第25話 デート・ブッキング=死

 先日のショッピングモールコスプレイベントへ向けて頑張ってきた風祭は、コスプレイヤーとして急速な成長を遂げた。

 このままいけば、一ヶ月後の決戦、夏マケで、バベルさんと並ぶようなハイクオリティコスプレが実現可能に……とまでは言えないが、SNSで軽くバズるくらいのとこまでは持っていけるだろうと予想している。

 ちょうど夏マケ前に夏休みがはじまる。一〇日間フルで使えるのは大きい。

夏休み開始前の期末試験、及びその対策でコスプレへの時間があまりとれないからトレードオフかもしれないけど。

 この一ヶ月が勝負! と密かに気合いを入れていた俺だったが、思わぬ障壁が。

 スマホの画面に表示された二つのメッセージ。


『ゆうくん。明日遅刻したらどうなるか、分かってるよね? わたし、この日を待ちわびてたんだ〜。すっごく楽しみ。早く明日がこないかな〜。あ、費用は全部わたし持ちでいいから当日手ぶらでもいいよ! 強いて言うなら、わたしへのプレゼントと愛と婚姻届だけ持ってきてくれれば! なーんてね! プレゼントはいらないよっ』


『ゆうちゃん様におかれましては、日頃よりご協力いただきましてありがとうございます。さて、明日ですが、待ちに待ったおデートの日。わたくし風祭伊吹、気合いを入れて臨みます。それはもう全身くまなく。……今、えっちなことを考えましたね? 想像通り、勝負下着を身につけて参ります。直接見たいのであれば、記入済み婚姻届をご持参いただきますようお願い申しあげます』


 あああああああ! ダブルブッキングしたああああ!

 どちらか片方を断れば理由を詮索され、死あるのみなので断れるはずがない。かと言って、ごめん、予定被っちゃったから二人同時にデートしよう、と言おうものならこちらも死あるのみ。

 解決策。二人を出会わせないよう同時にデート。難易度地獄級。しかしやりきらなければ俺の命はない。

 腹をくくり、それぞれに返信する。


『安心しろ。集合時間の三〇分前には着いてるようにするから。あと金は自分で出す。そこまでしてもらうのは悪い。あと巧妙に愛と婚姻届を要求してきて

るがどっちも持参しないから。んじゃまた明日(おやすみのスタンプ)』


『堅苦しいからもっとフランクで。あとお前の勝負下着なぞ一生見る機会ないだろうから普段使ってる動きやすい下着でいいぞ。あ、それと、すまないんだが、急に友人と昼飯食わなきゃいけなくなっちまった。これに関しては謝る。ごめん。集合は昼過ぎだと助かる。午前中は俺が出したコスプレ課題を進めてておいてくれ。会ったとき進行具合チェックするから。んじゃ、そういうことで(おやすみのスタンプ)』


 光里は融通がきかないから、風祭の時間を遅らせることで少しでも重複する時間を短縮する。これについては風祭に対して本当にすまなく思っている。完全にダブルブッキングさせてしまってしまった俺が悪い。風祭が「頑張ったご褒美にデートして欲しいですデートデートデートォ!」と、教室でゴネはじめた時は肝が冷えた。黙らすために即座にオーケーを出したのが失敗だった。被ってることに気づいたのはよりにもよって前日の夜、つまり、今。今更予定変更とはいかないだろう。光里は色々予定が詰まっているらしく明日しか空いてる日がないらしいし、風祭は明日公開の新作アニメ映画の席を予約しちまっている。


 ストレスで胃が痛くなる。胃薬飲もう。

 ちなみにあいつらはデートデートと言っているが、俺からすればデートでは断じてない。ただ、幼なじみと遊びに行くだけ。同級生女子と二人で出かけるなんてドキドキしちゃうなっ、みたいな気持ちはゼロだ。ただただ課せられた任務を遂行するのみ。

 不幸中の幸いは、二人とも同じ場所を指定してきたこと。

 光里は俺と幼なじみで仲が良いことをクラスの連中に知られないように、という理由で、風祭は、公開初日の舞台挨拶を見たいという理由で、電車で一時間かかる場所を選択。

 光里はウインドウショッピング。風祭は映画。その二つは同じ施設で事足りる。映画館とショッピングモールがくっついているおかげで。

 頭の中で作戦を練りつつ明日の準備をする。

 財布にある程度のお金があることを確認。着ていく服の用意良し。寝よう。

 光里・風祭戦線。生き残れるよう祈りながら目を閉じた。

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