第4章「平和への巡礼」

第19話「決意と旅立ち」

『や、やられた! 脱出する!』

『もうダメだ! 持たない!』

『ここまでか……無念ッ!』


 守りについていた〈ザンドールA〉が、次々と撃墜されていく。

 通信越しの阿鼻叫喚の声が、アーミィ部隊の劣勢を訴え続けていた。


「モニア・センフォー支部長、もうこの支部はダメです!」

「なんてこと……反乱軍にレッド・ジャケットが味方するなんて……!」


 窓の外に飛び交い、次々とアーミィ機を潰すキャリーフレーム群。

 そのどれもがコートやマントを思わせるプレート状の赤い装甲を上着のように身に纏い、放たれるビーム受け止め弾き消していた。


「くっ……総員撤退! サンライトを放棄し……」


『逃しはしないんだな、これがぁっ!』


 窓の直ぐ側に、レッド・ジャケットの機体が地ならしと共に降り立つ。

 そのままその機体はビーム兵器の銃口を向け、暗い砲身の奥のエネルギーチャージを見せつける。


『命は大事だよなぁ、支部長サンよ! 降伏の宣言をしな! さもなけりゃ全員ここで人間ステーキだ!』

「わ、わかりました……降伏します……」


 膝をついて頭を下げるモニア支部長。

 このとき、第12番コロニー・サンライトはV.O.軍に制圧されたのだった。


 アフター・フューチャー171年。

 平穏を破る幕開けには派手すぎる、それでいて戦乱の口火を切るには静かすぎる、金星宙域を巻き込んだ戦いの始まりだった。



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       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


       第19話「決意と旅立ち」


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 【1】


『コロニー・アーミィはこれを受けて、宇宙航路の封鎖を決定。各コロニー政府の元、渡航制限を開始しました……』


 華世は右のこめかみをトントンと突き、壁にニュース映像を投影していた義眼のプロジェクター機能をオフにした。

 終業式が終わった直後に魔法少女支援部の面々が集まった教室内に、ため息の声が漏れる。


「夏休みになったのに、大変なことになっちゃったね……」

「わたくしのお父様とお母様……ふたりとも別のコロニーに会談に行ってましたから、しばらく帰ってこられませんね……」

「この場にいなければ、私はアーミィの敗北を喜んでいたかも」

「ホノカは大丈夫ッスか? サンライトから来たって聞いてたッスけど……」


 心配そうに尋ねるカズ。

 けれどもホノカは至って冷静に、質問への返答をした。


「私のところは反アーミィ勢力だから大丈夫。V.O.軍の母体は近世初期開拓民……つまりは女神聖教の信徒。彼らが教義にそってアーミィに対して殲滅ではなく降伏を迫っているなら……同志を喰い物にするようなマネはしないから」


 そう言いつつも、じんわりと額に浮かべる汗。

 口では強がっていても、やはり自分が育ち仕送りしていた修道院のことが気がかりなのだろう。


「だけど、アーミィが守っていたコロニーの1つが陥落したのは事実ですわ。いつこのコロニーが攻撃対象となっても、不思議ではありませんわよ」

「大丈夫だよ! 私も変身できるようになったし、魔法少女隊が一丸になって戦えば……」

「姉さんはまだ戦闘のライセンス持っていないでしょ……」

「拓馬の言うとおりッスよ。それに相手はツクモロズじゃなくて武装勢力。アーミィの人たちが前線に出るのは許さないッスよ、きっと」


 カズの言うことは至極当然である。

 この場で戦うのが許されている魔法少女は人間兵器である華世と、華世に雇われているホノカの二人。

 と言ってもホノカに関してはあくまでも対ツクモロズの戦闘のみという契約である。

 もしもこのコロニーが戦火に包まれたとしても、表立ってアーミィの戦力として戦えるのは華世と、アーミィ特別隊員のウィルだけなのだ。


「それじゃあ……私達、何もできないのかな……」

「……いえ、そうでもありませんわ。わたくしにだけ、できることがあります」


 いつになく真剣な面持おももちで教壇に立つリン。

 彼女は電子チョークを大型モニターに滑らせ、簡易的な金星宙域の地図を書いた。

 そしてコロニーを表す長方形に1つずつ数字を書き、その中の2、5、8、11を丸で囲む。


「ビィナス・リングにはウィンター、スプリング、サマー、オータムという四季の名を持つ、季節を固定したコロニーがありますわよね?」

「そうなんですね! 知りませんでした!」


 ももの無邪気な返答に、一瞬言葉を詰まらせるリン。

 まあ一度もクーロンから出ていない彼女にとって、他のコロニーの存在は覚えてなくてもしかたない。


「……とにかく、ありますのよ! それらを……」

「なるほど、巡礼に行くということ」

「……ホノカさん、話の腰を折らないでくださいます!?」

「ごめん……」

「んもう! 本職であるあなたのほうが詳しいでしょう! バトンタッチですわ!」


 いちいち説明を止められたのが不服だったのか、強引にホノカへと電子チョークを押し付けるリン・クーロン。

 渋々といったふうにホノカがリンと入れ替わりに壇上にあがり、ひとつ咳払いをした。



 【2】


「巡礼というのは、聖殿を巡ることで女神聖教の信徒に加わること。ウィンターをスタート地点に季節順に各コロニーの聖殿で祈りを捧げるの」

「それをすることが、どうして貢献になるの?」

「女神聖教の教義には相互幇助そうごほうじょ……つまりは仲間同士で助け合うという決まり事がある。そして仲間の中には巡礼者はもちろん、巡礼者一家の下につく者全員も含まれてる」

「……つまり?」

「ここからはわたくしが」

「え、もう?」


 押し付けた割にはあっさり先生役から降ろされたホノカが、あっけにとられたように交代させられる。

 再び壇上に立ったリンは、みんなの顔を見渡してからコホンと咳払いをした。


「皆さん、ベスパー戦役はご存知ですか?」


 ベスパー戦役。

 それはビーナス・オリジニティ……通称V.O.軍が女神聖教の聖戦と称して始めた、初期開拓民族によるビィナス・リングの支配を掲げた17年前の争いである。

 コロニー・ベスパーから始まった争いは、過激派による他教徒への弾圧や攻撃などへ発展。

 金星の歴史でも沈黙の春事件に並ぶ凄惨せいさんな出来事として、金星史に刻まれている戦いである。


「小学校のとき、歴史で習った! それにパパもママも当時は怖かったって言ってた……」

「でも、地球から来たコロニー・アーミィが鎮圧したから、このクーロンは全然被害がなかったんでしょ?」

「クーロンが無事だった理由は他にありますのよ。わたくしの両親が危険を危惧し、あらかじめ巡礼を行ってましたの」

「そっか、そうごほうじょ!」


 巡礼を終えた一家の下の者も仲間。

 つまり、コロニー領主であるリンの両親がどちらも巡礼者になれば、コロニーに住む住民全員が表面上は女神聖教の同志となるのだ。

 V.O.軍が女神聖教の名を使い相互幇助そうごほうじょの教義に沿って行動する以上、巡礼を通して同志となったクーロンの住民へと攻撃をすることはできない。

 そうやってリンの両親はこのコロニーを守ったのだと、彼女は説明を締めくくった。


「じゃあ、ここは安全……」

「ではありません。わたくしのせいで」

「……なるほどね。リンは巡礼者じゃないから、あんたが生まれた瞬間からクーロンは女神聖教の同志じゃなくなったってわけね」


 家族・仲間を重んじる女神聖教にとって、信徒の中でも特別な巡礼者という存在を認めるためには、ひとりでも未巡礼の者がいてはいけないという。

 恐らく百年の厳しい金星開拓のなかで、巡礼者の子が教義を破ったなどの問題があったのだろう。

 とにかく、再びクーロンコロニーを女神聖教の庇護下に入れるには、リンの巡礼が必要なのだ。


「そんなに大事なことなら、どうしてクーちゃんは今まで巡礼してなかったの?」

「巡礼は赴くだけでなく、心から信仰の意志を見せる必要がありますの。本当ならわたくしが小学6年生の年の冬にでも行く予定でしたが……」

「……沈黙の春事件、ね」


 華世が右腕と共に故郷と家族を失った、忌まわしき事件。

 その事件の舞台となったのは、巡礼地のひとつであるコロニー・スプリング。

 住民全滅という悲惨な状態では巡礼を行うことも、受けることもできないのは想像に難くない。


「それから1年後に、4番コロニー・バーザンを代理の巡礼地として整えたそうですわ」

「つまりは、リン先輩が2と4と8と11番コロニーを訪れる旅をすれば、このコロニーが安全になるということッスね?」

「少なくともV.O.軍からは標的にされなくなりますわ」

「……でもリン。さっきのニュースで言ってたわよね。渡航禁止って」


 コロニー間の移動は、整備された宇宙航路を通る宇宙船によって行われている。

 しかしその航路が一時的に封鎖され、渡航禁止ともなれば交通網は停止。

 クーロンから別のコロニーに行くことは、現在は不可能となっている。


「それに関しては抜け道がありますの。渡航禁止はあくまでも公共交通機関の停止のみ。民間の商船などは厳しい臨検を受けますが、コロニー間の移動は可能ですわ」

「言われてみればなるほどッス。そうしなければ輸入に頼ってるコロニーが飢え乾いちまうッスからねえ」

「民間って……何かあてがあるの?」

「わたくしのポケットマネーで、手頃な船舶へと交渉を……」

「駄目だこりゃ」


 金を積んだとしても、この情勢下でコロニー領主の娘を預かりたがる民間船はいないだろう。

 ただでさえスタート地点であるウィンターは、V.O.が制圧したサンライトの2つ隣のコロニー。

 どちらの軍のものにせよ、哨戒艇に攻撃されないという保証はない。


「やっぱり……ダメですか」

「護衛にあたしがついたとしても、さすがに命知らずな船までは工面できないわよ。……万が一にでもあんたが死んだら、それでクーロンは守られるとか考えてるんでしょうけど」


 一人娘であるリンが命を落とせば、確かにリンの家族全員が再び巡礼者と認められるだろう。

 しかしそのためだけに無謀な旅に出て犬死するのは、華世は許せない。


「だめだよ! クーちゃんが死んじゃったら……私いやだよ!」

「静さん……」

「巡礼の話は諦めて、別の方法を探るべきよ」


「民間の宇宙船と、護衛戦力があればいいのだな?」


 ガラッと音を立てて扉を開けながら発された声。

 皆が一斉に注目したそこに立っていたのは……なんと、テルナ先生だった。


「先生……聞いてたんですか? というか、どうしてここに?」

「魔法少女支援部の顧問に任命されてな。廊下でずっと登場タイミングをはかっていた」

「顧問って、魔法少女支援部って正式に部活として認められてるのね……」

「それよりも先生には、わたくしの巡礼を助けてもらえる宛てがあるのですか?」

「そうだな……説明するより見たほうが早いだろう。私の車で送るから、時間のある者は付いてくるといい」



 【3】


 テルナ先生が車を走らせ始めてから、高速道路を経由して一時間。

 車の後ろをウィルのバイクで追っていた華世たちの前に、コロニーの端……宇宙港への入り口が見えてきた。

 スペース・コロニーは円筒形をしている都合上、無限に地続きとはいかず筒の前後の端にはどうしても壁が生まれてしまう。

 多くのコロニーはその壁の一つを宇宙港とし、宇宙そとと中を繋ぐ玄関口とする構造を取っている。


 壁にポッカリと空いた駐車場への入り口を通り、暗いスペースの中に車を止めるテルナ。

 ウィルもその近くの駐輪場へもバイクを止め、華世は後部座席タンデムシートから降りてヘルメットを外した。


宇宙港ここに来るのも久しぶりねぇ」

「そうだっけ?」

「最近はずっと、このコロニーにばかりツクモロズが湧いてたから……なんでこのコロニーばかりなのかしら」


 テルナ先生と一緒に歩くホノカたちに合流しつつ、ふと浮かんだ疑問に首を傾げる華世。

 華世とウィルが出会った事件の時など、ツクモロズがクーロン以外で発生した事例は無くはない。

 しかし、なぜか出現場所はクーロンに集中しているのは、華世たち魔法少女が一箇所に集まっているからだろうか。


「ナイン! 華世たちゾロゾロつれて、どないしたんや?」


 浮かんだ疑問を投げかける前に、宇宙港のロビーで内宮と出会ったことで自然と話題を飲み込んでしまった。

 ここに来た経緯を、一礼してから話し始めるリン。

 こういうところの礼儀正しさは、いかにもお嬢様といったところだ。


「なるほど、巡礼なぁ……」

「行くな、とは言わないでよね」

「そないな事情聞いたら言えるわけ無いやろ。それに、華世やったらいくら言うても止まらへんやろうしな」

「ご理解どうも。それより秋姉あきねえが宇宙港にいるってことは……もしかして出張?」

「ちゃうちゃう、アーミィ宛の貨物届けにきたふねの臨検の手伝いや」

「えっ、そういうのって秋姉あきねえの管轄外じゃないの?」

「来たふねふねやから、特別に回してもろたんや」


 内宮の言うことが、ひとつも理解できない華世。

 百聞は一見にしかず、と言いながら内宮はテルナ先生たちと一緒に華世を関係者用通路へと案内。

 停泊場の見える廊下で窓越しにひとつの戦艦を指差した。

 白い装甲板に包まれた巨大な宇宙艦。

 その格納庫と見られる空間から、キャリーフレームが同じくらいの大きさのコンテナを運び出している姿が見られる。


「あのコンテナ、もしかしてキャリーフレームかな?」

「せやで。修理頼んでた咲良のジエルとか、補充用の新型機とかな」

「木星クレッセント社から押し付けられたアレコレもある」

「でも、わかりませんわ。あの輸送艦と内宮さんとの繋がりってなんですの?」


 リンが内宮へと向けた質問。

 けれども答えたのはテルナ先生の方だった。


「私と内宮千秋は、十年前にあの艦のクルーとともに黄金戦役を戦ったのだ」

「「「黄金戦役!?」」」


 一斉に驚きの声を上げるホノカたち。

 黄金戦役といえば人気ドキュメンタリーアニメの元となった、人類存続をかけた十年前の戦いである。

 惑星を喰らおうとする不定形の宇宙生物から、地球を守ったという大きな戦い。

 誰もが知るその戦役に、内宮が関わっていたという話は華世も初耳だった。

 つい最近ドキュメンタリーアニメを見終えたばかりのホノカが、少し興奮しながら内宮を質問攻めにする。


「えっえっ、ということは内宮さんってもしかしてヒロインの真銅しんどうエミリアのモデルだったりするんですか? それともライバルのエイユー君と心通わせた喫茶店の早弓はやみ純子じゅんこさん!?」

「……ちゃうちゃう」

「ホノカちゃん、きっとあれだよ! 序盤に擬態魔獣に応戦してた警察キャリーフレームに乗ってたお姉さん!」

「十年前はうち学生やで? というかあん人までキャラ化しとるんかいな。……せやからあのアニメ好かんねん」

「もしかして秋姉あきねえがあのアニメを嫌ってる理由って……」

「せや。うちの存在ハブられとんねん、あのアニメ」


 哀愁漂う背中で語る内宮。

 てっきり華世は、ヒーロー然とした外見のロボットが活躍する荒唐無稽こうとうむけいさから、現実味の無さを嘆いているのだと思っていた。

 曰く、あのアニメは当事者たちから見れば半分以上が脚色なのだという。

 テルナ……もといナインも劇中から存在を消されていることから、物語展開の都合や様々な人間の思惑があのアニメの裏には渦巻いているのだろう。


「あーもう、ホンマやったらうちも歴史の人扱いされてもええっちゅうのに! 何があかんねん! 顔か、この糸目がアカンのか!」

「まあまあ秋姉あきねえ、落ち着いて……。ってことは、あの艦ってネメシス傭兵団のものってこと?」

「せやで華世。黄金戦役で多大な貢献を果たした戦艦を運用していた傭兵団が、あの艦の中におるんやで」


 ドキュメンタリーアニメの中でも、ネメシス傭兵団の活躍については描かれている。

 最初は月から帰路を失った主人公たちを地球へと送り届ける役として。

 中盤以降は地球圏全土へと広がった敵との戦いを助けるための組織として。

 最終決戦ではアーミィと協力し、地球を救うために激戦を戦い抜いた英雄たち。

 そのような偉人があの中にいると考えると、華世でも自然と気持ちが高揚した。


「では、わたくしの巡礼をネメシス傭兵団が助けてくれるということですか?」

「タダとはいかないが、ちょうどしばらく金星圏へと留まるからな。仕事を受けられるなら私が紹介するぞ」

「ちょい待ちや。もしかして全員でゾロゾロ行く言うんやないやろな」


 内宮に言われ、互いに顔を見合わせる華世たち魔法少女支援部。

 リンは言葉で表す前に、華世とホノカの腕を掴んで内宮の前に出た。


「この二人を護衛としてお貸しいただけませんかっ!」

「貸し言うても……二人はどうなんや?」

「あたしは最初からそのつもりだけど……なんでホノカも?」

「女神聖教の関係者で腕が立ちますし、それに……華世は少々わたくしへの当たりが強いときがありますから」

「つまり、ストッパーということですか……」

「もちろん、傭兵仕事として報酬が欲しいならば言い値を出しますわ。二人も護衛がいれば、この旅も安泰ですわよ!」


 そう言いながらオホホと上品に笑うリン。

 一方で遠回しに同行を拒否された結衣たちが恨みがましい目で華世たちを睨んでいた。

 けれども彼女たちをリンが選ばなかった理由は理解できる。

 リンはコロニー領主のご令嬢という、狙われる理由だらけの身分である。

 V.O.軍はもちろんの事、身代金目当ての犯罪者に狙われる可能性も無くはない。

 そうなれば、護衛として戦う相手はツクモロズではなく人間になる。

 結衣やももは生身の対人戦経験が無いため、有事に役に立てない可能性が大きい。

 この巡礼の旅は、学生の観光旅行ではないのだから。


「……それならば、傭兵団側からのオーダーをひとつ良いだろうか。アーミィ名義のキャリーフレームパイロットを一人か二人ほど護衛として追加してほしいのだが」

「パイロットを? 何でや?」

「渡航制限がかけられている以上、傭兵団側はコロニー内でキャリーフレームを動かしにくくなる。もしもキャリーフレーム戦を強いられたときに、時間稼ぎだけでもできる人材が欲しいのだ」


 あくまでも渡航制限や臨検はアーミィが敵対勢力をコロニーに通さないためにやっていることである。

 そのため、いくら内宮と知り合いだとしても傭兵団の戦力はコロニーに到着する度に長いチェックを受ける必要が出てしまうのだ。

 アーミィから身分が保証されている人間であれば、そのチェックを受けることなくキャリーフレームを発進させることができる。

 何が起こるかわからない旅路で、リンの安全を保証するにはそれだけ考えなくてはならない事が多いのだ。


「せやけどなぁ……クーロンのアーミィかてカツカツやで。防衛力強化のために、今回いろいろと運んできてもろたってのもあるし……」


 テルナ先生からの要請に頭を悩ませる内宮。

 まさに今、V.O.軍がコロニーのひとつを占領したところで割ける戦力は無いだろう。

 何が案をと考え始めた内宮の前で、ウィルがひとり勢いよく手を挙げた。


「だったら……俺が行きます!」

「ウィル、あんたが?」

「俺はアーミィの特別隊員だし、防衛力としては数えられてないから居なくなっても困らないはず。それに……」

「華世ちゃんと離れたくないから、でしょ!」


 結衣の言葉に、顔を赤くするウィル。

 華世の前で良い格好をしたい、という狙いが透けて見えるような照れ具合は、逆に信用できる材料だ。


「ではテルナ先生。わたくしと華世、ホノカさんとウィルさんがご厄介になるということで宜しいでしょうか?」

「ああ。艦長たちには私の方から伝えておく。出発は明日でいいだろうか?」

「そんなに早く出られますの?」

「事情が事情なだけに、のんびりする事はできないだろう。内宮千秋もそれでいいな?」

「まあ、ええやろ。ウィルの機体はうちからアーミィに言うて移動させといたるわ」

「ありがとうございます」


 トントン拍子に決まった巡礼の旅への道程。

 華世は明日から乗ることになる戦艦を眺めながら、必要な準備を脳内で洗い出していた。



 【4】


「華世、着替えは4日分入れとるから洗濯して着回してな。歯ブラシはここ、下着はこの袋にまとめとる」

秋姉あきねえ……あたし子供じゃないんだから」

「子供やろ!」

「はいはい、わかりましたよっと」

「結衣はん、あとで巨峰だしたるからな」

「あっ、お構いなくー!」


 目の前でせっせと華世の荷物をトランクに詰める内宮を、中身の無い右袖をプラプラさせながら眺める華世。

 その後ろでは、工具箱を広げた結衣が華世の義手を熱心に手入れしていた。

 ツンとした匂いのする缶に浸した筆を、人工皮膚の下の金属部分へと丁寧に滑らせていく。


「結衣、いま何してるの? さっきもあたしの接合部にそれ塗ってたけど」

「耐寒コーティングだよ! 最初に行くの、一年中が冬のウィンターでしょ? 機械義体をそのままで寒いところにいくと危ないんだよ!」


 人工皮膚を貼っているとしても、その下の金属は気温の変化の影響を受けやすい。

 そこで断熱材となる塗料を塗ることで、影響を少なくする必要があるのだという。

 これを怠ったまま極寒の地に降り立った日には、義体と身体を繋ぐ接合部からの凍傷により、命に関わる問題に発展する危険があるらしい。


「さすが、あたし専属の義肢装具調整士ね」

「えへへ、褒めても何も出ないよ! ……しばらく会えなくなるの、ちょっと寂しいかも」

「そうねぇ」


 巡礼の旅が、一日二日で済まないということはわかっている。

 航路が封鎖されているということは、コロニー間の移動は大回りしなくてはならない。

 そうなれば移動だけでも半日以上はかかるだろう。

 それに巡礼のためにコロニー内でも最低一日は滞在する必要がある。

 帰ってくるまで早くて一週間、遅ければひと月はかかると思われる。

 結衣が熱心に義手をメンテナンスしているのも、しばらく行えないからでもあるのだ。


「結衣も、ももとか支援部の連中を頼むわよ」

「うん! 私も魔法少女の力を使いこなせるように、頑張るから!」


「でも、困ることになるなぁ」


 パタンとトランクの蓋を閉めた内宮が、困った表情をしながら華世へと言った。

 なんの事だと華世が尋ねると、黙ってキッチンの方を指差す内宮。


「華世が家あけたら、誰も飯作れへんのやで」

「……知らないわよ。出前でも取ったら良いじゃない」

「はぁ〜……せめてミイナはんが料理苦手やなかったらな〜」


 ぼんやり呟く内宮に、華世は呆れの表情を送ることしかできなかった。



 ※ ※ ※



 電話の奥から物寂しく響く、ツーツーという不通の音。

 自室代わりのテントの中でひとり虚しい音を聞いて、ホノカはため息をついた。

 V.O.軍の勢力下に落ちたコロニー・サンライト。

 ホノカの育った修道院のあるその場所は今、外部からの連絡が断たれた状況にあるようだった。


「大丈夫かな、司祭さま……」


 身寄りのないホノカの母親代わりになって世話してくれた女司祭。

 慈悲深く優しい彼女は、ホノカにとっては実母に等しい存在である。

 V.O.軍が女神聖教徒だとわかっていても、無事が確認できないのは辛い。

 けれども傭兵仕事として請け負った巡礼の旅に、ワガママを言うわけにはいかない。


 着替えや荷物をカバンに詰めながら、ホノカは旅が平穏無事に終わることを、静かに祈っていた。



 ※ ※ ※



「……やっぱり、レッド・ジャケットだよな」


 早々に荷物を準備し終えたウィルは、余った時間でニュース映像を何度も見返していた。

 V.O.軍の戦力の大半を担う、特徴的な赤の装甲をまとったキャリーフレーム群。

 太陽系いちの規模と戦力を持つ傭兵団、レッド・ジャケット。

 その原型がベスパー戦役でアーミィに敗れた旧V.O.軍の構成員だということを、ウィルは知っていた。


 世間では、この2つの勢力の接点は知られていない。

 その事実を知る理由。華世と出合い、忘れかけていた過去を呼び起こされ、ウィルは思わず額を抑える。


「覚悟ができたから名乗り出たんだろ、俺は……!」


 自分に対する静かな叱咤。


 最愛の華世の力になりたい。

 その気持ち一つで巡礼の旅への同行を決めたのだ。

 自分の過去が、華世の自分に対する認識を変えるはずがない。

 そう、わかっていても……不安は払拭しきれなかった。



 【5】


「リン・クーロンさん、葉月華世さん、ホノカ・クレイアさん、ウィルさん。ようこそ、ネメシス傭兵団へ。私はネメシス級4番艦アルテミス艦長、遠坂とおさか深雪みゆきと申します」


 丁寧に頭を下げ、華世たちへと挨拶する艦長帽をかぶった若い女性。

 本来なら他の人間に任せそうな客の出迎えを艦長本人が行うのは、彼女なりの誠意の表し方なのだろう。

 華世たちも形式張った挨拶と自己紹介を交わし、その誠意へと応える。


「これから艦内を案内しますね。荷物はそこの者に預けてください」


 言われたとおりに、側にいるクルーの台車へと各々の荷物を乗せる。

 荷物が乗った押し車は、そのまま白い扉の先のエレベーターへと消えた。

 華世たちはその反対方向へ進む遠坂艦長の背中を追って、青白い床の上をゆっくりと進んでいく。


「艦長……と言う割には、随分と若いのね」

「よく言われます。けれども、あなた達だって若くして頑張っていると、ナインから聞いてますよ」


 優しく、穏やかな声で返答する艦長。

 その物腰の柔らかさは、百戦錬磨のネメシス傭兵団を束ねる人間とはとても思えない。

 華世は試されているのかと、心の中で疑っていた。


「その……テルナ先生、いやナインさんは来なくても良かったんでしょうか?」

「お気になさらず。彼女は彼女で別の大事な仕事をこなしていますから。ひとり抜けて回らなくなるほど、ネメシスは人手不足じゃありませんよ」


 ウィルの投げかけた質問にキッパリと答える遠坂艦長。

 テルナ先生は、傭兵団への仲介こそすれこの巡礼の旅には加わらなかった。

 内宮から受けたももを見守るという仕事と、妹たちを探す方を優先しているのだろう。


「ここが艦橋ブリッジです。私は普段ここにいるので、用があるときは内線で繋いでもらえれば応答しますよ」


 扉脇のパネルに遠坂艦長が手をかざすと、大きなスライドドアが音もなく開く。

 その先に広がっていたのは、広々とした空間の中にいくつものコンソールと椅子が並べられた大きな部屋。

 それぞれの席にはインカムをつけた男性や女性が座り、艦を動かすための色々をやっている。

 ここが戦艦の頭脳を司る、一番重要な場所なのだ。


 艦長が艦橋に入ったのを確認したのか、いかにも艦長席といった椅子の隣に立っていた男が、こちらへと歩み寄ってくる。

 大きなサングラスで目を隠したその男は、華世たちへと口元だけで微笑みを送った。


「君たちが巡礼の旅に出るという子どもたちだね。私はカドラ、副艦長をやらせてもらっている」

「わたくしはリン・クーロンと申します。この度の旅路の中、お世話になります。ですが……」

「ですが?」

「わたくしたちはお金を払いこそすれ、客人という身分に預かるつもりはありません。あくまでもテルナ様からの提案により、協力してもらった者だと考えておりますの」


 前を見据え、はっきりとした口調で喋るリン。

 あくまでも対等でありたいという意気込みは、ここに来るまでの間に華世たち皆で考えた総意。

 わざわざ一人の少女のために、人員を割いてくれる傭兵団への誠意である。


「……ですから、過度な歓迎や機嫌取りに注力して頂かなくても構いません。どうか、よろしくおねがしいますわ」

「ほう……よろしく。そうだな、ユウナ!」

「はーい!」


 副艦長カドラが、奥の方へと座る少女へと声を張り上げた。

 返事をしながら駆け寄ってきたその少女──と言っても、華世たちよりひと周り年上だが──は来るやいなや、ニッコリとしたスマイルで、ウィルの顔を覗き込んだ。


「……えっと、俺の顔になにか付いてる?」

「イマイチ、かな」

「えーっ!?」


 初対面の女の子に顔面を否定され、涙目になるウィル。

 一方で艦長がユウナと呼ばれたツインテールの少女の頭に、「こらっ」と言いながら軽いチョップをした。


「失礼ですよ。ユウナさん、私達は発進準備に取り掛かるので、この子たちを部屋に案内してあげてください」

「わっかりまっしったー! それじゃあ付いてきて! 案内してあげるから!」

「ちょ、ちょっと……」


 強引に華世とホノカの腕を引っ張りながら、艦橋を後にするユウナ。

 廊下をゆっくりと歩きながら、彼女は後ろを振り向いて「あーあ」とぼやいた。


「……何よ?」

「ううん。素敵な恋に出会えるって聞いたから通信士のバイトを始めたのに、なかなか難しいなって」

「悪かったね、俺の顔がイマイチで」

「ゴメンごめん。それにしてもあなた達、艦長に何か感じなかった?」


 何か、と問いかけられても特にとしか返せない華世。

 少し悩んだホノカが、ポツリと疑問を投げかける。


「あの艦長さん、やけに若いけど……」

「だよねー! やっぱり怪しいよね!」

「怪しい?」

「ああ見えて艦長と副長ってただならぬ関係なんだって! 副長の年齢知らないけどたぶん三十代くらいよね。十歳差のカップルなんて、危ない雰囲気! あー私にも春が来ないかなー!」


 明らかにホノカの危惧とは別方向に話を持っていきつつボヤくユウナ。

 華世は他人の恋愛に熱心な案内人の姿に、結衣の姿を思い出していた。

 一方でリンは、軽薄な態度の相手に対しても丁寧な自己紹介をする。


「わたくし、リン・クーロンと申しますの。短い間ですがよろしくお願いしますわね」

「私はユウナ・マリーローズ。勤め始めて一ヶ月の新人通信士よ! よろしくね!」


 いくつもの扉の横を通り、広い階段を登る。

 そうして到着した4つ並んだ部屋の扉。

 その側にはここにいる4人の名前が書かれた、プラスチックのネームプレートがフレームにはめ込まれていた。


「ここがあなた達のお部屋。もうすぐ発進するから、椅子に座ってシートベルトをしておいてね。それじゃ!」


 言うだけ言って、艦橋の方へと走り去るユウナ。

 華世たちは互いの顔を見合わせてから、それぞれの部屋の扉をくぐった。



 【6】


『アテンションプリーズ! 当艦は巡航速度に入りました。コロニー・ウィンターまで……艦長ぉー、どれくらいかかるんですかぁー?』


 発進の振動が収まってから数分後。

 個室のスピーカーから聞こえてきたユウナのいかにも作ったような案内声を聞き、ホノカはシートベルトを外して立ち上がった。

 窓の外には、徐々に小さくなっていくクーロンコロニーと、その後ろの金星が見えている。


「宇宙、かぁ……」


 今、もしも戦闘になったら……とホノカはふと考えた。

 キャリーフレーム乗りのウィルや、宇宙戦用装備を用意している華世はなんの問題もなく迎撃に出られるだろう。


 けれども、自分はどうだ?

 変身すれば宇宙に出ることはできるだろう。

 しかし、ホノカの攻撃の手はガス爆発とテルミット射撃、それから機械篭手ガントレットによる打撃だけだ。

 そのどれも、宇宙では大した火力にならないのは明白である。

 あくまでもコロニー内での戦闘に特化していたホノカは、いま外の出来事に対して無力なことに気がついた。

 あくまでも女神聖教の人間として雇われたのか。

 戦闘要員になれないという事実に、少し心が沈んでゆく。


「……考えても仕方ないか。さて、と」


 陰鬱な気分を跳ね除けようと腕を真っ直ぐにあげて伸びをしながら、クローゼットを開ける。

 ハンガーにかかっているのは、自分用の宇宙服。

 非戦闘時は無理して着込まなくても良いが、宇宙艦に乗るときはこれを着て活動するのが普通である。

 せめて役に立てないならば、格好だけでも迷惑がかからないようにしておこう。

 そう考えながらスカートとブラウスを脱ぎ、一度下着姿になってから上下ひとつなぎの構造の宇宙服に足を入れる。

 そして、腰まで宇宙服を持ち上げたところで壁のモニターが点灯した。


「ホノカちゃん、今い……」

「着替え中です!!」

「わっ、ごめん!」


 ウィルに上半身がブラジャーだけの姿を見られ、赤面しながら片腕で胸を隠しつつモニターのカメラ機能をオフにするホノカ。

 部屋に入ったときに設定を確認するんだったと後悔しながら、急いで上まで宇宙服を上げる。

 そのままファスナーを閉じ、首の後にヘルメットをぶら下げてから再びカメラ機能をオンにする。


「……それで、何ですか?」

「みんなで格納庫を見ようと思ってるんだけど、一緒に来るかい?」


 宇宙戦艦の格納庫とは、それすなわちキャリーフレームハンガーに等しい場所。

 この艦を守るための戦力の確認のためにも、一度見る価値はあるだろう。

 ウィルへと了解の意を伝えてから、ホノカは個室から廊下へと出た。



 ※ ※ ※



 艦の後方に位置する、キャリーフレーム格納庫。

 金属の足場で形作られたキャットウォークに取り囲まれる形で並ぶ兵器の巨人。

 その中に見覚えのある1機の機体。

 ウィルが持ち込んだ〈エルフィスニルファ〉の前で、ホノカは足を止めた。


「嬢ちゃん、もしかしてこのエルフィスのパイロットかい?」


 ニルファのそばに降りてきた作業服姿の男に声をかけられ、ホノカはビクッとしてしまった。

 華世と一緒に立っていたウィルが「俺です」と言うと、作業員が腕を組みフンフンと関心をする。


「若いのにエルフィス乗りやってるなんて大したもんだ。このニルファってマシンは、クレッセント社が試作機をいくつか勢力にばら撒いたって聞いてたが……ここでお目にかかれるとは思わなかったよ」


 誇らしげな顔で満足する作業員。

 エルフィスという機種は、三十年ほど前の戦争で活躍した英雄的なキャリーフレームをルーツに持つ。

 以降、ときおり開発されるワンオフ機にはエルフィスの名が冠され、時の戦いの数々に名を残しているという。


 博物館を見て回る子供のように、華世を伴い歩き回るリン。

 ホノカはその後を追おうとして、格納庫の隅で唯一まわりに誰もいない機体が目に入った。

 両腕に大型の武器を装備させられていながら、ライトひとつ当てられない日陰者。

 放置されているという表現が似合うほどに、明るく騒がしい格納庫の中で異質な存在だった。


「もし……あのエルフィスは誰のなんですか?」

「あん? ああ……あいつは〈オルタナティブ〉っつったかな。クレッセント社に押し付けられた欠陥品だよ」

「欠陥品?」


 首を傾げるホノカへと、タブレット端末を片手に作業員が説明した。

 この〈オルタナティブ〉という機体、最初こそは新型エルフィスとして設計されていたらしい。

 これまでとは異なる技術体系で作られた高出力リアクター「デウス炉」を前提に組まれた高性能機。

 けれどもその実態は、炉の点火がどうあっても起動しない失敗作。

 欠陥品とされた〈オルタナティブ〉はエルフィスの名を与えられることはなく、他の様々な実験機と共に押し付けられるようにクレッセント社からこの艦に送りつけられたという。

 動けない機体ではあるが実験兵装の塊でもあるため、部品取りや武器の置き場所として放置されているのだという。


「嬢ちゃん、キャリーフレームのコックピットに乗ったことは?」

「相乗りなら何回か、ですがパイロットシートに腰掛けたことはありませんね」

「じゃあ体験してみるか? 若いのにキャリーフレームの操縦レバーを握ったことがないなんて勿体ない。なあに、どうせ動かねえ機体だ。横っちょのリフトに乗ってみな」

「は、はぁ……」


 気の良い言われるがままにホノカは〈オルタナティブ〉の脇に降りていたリフトに乗り、昇降ボタンを押す。

 ホノカを乗せたリフトはグングンと高度を上げ、あっという間に機体の腹部にあたる高さまで上昇。

 作業員の指示に従い装甲の裏にあるレバーを倒すと、ハッチが展開しコックピットが顔を出した。

 中へと入り込み、ウィルがやってたようにパイロットシートへと腰を下ろす。

 そして操縦レバーを握りしめ、欠陥品と言われた機体に思いを馳せる。


(私もこの機体も、いま戦闘が起こっても役立たずか……。なんだか、似てるな……)


 宇宙で戦えない魔法少女と、動かないキャリーフレーム。

 優しくホノカを包んでくれるパイロットシートに身を預けていると、なんだかこの〈オルタナティブ〉が慰めてくれているように思えた。


(お前だって、エルフィスと呼ばれたかっただろうに)


 乗る前に見上げた機影。

 その顔は見ようによってはエルフィス系に見えないことはなかった。

 それでもエルフィスの名を授かれなかったのは、失敗作ゆえか。

 明かりの灯らない真っ黒なコンソールを優しくなでながら、ポツリと「エルフィスオルタナティブ……かっこよくないかな?」と呟くホノカ。

 せめて自分だけでも、この機体をエルフィスと呼んでやろう。

 そう考えていた最中に、事件は起こった。



 【7】


 艦橋のすぐ外の宇宙に広がる、爆炎の光。

 至近距離の爆発に揺さぶられた艦体が、激しく全体を振動させる。


「きゃああっ!!」

「何事だ! 通信士、報告を!」


 優しげだった顔つきがキリッとし、声を張る遠坂艦長。

 ユウナはその声に答えるべく、送られてきた報告を読み上げた。


「は、はいっ! えっと、ミサイルの迎撃に成功とのことです!」

「発射位置の特定!」

「できてます! 銀経63距離4000……発射艦船、ペスカトーレ級です!」

「……レッド・ジャケットか!」

「敵艦、補給ステーションを盾にしつつキャリーフレームを発進させた模様!」

「艦砲戦をできないようにして、ミサイルで挨拶か……。こちらもキャリーフレームを出せ!」



 ※ ※ ※



『総員に告ぎます! 第一種戦闘配備、第一種戦闘配備についてください! キャリーフレームパイロットは、準備ができ次第出撃してください!』


 けたたましくなるサイレンと艦橋からの艦内放送が鳴り響く格納庫内。

 華世はリンとウィルを呼び戻し、二人にホノカの居場所を訪ねた。


「わたくし、知りませんわよ!」

「俺も……さっきまでは一緒だったはずなんだけど」

「ったく……世話の焼ける! とにかくリンはひとりで部屋に戻ってなさい。ウィルとあたしは出撃するわよ!」

「わかった……!」

「武運を祈りますわ!」


 愛機のもとへ走るウィルを見送りながら、華世は宇宙に繋がるエアロックの近くへと立つ。

 そこには出撃準備を終えた何機かの〈ザンドール〉が、発進用カタパルトに足を載せている最中だった。


「お嬢さん、もうすぐ空気を抜いちまうぞ。早く宇宙服を……」

「ドリーム・チェンジ」


 忠告をする作業員の前で、魔法少女姿へと変身する。

 激しい光とともに服装を変化させた華世に、よく事情を知らないであろうクルーたちが目を白黒させる。


「おかまいなく。あたしは人間兵器だから」

『待って、華世!』


 通信機を兼ねるリボンから聞こえたウィルの声。

 彼の止める声に、華世は背後から歩いてきた〈エルフィスニルファ〉の方へと振り向いた。


『艦長から、何か怪しいから俺と君は命令まで待機だって』

「それって……客人に出撃させない方便じゃ、ないわよね?」

『わからない。けど……あの人がネメシスの、傭兵団の長ならば、信じれるんじゃないかな』


 渋々と華世は、カタパルトから身を引き出撃を見守る。

 エアロックから空気が抜かれ、次々と発進するキャリーフレーム。

 そしてすぐさま、交戦する光の粒々が宇宙空間で明滅を始めた。


 華世はこめかみを指で叩き、義眼を熱源探査モードへと切り替える。

 見るのは先程〈ザンドール〉たちが発進していった方とは逆の宇宙。


「……なるほど、艦長さんの読みは当たってたってことね!」

『華世?』

「敵の狙いは攻撃してきた方とは逆! 反対側からの挟撃ってことよ!」


 義手の手首を発射し、キャットウォークの手すりを掴む。

 そしてワイヤーを巻き取る勢いに乗って、華世は宇宙空間へと飛び出した。

 義眼が伝える、前方からの熱源。

 それは紛れもなく一機のキャリーフレームのものだった。


(目には見えないということは、光学的なステルス……? 単機というのは妙だけど……ん?)


 敵機と思われる熱源から、粒状の何かが3つ放出された。

 義眼を望遠機能に切り替え、ズーム。

 見えたのは、光を受けて輝く正八面体。

 それらは周囲のスペース・デブリを吸い寄せるようにして集め肥大化。

 やがて華世の見覚えのある姿へと変貌した。


(ウィルと会った時に戦った……翼竜型ツクモロズ!?)


 目の前に出現した三体の敵。

 華世が左脚を失うきっかけとなり、ウィルと出会うきっかけとなったツクモロズ。

 後にアーミィで「プテラード」という名称を与えた、竜人のような姿をしたキャリーフレーム大の怪物だった。


(けど、あの時からあたしも強くなってんのよ……!)


 プテラードの口から放たれた熱線を回避しつつ、体を捻りながら接近。

 そのまますれ違いざまに斬機刀を抜刀、一刀のもとに核晶コアのある部位を切り捨てる。

 華世へと鋭い爪を広げる二体目へと、回し蹴りの動きで足裏からヒートナイフを発射。

 的確に狙った刃はプテラードの急所を直撃、一瞬でその身体がデブリへと戻る。

 残った一体が熱線を吐こうと鎌首をもたげるが、その首はウィルの〈エルフィスニルファ〉が放ったビーム・ダガー・ブーメランが一閃。

 胴体はビーム・ライフルによって貫かれ、突如現れたツクモロズは一瞬のうちに討伐された。


『おやおや。やはりあのような借り物の玩具オモチャでは役に立ちませんでしたか』


 リボン越しに広域通信で聞こえてきた、若い男の声。

 華世は反射的に、さっきから感じていた熱源へと義手から発射したナイフを飛ばす。

 なにもない空間でカキンと弾かれたあと、衣を脱ぎ捨てるようにして姿を表す一機のキャリーフレーム。

 そのボディは血のように真っ赤なプレート状の装甲を、上着のように纏っていた。


『あんたがこの攻撃の本命ね?』

『御名答。僕はレッド・ジャケットのドラクル所属、ジャヴ・エリンと言います。お見知りおきを、人間兵器さん』


 宇宙空間で戦う華世の姿に驚かないどころか、知っているような口ぶり。

 しかも通信開きっぱなしで会話を全て垂れ流しにするのは、よほどの余裕の表れなのか。

 華世は相手の得体のしれなさに、警戒を強めていた。


『レッド・ジャケットが、どうしてツクモロズを使っているのよ』

『我が隊は様々な場所にコネがありましてね。と、お喋りは終わりです。あの艦を頂くため、あなた達には僕の〈ペンネ・リガーテ〉の餌となってもらいます……!』


 敵キャリーフレーム〈ペンネ・リガーテ〉がおもむろに武器を取り出す。

 その武器の形状と駆動した時の動きに、華世は目を見開いた。


『う、う……!?』


 柄の先に形作るのは、環状のブレード。

 その側面に形成された無数のビーム刃が、激しい回転の中で光の輪を描く。


『いや……嫌ぁぁっ!!』


 頭の中に呼び起こされる、二年前の記憶。

 円盤状の機械から伸びる、回転する刃。

 切り裂かれ、肉塊へと変えられていく人々の姿。

 平和な街を一瞬で血に染め上げた、悪魔の兵器。


『やだっ……! 来ないで、来ないでぇぇっ!!』

『華世、どうしたんだ! くっ!!』


 頭が真っ白になったまま、錯乱する華世。

 その身体がウィルの〈エルフィスニルファ〉の手に握られたと気づいたのは、それからしばらく経ってからだった。



 【8】


『艦長さん! 応援をよこしてください!』

「どうした、何があった!」

『華世が……敵の武器にトラウマを刺激されてしまったっ! 守りながら戦ってるけど……これじゃたない!』


 艦橋に入ってきたウィルからのSOS。

 けれどもその要請に、艦長・遠坂深雪はすぐに応えることはできなかった。


「……敵艦からのキャリーフレームと我が方の戦力は互角。ひとつでも回せば均衡が崩れてしまう」

「敵はレッド・ジャケットの精鋭と見えるね。艦からの砲撃は当たらないだろうし、ウィルくんに当たる危険性もある」

「やむを得ん。ウィル、悪いが余剰戦力が出せない! ザンドール隊が優勢を確保するまで、時間稼ぎはできるか!」

『や、やってみます!』


 言葉では強がっているが、その語気から長くは続かないことは容易に読み取れた。

 けれども打つ手が思いつかない。

 深雪は早くも訪れたクライアントの危機に、打開策を探していた。



 ※ ※ ※



「華世が危ないっていうのに、私は……!」


 暗い〈オルタナティブ〉の中で、聞こえてきた通信の会話に苛立つホノカ。

 目の前で戦ってくれている人がいるのに、何もできない。

 この無力感は、あの時以来だった。


せんせいを守れなかったから得た力なのに……! また、私は守れない……!」


 頭の中に浮かぶのは雪の中に眠る、血まみれの恩師の姿。

 目の前でホノカを守るために倒れた最愛の人。

 機械篭手ガントレットを授け、永遠の眠りについた心の中の父親。


 肝心な時に、役に立たない。

 自分の不甲斐なさに、ホノカは拳を真っ黒なコンソールに叩きつけた。


「ねえ、エルフィスオルタナティブ……あなただってキャリーフレームなんでしょ、エルフィスなんでしょ!?」


 ひとり閉じられたコックピットの中で、涙を目に浮かべながら叫ぶ。


「華世が危険なのに、何もできない! 私は嫌だ、もう目の前で誰かが死ぬのは!」


 操縦レバーを握りしめ、カチャガチャとデタラメに倒しながら、ホノカは叫び続ける。

 

「お願い、力を貸してよ……エルフィスゥゥゥゥ!!」


 指先に感じだ刺激と同時にガクン、とコックピットが揺れた。

 闇を映していたコンソールに火が灯り、周囲のモニターが光を宿していく。


「う、動いた……!?」


 ホノカの目の前に表示されたのは、OSの起動画面。

 画面の中のプロセスバーが満ちた時、コンソールは機械音声を発した。


『おはようございます、マスター。私は当機の支援AI、フェアリィと申します』

「フェアリィ、艦橋に通信を繋げて! それから、出撃の準備を!!」

『イエス・マスター。カタパルトへの自動移動を開始。通信を繋げます』



 ※ ※ ※



『艦長さん……私です、ホノカです!』

「ホノカ……? 君はどこから通信している!」

『エルフィスオルタナティブからです! 今すぐ華世を助けに行かせてください!』


 突如入った通信回線から、まくし立てるように要求するホノカの声。

 深雪は起動不能だった〈オルタナティブ〉が動いていることに驚きつつも、それが唯一この状況を打破できる存在だということを理解していた。


「君はキャリーフレームの操縦は不慣れだと聞く。やれるのか?」

『わかりません……けど、このまま華世を見捨てることもできません!』


 健気に叫ぶ少女の声に、深雪はすぐに判断を下した。


「わかった。オルタナティブ、出撃せよ!」

『……はい!!』


 元気な返事に、深雪は思い出す。

 自分が初めて艦長席に座った時のことを。


「十年前を思い出したのかい?」

「ああ。カドラ、あのときあなたは漂流者だった」

「そして……君は無力な子供だった」

「けれども私が今ここにいるのは、あの時のネメシスの人たちが、私を信じてくれたから。そして、あなたが背中を押してくれたから」

「見守ろう、子供たちの力を。信じよう、彼女たちの起こす奇跡を」

「それが大人の、私達ができることだから……」



 【9】


「レッド・ジャケットが略奪とは、恥とは思わないのか!」

『宇宙は無法だ。裁くものはいない! あるのは……力によって奪われた弱者と、勝ち取った強者のふたつだけだっ!』


 間一髪の距離で、攻撃をかわし続けるウィル。

 華世を守るために強いられる防戦一方。

 手を使わなくても放てるビーム・ダガー・ブーメランも、対ビーム構造の赤い装甲の前には無力だった。


『我が方から盗み出された〈エルフィスニルファ〉がどれほどかとは思っていたが、この程度では盗まれたことは痛手ではないっ!』

「いたぶる者が好き放題を言うっ!」

『ハハハハハハハ! その役立たずの人間兵器を捨てたら勝てるかもしれないぞ!』

「くっ……!」


 ジャヴ・エリンの言うことは、ウィルも痛いほどよくわかっていた。

 華世を手に握っている間は、高速機動ができない。

 変形することもままならず、強みを殺された〈エルフィスニルファ〉が一方的に不利なのはわかっていた。


「断るっ……! 俺が戦う理由は、この娘のためだから!」

『じゃあ仲良くあの世へ行くんだな!』


 ウィルの眼前で〈ペンネ・リガーテ〉がビームソー・ブレードを振り上げる。

 激しく振動しながらビームの刃を回転させるあの武器の攻撃は、受け止めることはできない。

 ビーム・セイバーでつば迫り合いをしようにも、打ち合うビームを次々と切り替える向こうの方が押し合いには強いのだ。

 事実、すでにニルファのセイバーは初撃で破壊され、残骸が側に浮かんでいる。

 せめて華世だけでも守ろうとウィルはニルファを前のめりにし、コックピット・ブロックを盾にしようとした。


『エリートの僕に逆らった罰だ、受け入れ……ろ!?』


 突如、割って入るように放たれた無数の弾丸。

 直後に〈ペンネ・リガーテ〉へと体当たりを仕掛けた巨体が、敵をウィルの前から引き剥がした。



 ※ ※ ※



『まだ戦力を隠していたのか、あの艦は!!』


 通信回線から聞こえる敵の声に、ホノカは心臓をバクバクさせる。

 初めての操縦、初めてのキャリーフレーム戦。

 目の前で華世が恐怖する武器を構える敵の姿に、ホノカは負けないように操縦レバーに力を込める。


『僕の狩りを邪魔したな……! 黒いエルフィス、お前からビームソー・ブレードの餌食にしてやる!』


「攻撃、来る……! フェアリィ、防御兵装を!!」

『イエス・マスター、HWシールドを展開します』


 フェアリィのアナウンスと共に、左腕の肩に装備された盾がスライドし、前面に展開される。

 振り下ろされるビームの刃を受け止める……寸前に、シールドから真っ赤な閃光が放射された。

 盾から発された熱線に、ビームソー・ブレードが押し返される。


『熱エネルギーによる防壁っ……!? くそうっ!!』


 表面が焦げ付いたビームソー・ブレードを仕舞い込み、ビーム・ライフルに持ち変え距離を取る〈ペンネ・リガーテ〉。

 放たれるビームを回避しようとペダルに載せた足に力を込めるホノカであったが、緊張と震えで意識より強く踏み込んでしまう。


「う、あ、う……!!」


 上へ下へと揺さぶられるようにジグザグ運動しながら、次々と放たれるビームの弾を回避。

 ときおり避けそこなった光弾もあったが、フェアリィが制御しているのか自動で盾が受け止めてくれていた。


『自動防御は優秀なようだけど、操縦がまるで素人じゃないか!』

「フェアリィ! さっきの射撃武器の準備と、照準の設定を!」

『イエス・マスター』


 防御のために一度戻した右腕の射撃ユニットが、再び前を向く。

 コンソールにガトリングウォッチと表示された武装が、狙いの場所を捉えた。


「当・た・れーーーーっ!!」


 宇宙空間を乱れ飛ぶ、赤い弾丸の嵐。

 それは〈ペンネ・リガーテ〉の脇をかすめるように通り過ぎ、小さなスパークを起こさせるだけで消えていった。

 反撃で放たれたビームが自動で前に回った盾によって受け止められ、〈オルタナティブ〉が後ろに押し出される。


『下手くそめ! どこを狙っている!』

「下手じゃない……狙ったところには、当たった!」

『狙った? ビームソー・ブレードを破壊しただけじゃないか! 壊れかけの武器を壊しただけで、何の解決にも……』

「なるよ。だって……私達の最高の戦力が、目を覚ますから!」

『最高の、戦力だって……? うわっ!!?』


『どぉりゃぁぁぁっ!!』


 ホノカの後方から矢のように飛び込んできたのは、足裏からヒートナイフを出した格好で足を伸ばす華世。

 彼女は装甲に隠された〈ペンネ・リガーテ〉の肩の付け根へと巧みに突き刺さり、そのまま翻りつつ斬機刀で脆くなった関節を切り裂いた。


『ぐ、う!?』

『よくもあたしに、恥をかかせて、くれたわねっ!!』


 華世の怒りは止まらない。

 義手の甲からビーム弾を連射。

 コートのような赤い装甲が攻撃を阻もうと全面に集中したところで、斬機刀で切り裂く。


『死ねよやぁぁっ!!』


 振り上げられた〈ペンネ・リガーテ〉の脚が華世を捉えたが、すかさずビームガンをセイバーモードへと切り替え。

 爪のように伸びた二本のビーム剣が、鋼鉄の脚を切り裂いた。


『この僕が? 素人と? 生身の? 女の子に? やられるだって!? そんな、認めません! 認めませんよぉぉぉ!!』


 通信越しに響く、ジャヴ・エリンの負け惜しみ。

 けれどもウィルたちの背後から助けに入ったザンドール群を見ては、さすがに無茶な反撃には転じれなかった。


『よくやったな、少年少女! 反対側は掃討した!』

『ネメシスの皆さん! あっ、敵が!』


 右腕と右脚を失った格好の〈ペンネ・リガーテ〉が背中を向け、猛スピードで戦場から離脱していく。

 この速度では、〈エルフィスニルファ〉の戦闘機形態くらいでしか追うことはできないだろう。

 単機で追えば、また先程の二の舞になるのは目に見えている。

 それがわかっているからこそ、ウィルはこの場から動かなかったのだろう。


『お疲れさまです、マスター。戦闘評価……Eマイナス、もっと精進してください』

「わかってるよ、そんなこと……でもお疲れ、フェアリィ。お疲れ、エルフィスオルタナティブ……」


 コックピットの中で一人脱力するホノカ。

 魔法少女としてではなく、キャリーフレームパイロットとしての少女の初陣は……なんとか格好がつく結果に終わった。

 ザンドール隊に抱えられながら艦に戻る間に、一人そう思っていた。



──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.19


【ネメシス級4番艦アルテミス】

全長:221メートル

全幅:42メートル


ネメシス傭兵団の旗艦。

黄金戦役で活躍した戦艦ネメシスが老朽化により退役したため、その技術をベースに新造されたこの艦がネメシス傭兵団へと与えられた。

武装としては主砲に連装重力波砲、副砲として多連装プラズマミサイルとクラスター・ビームを持つ。

全面に対空迎撃用のビーム機銃であるビーム・ファランクスが装備されており、対空能力は抜群だが、対ビーム兵装に富んだキャリーフレームに肉薄されると抵抗できなくなってしまう欠点を持つ。

ネメシス級の特徴である主砲・空間歪曲砲は主砲とするにはオーバースペックだったため、艦首単装砲として残されている。



【エルフィスオルタナティヴ】

全高:8.2メートル

重量:16.4トン


ネメシス傭兵団に木星クレッセント社から押し付けられた試作キャリーフレーム。

正式名は「オルタナティヴ」であり、厳密にはエルフィスシリーズではない。

表立てでは「失敗作」とされているが、これは異なる技術体系を用いた新造ドライブの起動が搭乗者の資質に左右されすぎるため。

動力炉の起動さえできれば性能は指折りだが、ホノカが起動した状態では全力の三分の一にも満たないパフォーマンスしか発揮できていなかった。


武装としては腕時計の要領で右手首に固定されている射撃兵装、ガトリング・ウォッチ。

左肩に装着されている熱線発射機構を備えた対ビームシールド、ヒート・ウェイブ・シールド。

右脇に実体剣、フレイムエッジが装備されている。

最新世代キャリーフレームなため、支援AI「フェアリィ」を搭載している。



【ペスカトーレ級】

全長:209メートル

全幅:74メートル


レッド・ジャケットが運用する宇宙戦艦。

双胴構造の珍しい艦体をしており、航行速度に優れるためゲリラ的な運用に最適である。

また、その構造と幅広の船体には巨大なキャリーフレーム格納庫を有し、宇宙空母としての性能が非常に高い。



【ペンネ・リガーテ】

全高:8.1メートル

重量:9.5トン


傭兵団レッド・ジャケットの中でもV.O.軍の指揮官に任命される資質を持った若者たち「ドラクル」に与えられるキャリーフレームのひとつ。

レッド・ジャケット所属機は所属判別も兼ねて、全機が共通の赤い装甲をもった防御兵装を装備している。

これは対ビーム構造をもつ装甲を積層化したもので、ビームに対しては無敵の防御性能を誇る。

そのために両腕の可動範囲を狭めているようにも思えているが、機体の支援AIが動きの邪魔にならないように自動で装甲をスライドさせるため、格闘戦においても干渉することはない。


ペンネ・リガーテは搭乗者ジャヴ・エリンの意向により格闘武器ビームソー・ブレードを装備している。

これは柄の先の円盤内に放射状に装着されたビーム刃が、円盤ごと回転することで電動丸ノコのような働きをする武器であり、格闘戦においてビーム・セイバーとの鍔迫り合いに対して一方的に打ち勝つことができる。

反面リーチ管理が難しく、機械構造的な部分に火力を頼っているため損傷に弱い。

他にもビーム・ライフルを装備しているが、これは広く流通しているJIO社製の標準モデルであり、特徴的な部分はない。




──────────────────────────────────────


 【次回予告】


 華世たちの離れたクーロンを守りたいと決意を固めるも、襲いかかるキャリーフレームにすくんでしまう結衣ともも

 途方に暮れる二人の前に、ウルク・ラーゼの幼馴染を名乗る女性が姿を表す。

 その同じ時、咲良もまた亡き妹を知る謎の少女と出会っていた。


 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第20話「ふたつの再会」


 ────かつての絆が、今を輝かせる。

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