第27話 光里デートその2

 光里はこういう雰囲気の店に慣れているのか、特に気負う様子を見せず店内へ。

 お昼時で混んでいたため、雑談しながら三〇分ほど待って、ようやく席につくことができた。

 光里と同じランチセットを選ぶ。

 オニオンコンソメスープ、ガーリックトーストと、届いた順に口をつけながら、食事の合間に光里とおしゃべりをする。


「んー、やっぱりゆうくんといる時が一番落ち着くな。安心しきちゃって逆によくない。隙だらけだよ」

「隙だらけの何がいけないんだ。つか俺以外にも心許せる友人の一人や二人いるだろ。いつも友達に囲まれてる光里なら」

「隙なんて見せたら。やられちゃうよ。結構綱渡りなんだよ、わたしの生活。多くの賞賛を得られる分、嫉妬や、それ以上のものをぶつけられることもあるし。そんな状況で本当の友達なんてできるわけないじゃん」


 そう語る光里は、特にしんどそうには見えない。普通でしょ、と言わんばかりに、涼しい顔で平然と言ってのけた。

 物語の主人公ならこういう時、なんて言うのかな。ありのままの自分でいようよ、そういう場所や友達を作ろう、増やそう、って言うのかな。で、実際にヒロインのサポートなんかもして、ヒロインが大勢の人間に囲まれ、心から笑えているシーンを作るのだろうか。

 そんな想像をして、それが一般的には正しいのかな、と思いつつ。


「そっか。頑張ってんだな。ま、愚痴くらいは聞いてやるから、しんどくなったら今日みたいにまた誘ってくれ」


 光里は過去の経験から、今の自分を作り上げた。自分の思い描く理想を実現させた。それは、多くの人間が到達できない、すごいことだと思う。だから余計なことは言わない。


「あー好き。わたし、ゆうくんのそういうとこが大好きなんだよね。愛していると言っても過言ではない」

「過言であってくれ」 


 光里から飛んでくる甘々な視線から目を逸らす。直視したら変に心を揺さぶられそうで怖い。


「たまにはゆうくんから誘ってくれてもいいんだよ? デート」

「それはない。言ってるだろ、俺には好きな人がいるって」

「コスプレイヤーのバベルって人ね。その一途さがわたしに向かないことのなんと悲しいことよ。後世に語り継がれるような悲恋の詩でも作っちゃおうかな〜。国語の授業とかで読まれて、こんなに想ってくれる子がいるのに他の女の子に夢中とか可哀想ひどーいってゆうくんが責められるんだよ」

「なんだその最悪な未来予想図……」


 なんて言いながら、光里は楽しそうに笑っていた。


「まあ、バベルって人なら、絶対ゆうくんになびくことはないから安心かな」

「断定するな」

「それより心配なのは風祭さんだよ。最近、どんどん仲良くなってる気がするなぁ。わたしの気のせいかなぁ」


 胃が痛くなってきた。料理のせいではないことは明らか。


「気のせいじゃないかな、うん」

「部活、楽しそうだよね。ところで一昨日、教室でゆうくんと風祭さんの会話が耳に入っちゃったんだけど。ゆうくん、風祭さんのレイヤー活動、手伝ってるの?」


 底冷えするような瞳。いつものような嫉妬混じりの冷たさとは、明確に違う感情が垣間見えた。


「一応。アドバイス程度だけど」

「楽しい? 部活」

「それなりに」

「『コスプレ』が絡んでても?」

「……ああ」


 光里相手に嘘は逆効果。上手な嘘だったとしても。嘘をつかれること自体が嫌いだし、そもそもどんな嘘をついたったってバレる。勘づかれる。


「ふ〜ん。なるほど。そっかそそっか。なるほどね。そういう感じね。りょーかいりょーかい」


 唐突に雰囲気が柔らかくなる。光里の感情の変化に着いていけない。付き合いが長かろうが、分からない、理解できない部分はある。

 その後、残りの料理が届いたので、それを食べながら今日見た店の感想を言い合い、すっかり元通りの空気感へ。

 会計後、光里は出し抜けにこう言った。


「ごめん、急に用事入っちゃって。わたし、帰るね。また今日のデート続き、しようね」

「随分急だな。行ってらっしゃい」

「うんっ」


 笑顔で手を小さく振りながら、遠ざかっていく。

 義理堅い光里が、俺との予定を切り上げたってことは、よっぽど重要な用事だったんだろう。

 ダブルブッキングしてヒヤヒヤしていた反面、幼なじみとの久しぶりの外出。多少の名残惜しさはある。

 しかしこれで懸念事項は消えた。なぜなら被るはずだったデートの片方が終了したから。風祭との集合時間は今から約三〇分後だ。

 お昼の光里とのやりとりに一抹の不安を覚えつつも、概ね外出は楽しんでくれたように思う。

 さて、集合までの時間は、夏マケ当日の持ち物のリストアップに費やそう。

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