第7話 底なし沼のような闇

 学校が近づいてきて、通学路に生徒の数がちらほらと見え始める。


「風祭。そろそろ離れて歩こう」

「なんでですか?」

「お前は数分前にした話を覚えてないのか。転校初日から変な噂流されたらたまったもんじゃないだろう」

「変な噂って、ゆうちゃんと付き合ってるかそういう類のですか? それならむしろありがたいです!」

「頭の中お花畑か。そんな噂流れたら友達作りにくくなるだろ」

「わたし的にはゆうちゃんが同じクラスならそれで満足なんですけど」

「え、ちょっと待って、同じクラスなの?」

「はい。担任の先生に名簿見せてもらったんですけど、ばっちりゆうちゃんの名前ありました」

「マジか」


 それは厄介なことになった。何せ俺のクラスには光里がいるから。あと俺の身が危ない。この調子だとクラスの人間から反感をかってしまう。お前等付き合ってるんじゃないの? からはじまり、噂が一人歩きし、付き合ってもないのに周りから付き合ってることにされてしまい、俺のあだ名が『風祭』とかになりかねない。あるよね、彼女の名前で呼ばれるってパターン。あれなんだろな。


「一緒のクラスにならなかったら休み時間毎にゆうちゃんのクラスまで遊びに行くところでしたよ〜」


 そっちの方が危険な気がしてきた。まだ同じクラスのがマシか。


「俺はいないものだと思って、まずはクラスの人間と絡んでけ」

「えー」

「じゃ、生徒増えてきたんでそろそろ離れるぞ」


 言い残し、早足で風祭を距離をとる。

 同じように早足で俺に追随してくる風祭。


「着いてくんな!」

「イヤですぅ」


 早足じゃ振り切れない。こうなったら走るしか。

 足に力を入れ、思い切り走る。これなら追いつけまい。

 振り向くと、恐ろしい光景が目に入ってきた。

 風祭が胸部に搭載している爆弾が激しく上下運動していたのだ。

 男女問わず視線を集めている。風祭だけじゃなく、風祭から逃げる俺も奇異の目が突き刺さり、完全に手遅れだ。俺の学校生活オワタ。


「風祭! ストップ!」


 俺自身も足を止める。これ以上被害を増やしてはならない。こんなことになるんだったら最初から大人しく一緒に登校すれば良かった。じゃない。距離をとって登校するよう説得すべきだった。


「置いてかないでくださいよぅ! 小さい頃、ゆちゃんが意地悪して突然わたしを置いてどこかに走り去って行っちゃったトラウマが蘇って来ちゃったじゃないですかぁ!」

「そんなこともあったような気がするなぁ」


 よく覚えているものだ。俺はそのエピソードを朧気にしか覚えてない。  


「びっくりさせないでくださいよ。全くもう」

「なんでお前が迷惑被ったみたいな言い方してるんだ。ったく」


 諦めて風祭と一緒に門をくぐる。教室入ったら質問攻めは免れないだろうな。


「職員室に案内してくださーい」

「甘えるな。校内図見て自分で行け」

「それぐらいいいじゃないですか!」


 そんな話をしながら下駄箱前まで歩くと。

 友人三人に囲まれて談笑している光里と目が合った。

 目が合った時間は数秒。光里はすぐに目をそらし、友人との談笑に戻った。

 だがその数秒の間。生きた心地がしなかった。底なし沼のような闇に取り込まれたかのような錯覚に陥ったのだ。これ絶対後でシメられるやつでしょ。俺と風祭が。

 結局わがままに負け、風祭を職員室まで送る。道中しつこく手をつなごうとしてきたが全てかわした。一緒に登校って時点でかなり危ういのに手なんてつないだら他学年にまで噂が広がりそうだ。

 風祭は後で先生が教室に入ってくるのと同じタイミングで教室に来るんだろうな。

 一人で教室へ。入室した途端、男子どもからしきりに話しかけられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る