第23話 イベント当日
翌日。俺と風祭は、電車で何駅か過ぎたところにある巨大ショッピングモールへ来ていた。
「こうしているとデートしてるみたいですよね、私たちっ」
分かりやすく声を弾ませて、腕を絡ませようとしてくる風祭から距離をとる。
「そういうことするんなら他人のフリをするがよろしいか?」
「すみませんでしたぁ! それだけはご勘弁を!」
とててと小走りで俺の横に並ぶ。ここに来たのはコスプレイベントに参加するためで、デートをしようなどという考えは微塵もない。デートとか言ってたら光里とのやりとりを思い出して居心地が悪くなってきたので思考を切り替えよう。
ともかく、今日は一応、風祭の付き添いとして来ている。どうしてもと頼み込まれてしまったし、衣装やメイクの最終チェックをしたいという個人的思惑もあったため、あくまで幼なじみとして同行する運びとなった。
休日のため多くの客でにぎわっているモール内を二人で歩く。
いつもふうわりウェーブをたなびかせている風祭は青空色のシュシュで小さなポニーテールを作っていた。服装も白いノースリーブのトップスに、生地の薄いレモン色のロングスカートと涼しげな装い。一見するとただの美少女である。フリルをあしらったトップスのおかげで持ち前の巨乳が分かりにくくなっており、低身長とのギャップがなくなり、一般受けしそうな見た目になっている。そのせいかやたらジロジロ見られる。
「早速、コスプレエリア向かうか」
「その前にちょっとだけお買い物していきましょうよぅ」
「んなことしてたら時間なくなるだろ。今日は存分にコスプレするんじゃなかったのか」
「うう、そうですけど」
「こういう場所ででコスプレできる機会なんてそうないんだから時間を大切にしろ。ほら行くぞ」
コスプレエリアが近づいてくると、風祭は目に見えて瞳を輝かせていった。
エリアの入り口付近に更衣室があり、風祭は一直線に吸い込まれていく。
三〇分後、着替えとメイクを終えた風祭が、更衣室から出てきた。
うんうん。俺が監修したとあって、結構イイ線いってるんじゃないか。
原作どおり、大きな胸を強調するような胸元のシルエット。そのくせキュッとしまったウエスト。
ウィッグとカラーコンタクト、色付きつけまつげを全て緑色で統一。あとは血色、頬の赤み、目の形をメイクでカバー。
原作『ナツイロカナタ』に登場する後輩ヒロイン、イウを高水準で再現している。
「どうですかゆうちゃん、かわいいですか?」
「今回はロールプレイしないのか?」
「私、撮影時以外はしない主義なんです。それで、どうですか?」
初対面のとき俺相手にしてきたじゃんと言いそうになったが、あれは多分例外だったんだろうな。
「かわいいな。とんでもなくかわいい。さすがイウ。やっぱりイウはかわいいなぁ。よく似合ってる」
秘技、キャラ褒め&似合ってる。コスプレイヤーにとって嬉しい言葉ランキ
ングで間違いなく上位に食い込む。自分の好きなキャラを褒められることは嬉しいものだ。
「本当ですか!? ですよね、イウちゃんかわいいですよね! 不憫系ヒロイン、好きにならざるを得ない」
「分かる。さあ、行ってこい。今のお前なら間違いなくカメラマンに囲まれるぞ。楽しんでこい」
「え、何言ってるんですか。ゆうちゃんも来るんですよ」
「コスプレエリアはコスプレしてる人しか入れないだろ?」
「このイベントは、コスプレイヤーの相方としてカメラマンを一人連れていけるんですよ」
「そうだったのか」
「ということで行きましょう行きましょう」
風祭に腕を引っ張られて入場させられそうになる。
カメラマンするくらいなら、いいか。
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