第31話 ツインターボ
期末試験を乗り越え、待ちに待った夏休みがやってきた。
これから夏マケまでの間の時間は全てコスプレに捧げる。
というわけで俺と風祭はアサシン邸に来ていた。ここを拠点とする。
ちなみにアサシン自身はサークル参加するらしい。ゴスロリ大全集を売るそうだ。
「毎度毎度すまないな、アサシン」
「別にいい。その代わり、売り子として手伝ってもらうからね」
「風祭がな、何言ってるの。君もだよ。ツインター……」
「ああああ! ちょーっとその可愛らしいお口を閉じてもらおうか」
風祭は離れたところで作業に夢中になっているため聞いていない。助かった。
「何バラそうとsちゃってんの君!?」
「だって、コスプレイヤーとして復活するんでしょ?」
「一回限りな」
「でも、ツインターボとして活動するんでしょ。え、もしかしてまだ言ってないの?」
「その、まあ、なんだ、あれだ、そういうの言いづらいじゃん」
「どうせバレるのに」
「それに、あー、あいつがコスプレ好きになるきっかけの一端が、昔の俺らしくて。動揺させたくないんだ。作業に支障が出るかもしれないし」
「なるほど。分かった。黙って協力する」
「アサシンのそういう物分かりの良いとこ、好きだぜ」
「どうも」
お互い作業に戻る。好きとか言ったけど決して恋愛的な意味ではない。それも向こうは分かっていると確信しているからこその気安さ。良き友を持った。
「なんか最後の、好きだぜ、だけ聞こえたんですけど」
風祭のジト目が襲い来る。その部分だけ聞き取れたとかどういう耳してるんだよ意味分かんねえ。
「そういうんじゃないから」
「そうそう。矢車君があたしを都合の良い女扱いしてるだけで」
「ちょっとアサシンさん!?」
少しだけ舌を出して微笑んだ後、普段の無表情に戻って淡々と作業する亜佐美氏。極たまにこういうイタズラめいたことするんだよなぁ。
「ゆうちゃん? ねえ、ゆうちゃん?」
「誤解だ。俺とアサシンは清廉潔白、ただの友人関係だ」
「そういえば光里さんが二人の関係に太鼓判を押したんでしたっけ。光里さんといえば、最近随分と大人しかったですよね」
「忙しいらしいな」
元々部活に友人関係と忙しいやつだったが、最近は顕著だ。トラブルとか予定が重なってるのかな。
「塔ノ沢さん、ここ一ヶ月は部活休み気味らしいよ。友達が言ってた」
「アサシン友達いたんだ?」
「その発言は流石に失礼だよ」
塔ノ沢というのは光里の名字だ。久しぶりに他人の口から聞いた。
「光里のやつ、変なことに巻き込まれてるんじゃないだろうな」
試しにメッセージを送ってみる。三〇秒で既読がつき、特に何もないよ大丈夫だよと帰ってきた。杞憂か。
スマホを開いたついでに、あれ、やっとくか。
アカウント変更。懐かしいアイコンが目に飛び込んでくる。
数分後。
「ゆゆゆゆゆうちゃん大変ですっ! あのっ! ツインターボさんが! バベルさんに続いて復活するって! ヤバくないですかこれっ! 天変地異か何か起こるんじゃないでしょうか!?」
顔を真っ赤にさせて興奮している。声がとてつもなく大きいから近隣の部室から文句が飛んでこないか心配だ。
「あーそうだなー大変なこっちゃー」
「リアクション薄いですよ! 当時はバベルさんと人気を二分する勢いの超有名人じゃないですか! 当日、サインもらいにいきますよ私は!」
俺の服をつかんでガクガク揺らしてくる。頭痛くなるからやめてほしい。
「ツインターボもただの一般人だから自分のサインなんて用意してないだろ」
「それは、そうかもしれませんね。なら即興で描いてもらうとしましょうか!」
今夜、サイン考えとくか。
寝る前にベッドの中でツインターボのアカウントを眺める。恐ろしいほどのバズり具合。通知が止まらない。間違いなくバベルさんの目にも入っているだろう。ダイレクトメッセージが何百通と飛んできていたが全て無視。
SNSで復活告知を行ったのは、ひとえにバベルさんと話すため。
俺は素の状態でバベルさんと会ったことがない。一般参加したら、俺がツインターボだと気づいてもらえない、信じてもらえないはずだ。だから、夏マケでだけ、俺は、ツインターボに戻る。
俺の全てを終わらせた場所、人物に、もう一度。
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