第9話 運命の席替え
「うぃーす皆元気かー。唐突だが転校生の紹介だー。入ってきて自己紹介よろしくー」
くたびれたおっさん、という表現がハマりすぎているうちの担任、後藤先生が、転校という一大イベントをサラリと告げる。さすがに軽すぎないか。まあ俺がさっき転校生が来ることバラしちゃって皆全然動揺してないからいいんだけど。
そろりそろりと、すり足で風祭が入室する。表情は暗く俯きながら教壇にのぼる風祭から負のオーラがまき散らされていて、最前列の生徒がオーラに当てられてたじろいでいる。
「わ、わたし、風祭、伊吹、です。よ、よろしくは、しなくていいので、なるべく優しく見守っていただけるとありがたい、です、はい」
つっかえつっかえ、なおかつ小声で言うものだから、後ろの席の生徒は首を傾げていた。
幼稚園の頃から数年経ってるし、初対面の光里ともフランクに話せてたから、克服できたのかと思っていたが、変わってなかったか。
見ての通り、風祭は基本、人見知りで人間関係に消極的な人間なのだ。
幼い頃の俺はそんな風祭を無理矢理連れ回した。当時、寂しそうだから遊んでやるか、みたいな謎の上から目線で風祭の手を引いていたような気がする。
今、風祭みたいな子がいたら、一人でいるのが好きな人なんだな、と定義付けて、わざわざ声をかけたりしなかっただろう。子どもだったからできた。
「というわけで皆仲良くやるんだぞー。風祭の席だが、空いてる席ないから、一個机と椅子増やす。と、これを期に席替えでもするかー。一時間目の授業は俺だし多少ずれ込んでもかまわんから、学級委員主導で席替えよろしくー。その間におれは職員室に戻って一時間目にやる抜き打ち小テストのプリント用意してくるから後は頼んだぞー」
そう言い、後藤先生はそそくさと教室を去った。思いつきの席替え提案、からの学級委員に丸投げ、さらにはゲリラ小テスト予告と最悪なコンボかましてきやがった。
学級委員が諦め顔で渋々教壇に立つ。教室の隅に置いてあるクジ箱を使って席順を決める。
席決めはどのクラスも同じやり方で、既に何回かやってきているので、比較的スムーズに進む。
結果。
俺は窓際の席になった。最前列でもないし、横を向けばすぐ外の景色が見れるから、個人的には当たり席だ。配置だけで言えば。
席替えに於いて最も重要なこと。それは周囲の人間が誰になるか。特に、隣の席。
なあ、教えてくれよ神様。俺、何か悪いことしたかな。
「し、信じられませんっ! ゆうちゃんの隣の席を引き当てることができるなんて!」
マンガみたいに大げさにジャンプしている。暴力的な胸部の上下運動に、理科の授業の実験のごとく見入っている男子たち。危険だ。彼らの目にも毒だろう。
「おい、大げさに喜ぶな。さっきメッセージ送っただろ。俺たちの関係性は知り合い程度ってクラスのやつらには説明してあるんだから」
「その情報、わたしが更新しますね! 知り合いどころかむしろ友達以上ムグッ!」
口で言っても止まろうとしなかったため、強制的に手で塞ぐ。
だが、咄嗟のその行動がマズかった。
風祭はなんか恍惚としてて嬉しそうだし、クラスメートたちからは冷たい目線を浴びせられ、背後からはチキチキとカッターをスライドさせる音が聞こえてくる。
すぐに手を離し、両手を挙げ、無実をアピールするが、時すでに遅し。
俺の平穏だった学校生活が崩れてく音が聞こえる。
その後は後藤先生が帰ってきてくれたおかげで場の空気は流れ、ひとまずの平穏を得ることができた。
一番安心したことは、背後から刺されなかったことだ。
光里は隣の席になれたことをこっちが引くくらい喜んでいた。それが、風祭の転校によって白紙に戻ったのだ。そして俺の隣の席におさまったのが風祭、と。光里の心中、お察しします。察せられたところで俺にはどうしようもできないけど。
これまでずっと、クラス内では中立、というか目立たない立場をキープしてきたのに。そんな俺の想いを汲んでか、それとも学校での自分の立場を考慮してか、光里もクラス内では俺とほとんど接触してこなかったのに。そのおかげで平穏に暮らせてきてたのに。これまでの積み重ねが全て無に帰した。
これからデンジャラスな日々がはじまるぞ。クラス内の俺の立場、空気を読むことを全くしようとしない猪突猛進・風祭、そして背後に存在する鬼神・光里。
ああ〜んもう、これからの俺の日々、どうなっちゃうの〜〜〜〜!(少女マンガ風)。
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