第26話 光里デートその1

「やっほーゆうくん。本当に集合時間の三〇分前に来るなんて偉いね。感心感心」

「そういう光里はもっと前に来てたんだろどうせ。一時間前くらいからとか」

「ざんねーん二時間前からでしたー」

「そんな早くきて何するんだよ」

「心の準備かなー。ほら、わたしたちってよく会うわりに二人きりで出かけたことないじゃん? だから緊張してるんだーこう見えても」

「今更俺相手に緊張する必要あるか?」

「ダメだなぁゆうくんは。乙女心がなーんも分かってない」

「知る機会がないからな」


 そんな調子で軽口を叩きながら二人並んで目的地へ向かう。

 くそ、調子狂うな。さっきは光里にあんなこと言ったけど、実は俺も緊張している。

 普段はお嬢様ぜんとした、清楚系の格好が多いのに、今日はラフめ、ボーイッシュ? とにかく俺が見たことのない系統の服を着ていた。

 中々に短い、デニムのショートパンツ。これをはいているところを俺ははじめて見た。

 上半身は、有名アパレル会社のロゴが入った薄手のシャツ。頭には上質そうなキャップ。

 すらりと伸びた手足。シンプルな格好だからこそ際だつスタイルの良さ。普段あまり見ない生足に視線が吸い込まれそうになるのを意地でもこらえる。あれ、光里ってこんなに可愛かったっけか。付き合いの長さで客観的に見れなくなっている。


「ゆうくん、さっきから挙動不審気味だけどどうしたの? もしかしてわたしに見惚れちゃってるぅ?」


 あながち間違いじゃないから、即座に反応できない。いつもどういう風に返してたっけ。


「う、自惚れんな。ま、まあ、あれだ、その、今までの私服と系統が違うから、珍しいってのはあるな、うん」

「お、流石にそこには気づいてくれたね。ゆうくん驚かせたくて冒険してみたんだ〜。どう? 似合ってる?」


 くるりと一回転。小振りな臀部に思わずたじろぐ。

 やられた。完全に光里の術中にハマってる。このままだと動揺がバレる。


「まあ可愛いんじゃねえの。ほら、足を止めるな。時間は有限なんだぞ」

「あれ? ゆうくん、もしかしてちょっと照れてる? うそ、効果抜群ってやつ? やった! うえへへへへ」


 気持ち悪く笑いながら俺の腕に抱きつこうとしてくる。から避ける。

 大丈夫か俺。こんな調子で今日を乗り切れるのか。しっかりしろ!



 特にプランなどは聞かされていない。ぶらぶら目に入った店に入っては商品を眺めて、時には手にとってあーだこーだ話したり、実際にいくつか買ってみたり。内訳は大体雑貨品だ。


「あ、次はあそこ入ろうよ!」

「下着の店じゃねえか入らんわ」

「いくじなし〜甲斐性なし〜」


 腕をつんつんつついてくる。非常にうっとおしい。


「いや普通は拒否するだろ!?」

「そういえばゆうくんちゃんと持ってきた? わたしへの愛と婚姻届」

「持ってくるわけないだろ。愛は持ってきてるけど」

「え???」


 思わず俺と距離をとるほど、光里は驚いていた。今日はからかわれっぱなしだったからな。一矢報いてやった。


「愛は愛でも、友愛な。幼なじみ、付き合いの長い友達ってことで」

「うわぁそういうこと言っちゃうんだ〜ひどーいわたしの心弄んで〜。これは責任とってもらわないと」

「勝手に弄ばれたって勘違いしてるだけなので責任とりませぇ〜ん」

「うわ〜ゆうくんその言い方はウザいわぁ」

「ははっ」


 このくらい緩い会話がちょうどいい。最近、風祭関連で光里とこういう風に話せなかったから、新鮮で心地良い。

 光里もそれは同じなのか、常にテンションが高めだ。

 本の売場でドラマ化された小説や、光里の好きな少女マンガや、参考書を見て回った後。


「お腹空いてきちゃった」

「もう一二時過ぎか。そろそろ昼飯にするか」

「わたし、行ってみたいとこあるんだ〜。調べたんだけど、最近オープンしたダイニングカフェで、値段もお手頃、なのにおしゃれ! どうでしょう」

「いいんじゃないか。じゃ、そこにしよう」

「うん!」


 光里に先導してもらいたどり着いたのは、小洒落た洋風のカフェ。雰囲気は抜群に良い。客層も若い女性が多く、男一人で入るには中々敷居の高い場所だった。

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