既に揉みしだいたでござるか?」
エセ忍者そろそろ黙れ。先生が来るまでいつも付けてる額当てで口塞ぐぞ。
「あー、昔、俺の家の近くに住んでたやつでな。要は知り合いだ」
「顔見知りかぁいいなぁ。大きくなって再会とかけしからん」
「エロゲシチュエーションでござるぅ! それ絶対、成長した彼女にドキッ、ヒロイン側も昔から相手に好意を寄せていたってパターンで間違いないでござるぅ! 死すべし矢車」
エセ忍者。何気に真実を言い当てるんじゃない。
「ゆーて幼稚園とか、その辺で引っ越しちゃったからほとんど覚えてないって。お互い名前認識してるくらい。お前等が思ってるような仲じゃないぞ」
傷を浅くする方法その二。真実に微量の嘘を混ぜ込む。
これ以上何か話すとボロが出そうだったので、二人組から離れ自分の席へつく。
風祭にメッセージ送っとくか。クラスでは俺たちは知り合い、名前を認識してる程度の仲で通すぞ、っと。
肩掛け鞄から教科書、ノート、文房具を出して机に突っ込み、鞄を机の側面のフックにかける。
ようやく一息つけた。自分のスペースが一番落ち着くなぁ、と、思いたかった。
俺の隣の席は、何の因果か光里なのだ。何気に隣の席になったのは今回がはじめてで、光里は大層喜んでいたのだが。
オーラ、圧、そういうものって感じることができるんだと、肌で実感した。 光里はこちらに背を向け、クラスの人気者たちで輪を作って冗談を言い合いながら笑っていた。至って平凡な、これまでに何度もあった平和なワンシーン。なのになぜだろう。光里の背中に鬼面が見えるのは。光里が片手でスマホを操作し、『一緒に登校ずるいさっきの追いかけっこ何あとでたっぷり説明してもらうからそれにうちのクラスに転校って何聞いてないんだけどねえねえねえ』というメッセージを送ってきていたから、そういう目の錯覚を起こしてしまったのかもしれない。いや怖えよ。ねえ、をそんなに多用する必要なくない? ねえねえねえ。
『後、廊下の窓から見えたよ。一瞬、手、つないでたよね、あの子と』
リアルに悲鳴が出そうになった。確かに俺は不覚をとって風祭に数秒手を握られた。それを目撃されていたとは。そういや光里、視力二・〇以上あるって言ってたな。
光里の片手はまだ高速で動いている。これ以上光里からのメッセージを読むのは精神衛生上良くないのでスマホをポケットに突っ込んだ。情報の遮断大事。
机に突っ込んであった本を開いて現実逃避しているうちに、朝のHRの時間になった。
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