第9話「マジカル・カヨ戦闘不能」

 子供が主役の物語って、しゃあないけど大人は脇役やねんな。

 せやけどその大人にだって、大人としての意地もあるし仕事もあるんや。

 子供ばっかに無理させとったら、情けないからな。


 ま、大人ばっかが活躍してたら話にならへんのはわかっとるんやけどな……。



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       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


     第9話「マジカル・カヨ戦闘不能」


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 【1】


「ミイナさん、しっかりしてくれ!」

「駄目ね、完全に動かなくなってる」


 華世は暗いリビングの中で倒れたままのミイナの横で、冷静に彼女の肌を触りながら分析していた。

 驚いたような顔のまま、ピクリと動かないミイナ。

 格好はメイド服のままで、衣服が乱れたり身体が傷ついているわけではない。


 鍵はかかったままだし家は荒れていないので、何者かが侵入したという線は無いだろう。

 家が平和だったのを象徴するように、ミュウはハムスターケージの中で寝息を立てているくらいだ。


「アーミィ支部に連れて行くわよ。ドクターに見せないと」

「タクシーを呼んだほうがいいんじゃ……」

「この時間じゃ電話で呼んでも何分かかるか……こうなったら! ふんぎぎ……!」


 華世はミイナを担ごうと、彼女の身体に手をかけ力を込めた。

 けれどもまるで岩にでもなったかのように、重たい身体は少しも持ち上がらない。


「ハァ、ハァ……そういえば、普段は重力制御で軽くしてるって言ってたわね……」

「だったら俺が……お、重い……!」


 今度はウィルがチャレンジしようとするが、不発に終わる。

 おそらくだが、彼女の身体は現在100キロはゆうに超える重量になっているだろう。


「こうなりゃ最後の手段よ。ドリーム・チェンジ!」


 その場で呪文を唱え、魔法少女へと変身する華世。

 この姿なら腕力も向上するため、持ち上げられるようになるだろう。


「ウィル、あたしの部屋から適当なコート持ってきて。厚手の!」

「え?」

「この格好で外を走り回るわけにもいかないでしょ! せめて少しは隠すのよ!」

「わ、わかった!」


 ウィルが華世の部屋へと飛び込む中、もう一度ミイナの身体に手をかける。

 変身前よりは遥かに軽い、けれどもまだかなりの重量を感じ、どうやって運ぶのが効率がいいかを考える。


「華世、このコートでいい?」

「ありがと。それじゃあ……」


 投げ渡された冬物のコートに袖を通し、華世はミイナを抱えあげる。

 腕だけでなく全身で重量を支えるため、いったん肩を介してからミイナの胴体を自分の首の後ろに乗せるようにしてから、両手で腕と足を一本ずつ掴む。

 前かがみの体勢で背中に横向きで担ぐ格好となったが、見てくれにこだわっている場合ではない。


 ウィルが開けてくれた玄関から飛び出すように、華世はマンションの廊下へと走り出る。

 そのまま気合を入れて跳躍し、華世は高層階から飛び降りた。

 同時に背中についている姿勢制御用の推進機を真下に向かって噴射。

 落下速度を落としながら緩やかに一階へと着地し、そのまま敷地から走り出る。


 そとは小ぶりなれど、にわかに雨が降り始めていた。


「こいつは……きつい……わね……!」


 街灯が照らす歩道を全力疾走しながら、華世は息を切らせていた。

 ただでさえ現在、夕方の戦いで負った傷で身体を痛めていたのだ。

 そこに超重量を抱えての全力疾走、追い打ちをかけるように打ち付ける雨。

 コロニーでは日中の降雨で生活に支障が出ないよう、夜になってから雨が降るのがお決まりだが、今はその制度が仇になっていた。


 アスファルトを踏み鳴らす豪快な足音を立てながら、アーミィ支部へと華世は急ぐ。

 雨水が染み込んだコートと魔法少女衣装がズシリと重くなり、身体を締め付けるようにまとわりつく。

 体の限界が近いのか視界がボヤけ始め、足元がおぼつかなくなってきた。

 しかしミイナを地面に投げ出すわけにもいかないので、気合で地面を踏みしめ意識を繋いでいた。



 【2】


 完全に消灯され、非常灯だけが薄明かりのようにぼんやりと光る待合スペース。

 誰もいない空間に並ぶ長椅子の隙間を突っ切って、華世は受付へと飛び込んだ。


「申し訳ありませんが、すでに業務は……華世さん!? それとミイナさん!?」

「チナミ……さん、ドクターに……繋いで……! 早……く!」


 息も絶え絶えになりながら、その場で膝を折る華世。

 全身から滴る、汗と雨水が混じった液体が床に水たまりを作ってゆく。


「華世、大丈夫かい!?」


 遅れて入ってきたウィルが、床に濡れた傘を投げ捨て側へと駆け寄る。

 彼の顔を見て、ふぅとため息をついたところで華世の意識は闇へと落ちていった。



 ※ ※ ※



「……それでまどっち、華世はどうなんや?」


 ウィルの隣で平静を失いつつある内宮が、華世に点滴の針を刺したドクター・マッドへと尋ねた。

 するとドクターはタブレット端末に指を滑らせながら、冷静に視線を上へと上げた。


「酷く衰弱していたが、病名はコロニー風邪だな。極度の疲労と傷の修復で免疫機能が落ちていたんだろう。雨に濡れて駆け込んだそうだしな」

「んで、大丈夫なんか?」

「点滴を打ったから直に良くなるだろう。ただ無理をしがちな性格上、3日は安静にと伝えるつもりだが」

「はぁー……よかったわぁ」


 安心したのか、椅子へと腰を下ろし天井を見上げる内宮。

 ウィルも、ひとまず安堵の声を漏らす。


「ドクター、ミイナさんの方は大丈夫なんですか?」

「そっちの原因はもっと単純だ。バッテリーの経年劣化により蓄電効率が落ち、本人の想定より先に電力切れを起こしただけだ」

「まどっち、それって電池切れ言うことか?」

「自動車のバッテリーが上がった状態に近いな。とにかく、一度メーカーに送ることになる。手続きはこちらでやっておこう」


 そう言うとドクター・マッドは静かに病室を去った。

 華世の寝息だけが聞こえるしんとした部屋に、雨水が窓を叩く音が響く。

 くたびれた様子の内宮が、ひとつ大きなあくびをした。


「オオゴトやのうて良かったわ。華世もミイナはんも、うちにとっちゃ大事な家族やからな」

「ええ。華世も、ミイナさんを大事に思って無理したんでしょうし」

「んー……それやったらええんやけどな」

「え?」


「ミイナはアンドロイドや。人間と違うて、対処にかかる時間が生死を分けることはあらへんのや」

「翌朝になって、ゆっくり連れてきても良かったと?」

「せや。こないになったのも初めてやあらへんしな。前に消化系の装置故障して、電池切れなったことあるねん」


 それが本当であれば、傷を押して雨の中、無理に連れてくる必要はなかったはずである。

 結果、こうして華世は倒れる羽目になったわけで、冷静な華世とは思えない行動だった。


「……ウィルやったら言ってもええか。華世はな、ときどき感情が不安定になることがあるんやて」

「え……? とてもそうには見えませんけど」

「普段はええんやけど、突然ひどく態度が冷たなったり感情的になったり。今回も、ミイナが倒れたん見て冷静さを欠いたんやろなあ……」


 内宮本人も自信なさげに、指先で頬を掻く。

 ウィルは、彼女が言っていることに少し心当たりがあった。

 華世がやけに自身や敵にドライだったり、年齢の割に妙に達観した所があるのも、そういった精神の不安定さからくるものなのだろうか。


「うちがもっと、もっとしっかりしとったら……こないなことには、ならんかったんやろうなぁ」

「それって、大人の自意識過剰……じゃないですかね」

「自意識過剰?」

「俺も、華世もあなたも、精一杯生きている一人の人間です。俺たち若輩者が、若さや未熟さから失敗はすることはあっても……自分の行動には意志が伴ってます。大人なら全てがうまくいくとか、そういうことは無いと……俺は思ってます」

「……ハハ、言うてくれるやないか。せやなぁ……保護者やいうても何でもできるわけやあらへんし、過保護にするつもりもあらへんからな」


 苦笑いをしながら天井をぼんやりと見上げる内宮。

 生意気なことを言ってしまったかな、とウィルは自己嫌悪に陥りつつ、話題を変えようと前々から気になっていた事を問うことにした。


「ねぇ、内宮さん。どうして、華世はこんなに傷ついてまで戦うんでしょうか」

「ふわぁ~あ……さあなぁ。なんでも、魔法少女としてツクモロズに勝つと、願いがひとつ叶えられるんやて」

「願い?」

「それが何かは知らへん。けど、その願いのために華世は身体はって戦っとるんやて。前に華世が言うとったから……ふぁ、間違いあらへんやろ」


 その願いが何なのかは、内宮もわからないようだった。

 けれども華世の力になるなら、何かしら手がかりだけでも知り得たい。

 どうやって取っ掛かりを得ようかと、ウィルはとりあえず声をかけようとして……やめた。

 

「すぅ……すぅ……」


 静かに腕組みしながら、寝息をたてる内宮。

 思えば彼女は、昨日の学校で起こった戦いの後始末から、夜通し働き続けていたのだ。

 すでに時刻は夜明け前。心配の緊張感が解けて眠ってしまってもおかしくないだろう。


 ウィルはメモ代わりに先に帰る旨をメッセージアプリに送り、すやすやと眠る華世と内宮を起こさないよう、そっと病室から立ち去った。



【3】


「──でね、支部の場所がわからない私を、道案内してくれたのが華世ちゃんだったの〜」

「なんとも運命的な出会いだねぇ」


 アーミィ支部の正面入り口から聞こえてきた声を、音声センサーが拾う。

 受付アンドロイド・チナミは他愛もない会話に花を咲かせる咲良は楓真ふうまへ、ニッコリとスマイルを送った。

 その笑顔に気づいた二人が、同時にIDカードを取り出してカウンターの前で立ち止まった。


「チナミさん、おはよ〜」

「葵曹長、常盤少尉、おはようございます。出勤記録を取るので、IDカードをかざしてください」

「は〜い」


 咲良はカウンターにある装置へとカードをかざし、認証を示す電子音を鳴らした。

 隣に避けて楓真がカードをかざしている間、チナミは咲良の肩をチョンとつつく。


「葵曹長、今日は内宮少尉はお休みですって」

「えっ、隊長が?」

「昨日は事件報告書の作成で居残っていたんですが……。華世ちゃんとミイナさんが倒れられて、夜通しつきっきりでいたんですよ。それで、疲労を考えて支部長が休みを命じたんですって」


「おや、あの支部長にしては随分と人情的だねぇ」


 認証し終えた楓真が、片手でカードをしまいながら肘をカウンターへと乗せた。

 咲良が不思議そうな顔をしているのは、支部長への信頼が足りないからであろうか。


「まあ、今日はラーグ小隊が警戒担当なのでの措置だとも思いますが」

「ま、僕らとしてはよっぽどのことがなければ訓練と書類仕事で済む日になるから、嬉しいことではあるけどね」

楓真ふうまくん。そういうこと言ってると、不真面目だって隊長に叱られちゃうよ~」

「居ないから言ってるのさ」


 和気あいあいとした会話の中に漂う不思議な雰囲気。

 センサーでは感じ取れないが、そこにはたしかに何かがあった。

 チナミはその雰囲気から勘付いていたことを、今日こそ尋ねてみようと口を開く。


不躾ぶしつけですが、お二人は男女の仲なのですか?」

「別に? なんで~?」

「いえ、アンドロイドの身としても、人間の男女のコミュニケーションというものに興味がありまして」

「僕らは良いも悪いも知りすぎた腐れ縁だからねぇ。ご希望には添えなくて悪いが、そういう仲じゃないのさ」

「はぁ……人間って難しいんですね。それでは、良いお仕事を」


 エレベーターホールへ歩き始めた二人を定型句で見送り、再びコンピューターに向かうチナミ。

 受付をする相手がいないときは、収集されたデータの整理や資料作成の手伝いを行っている。

 この作業はアンドロイドであるチナミが機械と直接接続すれば、秒で済む仕事ではある。

 けれども、なぜか人間と同じようにキーボードを叩き、マウスで機械と間接的に意思疎通をすることを命じられていた。


(どうして、面倒な方法を取らせるのでしょうか)


 一旦手を止め、一呼吸。

 呼吸とは言っても実際は体内の熱を排気しているのだが、生き物が空気を取り込むようにスゥと軽く空気を入れ替えた。


「お嬢さん、ちょっといいかのぅ?」


 優しくかけられた穏やかな声に振り向くと、一人の老婆がカウンターの前に立っていた。

 時代に似合わない古風で鮮やかな羽織を着込んだ、歳80ほどの老人。

 にこやかな微笑みをたたえたその顔は、しわくちゃなれどどこか神々しさというか、えも言われぬ迫力がある。

 チナミは笑顔を返しながら、目の前のお婆さんへと要件を尋ねた。


「はい、こちらコロニー・アーミィ・クーロン支部でございます。ご用件は何でしょうか?」

「私は矢ノ倉やのくら寧音しずねという者ですじゃ。こちらに、葉月華世というお嬢さんが居ると聞いたのじゃが……」


 

 ※ ※ ※



「ふんっ……ふんっ……」


 一人で過ごせる個室タイプの病室で、華世はベッドの上でダンベルを上げ下げしていた。

 右腕と左足の義体は外され、斜めに立てたベッドの端により掛かりながら生身の左腕のトレーニング。

 筋力低下を防ぐ日課の運動に励んでいると、病室の扉がガララと音を立てて横にスライドした。


「もう、葉月さん。病人なんだから大人しくしないとだめですよ」


 朝食を運んできてくれた女性の看護師が、ムッとした表情でトレーをベッドの上に渡された机に置く。

 華世は表情に不満さを表しながら、渋々とダンベルをシーツの上に置いた。


「看護師さん、ドクターに言ってよ。せめて手足だけでも返してって」

「いけません。訓馬さんから3日はあなたを外に出さないようにと言い付けられてますから。歩けるようになったら勝手に出ていっちゃうでしょう?」

「……否定できないわね」


 コロニー風邪とはいえ、疲労の蓄積が原因となった病気。

 一日二日でぶり返すよりかは、本調子になるまでおとなしくしていろという大人の判断だろう。

 華世としても休むことには同意だが、いかんせん暇すぎるのだ。

 これでツクモロズ発生の報など聞けば、病室を抜け出すくらいはしそうだと自分でわかってしまう。

 それくらいなら、物理的に身動きが取れない状態にして軟禁するのが確実だろう。


「それに訓馬さん言ってましたよ。新しい装置をつけてあげるって」

「新しい装置? 何かしら」

「さあ? ほら、ご飯を食べて。体力がつかないと治るものも……」


 不意に、ピピピと病室の電話機が鳴った。

 看護師が受話器を手に取り、耳に当ててふんふんと頷く。


「葉月さん、矢ノ倉やのくらと名乗るお婆さんがお見舞いに来られたと受付のチナミさんが。知り合いですか?」

矢ノ倉やのくら先生……!? 通してあげて、知り合いよ」

「はい。チナミさん、葉月さんが通してと……」


 久々に聞いた恩人の苗字に、華世は左手を震わせた。

 積もる話なら、いくらでもあるからだ。



 【4】


「ふっふーん♪ ふんふふーん♪」

「クーちゃんご機嫌だね。そんなにお土産に自信があるの?」


 病院施設の廊下を鼻歌交じりに歩くリン・クーロンへと、結衣は疑問を投げかけた。

 もう少し進めば、華世が入院しているという病室にたどり着く。


「わ、わたくしは決して、このリンゴを剥いてあげたいとか思っているわけではなくてですわね……」

「素直じゃないんだー。友達に親切にしたいくらい、恥ずかしがらなくてもいいのに」

「そ、そうですわよ。友達ですもの! ……友達ですわよね?」

「私に聞かれても困るよー」


 今朝、ウィルからの連絡で華世が入院したと聞いたときは驚いた。

 けれども、リンとともに見舞いに行くと決まるまではそう時間はかからなかった。

 行きがけに見舞いの品として、リンが果物屋でリンゴを購入したのがつい半刻前。

 3人でリンゴを食べながら談笑する姿を思い描いていると、リンの足が扉の前で止まった。


「どうしたの、クーちゃん? 華世ちゃんの部屋はここだよ?」

「話し声が聞こえますわ。中を見て、誰かいますの」


 促されるままに、リンとともにわずかに空いた扉の隙間から部屋を覗き込む結衣。

 ベッドの上に上半身を起こした華世と、そのそばにきれいな羽織を身に着けた背中が椅子に座っていた。


矢ノ倉やのくら先生、ご無沙汰しております」


(華世ちゃんが敬語使ってるの、初めて見た……)

(シッ! 気づかれますわよ……!)


 矢ノ倉やのくらと呼ばれた人物が、頭を下げる華世を撫でる。

 再び顔を上げた華世の表情は、少し穏やかだった。


「色々なところで聞いておるよ。あなたの活躍は」

「先生がリハビリとともに教えてくれた宇宙体術と、剣術のおかげです」

「……そうかそうか、私が教えた技がようやく役に立ったのかい」


 満足気に頷く老婆。

 彼女と華世の間の空気は、とても割って入れる雰囲気ではない。


「義手のリハビリを早期に終えたあなたには、並々ならぬ気迫があったからのう。稽古を付けたのが、つい昨日のようじゃ」

「できればこのようなお恥ずかしい姿は見せたくありませんでしたが……」

「よいよい。身内を助けようとしてのことなら、恥ずることはない。……今も復讐を目指しておるのか?」


 復讐、という言葉を聞いた華世は、深くゆっくり頷いた。

 その顔つきは、覚悟を決めた硬い表情。

 ツクモロズとの戦いの中でさえ見せなかった顔をしていた。


「2年前、コロニー・スプリングに殺人兵器を送り込んだ何者か。それが個人か組織かも分かりませんけれど……あたしはいつか、その犯人を」

「決意は揺らがぬか。じゃが、あなたは妖しげな者たちとも戦っていると聞くが?」

「ツクモロズを倒せば、願いが叶うと……そう聞いたんです」

「願いか……両親か、故郷かの?」

「どれほどの願いが叶えられるかは定かではありません。けれども、あたしは賭けているのです。その細い糸に」


 結衣は、華世が身に受けた悲劇を断片的には知っていた。

 けれども、その内に秘める復讐心や願いのことは、これまで一度も聞いたことはない。

 親友の見せた、普段は見せない姿に結衣の鼓動は少し大きくなっていた。


矢ノ倉やのくら先生は、なぜここに?」

「近くを通りかかったから挨拶にと思うとったら、ここにいると聞いたのじゃ」

「そうですか。正直、久しぶりに先生の顔を見れて嬉しかったです」

「このような老い先短い老骨の顔で喜んでもらえるなら嬉しいのう。さて、挨拶もそろそろに若い者に交代するかの」


 まるで最初からわかっていた、かのように矢ノ倉やのくら老人が結衣の方を見た。

 華世がギョッとした顔をしたのを見るに、気づいていたのは老婆だけだったようだ。

 意を決して扉を開き、苦笑いをしながらリンとともに頭を下げる。


「邪魔するつもりは無かったんですが、その……話し込んでいたので」

「よい、よい。華世にも友人ができたと知れたのは、良い収穫じゃ。では若い者同士、仲良くの」


 椅子から立ち上がり、ゆっくりと病室を出る老婆。

 しかしその歩き方は決して上体を揺らさない、隙のない歩き方だった。


「もう、結衣。せっかく先生が来てたのに」

「邪魔しちゃってゴメンね? 言っておけばよかったかな……」

「……まあ、いいけど。リン、何か言いたそうね」

「えっと、あのお婆さまはいったいどなたですの? 先生とお呼びになってましたけれど」


 直球の質問に、嫌な顔をせずに天井を見上げる華世。

 微笑みを交えた顔で、彼女は口を開いた。


「伯父さんの紹介で、あたしの義手のリハビリを担当してくれたお医者さん。と言ってもリハビリはすぐに終わったから、もっぱら武術の先生としての側面が強いわね」

「お医者さんなのに、強いの?」

「先生の過去については知らないけど、伯父さんにも稽古付けてたらしいわよ。あたしは宇宙体術と剣術を念入りに教えてもらった」

「宇宙体術ってあれですわよね。コロニー内の重力を利用した運動法……」

「そう。遠心力と人工重力で生み出された擬似重力を、身体の動かし方で緩和して武道に活かすすべ。これを知らなきゃ、あんなにピョンピョン跳ね回れないわよ」


 結衣はこのとき、初めて華世が最初から強かった分けてはないことを知った。

 いや、普通に考えれば生まれ落ちた瞬間から強いはずはないのであるが、華世の立ちふるまいや自信たっぷりの態度でそう思い込んでしまっていた。

 あの強さが武道と稽古の賜物ということを聞けたのは、華世について一つ知見をえたようで少し嬉しかった。


「あ、そうだ! クーちゃんがリンゴ買ってきたんだよ!」

「ありがとう……あたし今から朝食だし、デザートにいただきましょうか」

「やったあ! クーちゃん、ほら皮を剥いて剥いて!」

「わかってますわ。えーと……ナイフはどこにありますの?」

「……あるわけないでしょ。はぁ、看護師さんに持ってきてもらうわよ」


 呆れのため息を吐きつつも、華世はなんだか嬉しそうだった。



 【5】 


 暖かな朝日を差し込む粗末なテントの中。

 風にのって流れてくる様々な料理の混じった匂いをホノカは鼻で感じながら、透明な液体の入ったボトルに手を伸ばす。

 右手の武装篭手ガントレットの蓋を開き、漏斗ろうとを差し込み、その中へと液体をひと垂らし。

 ホノカは水滴が漏斗ろうとに沿って機械の中に入るのを確認してから、ボトルをぐいと傾けて一気に流し入れた。


「シスターの姉ちゃん、何やってるんだ?」


 テントの入口から覗き込んでいた少年が声をかける。

 おそらく年齢的にやましいことは考えていないであろうが、一人でいるところをこっそり見られていた不快感をホノカは吐露した。


「あのですね、女の子のいる場所を覗き見るものじゃありませんよ」

「えっと、そうなのか? ごめん……」

「素直に謝れるのはいいことです。私は今、可燃性ガスの生成を行っているんですよ」

「ガス?」


 ボトルの中身が空になったことを確認し、漏斗ろうとを抜いて武装篭手ガントレットの蓋を締める。

 スイッチを入れると内部機構が駆動を始め、ガスの残量を表すランプが徐々に点灯していく。

 中では注ぎ入れた燃料が触媒によって変化し可燃性ガスへと変換されているのだが、その構造を知らない少年には長々と説明しても無駄だろう。


「よし、っと……」


 一応の戦闘準備を終え、一息つくホノカ。

 別に、今からツクモロズが出した偽りの依頼のために華世という魔法少女を襲うつもりは毛頭ない。

 片腕の機械篭手ガントレットを数日前の戦いで損傷している今、懸念されるのはツクモロズの出現とアーミィに見つかること。


「……せんせい


 目を瞑ると浮かんでくる、亡き恩師の微笑み。

 寒く凍える環境下でも、太陽のように明るく頼れ、暖かかった一人の男。

 彼から譲り受けた機械篭手ガントレットを擦っていると、テントへ長老が訪ねに来ていた。

 老人の姿に、少年が苦い顔をする。


「じ、じっちゃん……」

「こりゃ、シスター様の邪魔をしてはいかん。シスター様、不便なところで申し訳ない」


 走り去る少年の一瞥いちべつしながら、長老がゆっくりと地に腰を下ろした。

 廃墟と言っても過言ではない寂れた建物群の中に、テントや掘っ立て小屋で暮らすスラム街。

 けれども、人の営みが生き生きとし暖かな助け合いで満ちたこの集落を、ホノカは好んでいた。


「いえ。教会暮らしよりも暖かくて快適です」

「そう言ってもらえて助かる」

「お爺さん。あなた方は……ベスパー戦乱の頃から、ここで?」

「うむ……あの戦乱から、我ら女神聖教の肩身は狭くなる一方じゃ」


 15年も前にビィナス・リングで起こったという戦い。

 ホノカが生まれる以前に起こった争いの、その遺恨は今でも残っているのか。


「正当性を訴えはしないのですか?」

「無駄じゃよ。アーダルベルトが目を光らせている内はの」

「その割には……アーミィ支部のあるコロニーとは思えないのどかさですが」

「アーミィにもな、話の通じる者はおる。今日にでもシスター様から頼まれたモノの修理は済むはずなのじゃ」


 思ったよりも早い修理完了の報に、ホノカは眉をしかめた。

 華世に破壊された片方の機械篭手ガントレットの修理を依頼したのだが、表立った業者には頼めない依頼であろうに、その割にはすんなりと通ったものだ。


「どうしたかの?」

「いえ、かなり手際がいいと思いまして」

「ホッホッホ。蛇の道は蛇、という言葉がありましてのう」


 にこやかに笑う老人に底知れなさを感じるホノカ。

 早めに戦う力をもとに戻せるのは願ってもないことだが、本当に大丈夫なのかと若干の不安を抱くのであった。

 

 



【6】


 ガヤガヤと大人が入り交じる、アーミィ支部の一角にある食堂。

 慌ただしい戦場のような厨房を前にしながら、結衣はカウンターに置かれているメニューの一つを指でさした。


「丼ものフェアなら……そぼろ丼くださーい!」

「はいよっ! そぼろ丼、一丁!」


 注文を受け付けている恰幅のいいオバちゃんが、背後に向けて快活な声を飛ばした。

 同時に結衣が装置に乗せていた携帯電話から電子音がなり、料金が決済されたことが画面に表示。

 再びカウンターの方を向いたオバちゃんの視線が、結衣の隣で注文を迷っているリン・クーロンへと向けられた。


「嬢ちゃんはどうすんだい?」

「えーと、ではこのカツ丼をいただけますか?」

「カツ丼だね? カツ丼、一丁! はい、これ鳴ったら取りに来てね」


 注文を終えた二人は、料理のできあがりを知らせる装置を受け取り、予め荷物を載せて確保していた座席へと座り込んだ。

 ぼんやりと厨房の方を眺めるリンの顔を見て、結衣は思わずクスりと笑ってしまう。


「……何がおかしいんですの?」

「いやー、くーちゃんもカツ丼とか食べるんだなーって! てっきり、あのような家畜の餌のような野蛮な料理、ワタクシの高級なお口には合いませんことよオホホホ! ……とか思ってるのかなって」

「ひどい偏見ですわっ! わたくしだって年がら年中高級料理を食べているわけでは有りませんのよ。ファストフードや即席麺といったものも、食べたことはあるんですのに」

「意外だね! あっ、鳴ってる鳴ってる! くーちゃんのも取りに行ってくるね!」


 パタパタと、小走りで受け取りスペースへと向かう結衣。

 自分たちのものと思われるドンブリの乗ったトレーを受け取ったその時、隣に置いてあったカツ丼5つを乗せたトレーが目についた。


(この量、一人で……? なわけないかぁ)


 そんなことを思いながら席へ戻ろうと振り返ると、そこに見えたのはアホ面丸出しの顔。


「カ~ツ丼っ♪ カ~ツ丼っ♪ ……あっ、結衣ちゃんだ~!」

「ど、どうも葵さん……」


 後に聞いた話によると、このときの結衣はとてつもなく顔が歪んでいたという。



 ※ ※ ※



「……へぇ、あのマジカル・ガール。入院したと聞いていたが元気そうでなによりじゃないか」

「そうなんですよ常磐ときわさんっ! 親友としても喜ばしい限りなんです!」


「……はぁ、ですわ」


 向かいの席で隣り合い、恋に燃える女の顔をしている結衣を見てリン・クーロンはため息を付いた。

 すごい形相でドンブリをもって戻ってきた彼女が、少し離れた席に咲良と共に昼食を食べに来た楓真ふうまを確認し、一緒の席で食べようと提案したのが15分ほど前。

 楽しそうなのは結構だが、ああいう色恋の闇的なものを見せつけられて、リンは少しげんなりしていた。


「ああ~おいし~! 幸せ~!」


 げんなり、という原因といえばもう一つある。

 この4つ目のドンブリの中身を流し入れるように口に注ぐ咲良もまた、リン・クーロンの気を削ぐ一因であった。


(どうして、このような量を一気に召し上がって平気なのでしょう?)

 

 同じカツ丼を食べたリンは、1杯でもかなりの量があることはわかっている。

 けれどもこの隣の大食漢、いや大食女は早々に3杯を平らげ現在は最後の4杯目。

 日常的にこの量を摂取しているとしても、スレンダーな体型を維持できるのは人間わざではない。


「そうだ結衣ちゃん。君、このあとヒマかい?」

「はい、常磐ときわさん!」

「じゃあ一緒に腹ごなしのウォーキングにでも行こうか!」

「えっ! いいんですか!?」


楓真ふうまくん、それい〜の?」


 目の前のやり取りに苦言を呈したのは、頬にご飯粒がついたままの咲良。

 空っぽになったドンブリを置きながら、携帯電話の時計を楓真へと見せつける。


「昼休憩、もうすぐ終わっちゃうよ?」

「君は話を聞いていなかったのか? 今日は隊長不在ついでに僕らのオフィスの清掃入れるから、昼休憩がプラス一時間になったって」

「そうだっけ?」

「君は食堂のドンブリフェアのチラシ夢中で、聞いていなかったのかもしれないけどね」


 ハハハと笑い合うアーミィコンビ。

 この二人の仲の良さに、結衣が入り込む余地はないんじゃないかとリンは感じた。

 けれども憶測で傷つけるのも何なので、あえてこの場は黙っておく。


「でしたら、わたくしも同伴してよろしいかしら?」

「別に構わないが?」

「ありがとうございます。少し高カロリーなものを摂取したので、身体を動かしたい気分でしたの」


 退屈で仕方なかった午後が予定で埋まったことに安堵しつむ、リンはコップの冷水をぐいと飲み干した。



 【7】


 四人で散歩に出かけるため、待合ロビーにやってきた咲良たち。

 ふと、正面出入り口を通って外へと向かう一つの人影が目に入る。

 季節外れの冬物コートを着込み、不相応な大きさのカバンを抱えた仮面の男。


楓真ふうまくん。あれ支部長じゃない?」

「確かにあの仮面は支部長で間違いはないが……彼も散歩かな?」

「支部長とは、ウルク・ラーゼ支部長ですわよね?」


 話に加わったのは、コロニー領主の令嬢リン・クーロン。

 いぶかしげに支部長の背中を見つめる彼女へと、咲良はどうかしたのかを問うた。


「わたくし、このコロニーの防衛をべる彼について何も知りませんの。それに常日頃から仮面をつけ素顔を隠す所業。なにか怪しいとはお思いになりませんか?」

「リンお嬢様の言うことも最もだねぇ。僕らは彼のもとで働くには、あまりに何も知らなさすぎる」


 楓真ふうまがまじめな顔で論述するが、その声色には面白半分が混じっていた。

 咲良は彼と互いに顔を合わせ、ニンマリ顔で同時に頷く。


「それじゃ〜、支部長のプライベート覗き見タ〜イム!」

「ストーキングするんですの!?」

「違う違う、偶然彼と同じ方向に歩くだけさ。よし、見失わないうちに行くぞ諸君!」


 意気揚々と外へ飛び出した楓真ふうま、その背中を追って駆け出す学生ふたり。

 その内の結衣がすれ違いざまに低い声で「常盤さんとアイコンタクト……」とつぶやいていたが、咲良はその真意には気づかなかった。



 ※ ※ ※



「……かつての人間兵器の?」

「そうッス。あのシスター魔法少女が身につけていた機械篭手ガントレットは、金星アーミィ発足前から居た人間兵器のものでしたッス」


 病室で枕に頭を載せたまま、華世は携帯電話の通話に耳を傾けた。

 電話越しに情報屋のカズから聞いた話は、にわかには信じられないことである。


「アーミィ発足前って、15年前でしょ? その頃にはまだ、あたしもあの女も生まれてないわよ?」

「その人間兵器は男ッス。調べによれば5年ほど前にアーミィを去って、以後消息不明ッスね」

「ということは、あの女はその人間兵器の後継者……?」

「あるいは奪い取ったかッスかね。魔法少女本人の所在や素性は未だにわかんねッス」

「ありがと。引き続き情報を洗っててちょうだい」

「……ッス!」


 通話を切った華世は、ゴロンと横に寝返りを打ち考える。

 あの女の狙い、その正体、魔法少女になった経緯。

 そのどれもが情報不足で、答えにつながる線は浮かんでこない。

 自ら動けない今、打てる手は打ち尽くしている。

 とりあえず今は雌伏しふくのときだと考え、華世はぼんやりとした微睡まどろみに身を任せることにした。



 【8】


 細い路地を右へ左へ。

 時折周囲を確認しながらどんどん暗い道を進んでいくウルク・ラーゼ。

 辺りは昼間だというのに薄暗く、廃棄された生ゴミの嫌な匂いが広がり、ときおり野良の犬や猫のたてる物音が響き渡っていた。


「暗いね、くーちゃん」

「ちょっと……怖いですわね」

「ねえ楓真ふうまくん。支部長、こんな所に何の用があるんだろうね~?」

「さあねぇ……お、動きを止めたようだな」


 辺りをキョロキョロと見渡したウルク・ラーゼが、古びた壁に取り付けられた扉に手をかける。

 金属の軋むような音とともに開かれた扉の奥へと消える支部長。

 後を追う咲良たちも、そっと足音を立てないようにゆっくり扉に近づき、隙間から奥を覗き見た。


「咲良、見なよ。この扉の先」

「これは……スラム街?」


 扉の奥には、廃墟寸前の家屋にテントを張り生活する人々が見えた。

 広場の一部分ほどしか見えないが、かなりの人数が暮らしているようだ。


「変ですわ。このような場所があるなんて、わたくし存じませんわ」

「クーちゃん、支部長さんが……」


 結衣の声を聞いて、咲良はウルク・ラーゼの方へと注意を向ける。

 怪しげな老人と会話を始めた支部長は、老人から札束を受け取っていた。


 スペースコロニーでの売り買いは、基本的に電子マネーにより交わされる。

 けれども、クーロンのように住宅用コロニーにおいては地球から来た人も多くいるため、例外的に現金のやり取りも行われている。

 しかし現金は電子マネーと違い、金の流れがデータとして残らないため後ろ暗い報酬のやり取りにも使われているらしい。


 つまり、今目の前で行われていることは……。


「天下の支部長サマが、汚職とはねぇ」

「まさか。支部長ってお給料いいんじゃないの?」

「人間の欲は底知れず……さ」


「動くなっ!」


「ひゃっ!?」

「ひっ!?」


 突然、背後に現れた男に銃口を向けられた咲良たち。

 4人とも言われるがままに頭の後ろに手を回し、背中を小突かれながら前へと進まされる。

 そしてそのまま、ウルク・ラーゼたちがいる広場へと突き出されてしまった。



 ※ ※ ※



 咲良たちが銃口を向けられる少し前。

 スラム街へとたどり着いたウルク・ラーゼは、巨大なカバンから鉄塊を取り出していた。

 先端に人の手を模した構造を持った重量のあるそれは、表面のつややかな金属装甲に光を反射して輝きを放つ。

 その機械篭手ガントレットを、ウルク・ラーゼの目の前に居た老人がそっと受け取った。


「まったく……アーミィ基地をいくつも破壊した女の武器を、私に修理させるとは。御老体もなかなかの肝だと感心するよ」

「ホッホッホ。我らの同志たるウルク・ラーゼであれば、断ることはないと踏んでな」

「相変わらず、食えない御仁だ」

「そうじゃそうじゃ、これは修理の礼じゃ」


 手渡された札束を、ウルク・ラーゼはさっと懐にしまい込む。

 彼らが現金でもののやり取りをしているのは、あくまでも電子マネーを使う携帯端末を持っていないからに過ぎない。

 貧しい生活を送っているために通信料金が払えず、このように古めかしい貨幣制度を使っているのだ。


「……苦労をさせるのう、ウルク・ラーゼ」

「御老体ほどではあるまいよ。仲間を助けるのは当然のことだろう」

「仲間……か。サンライト出身は、皆そのように言ってくれる」

「そう育てられたからな……む?」


 ドタバタといった、背後から聞こえた騒がしい物音に拳銃を手に掛けつつ振り返るウルク・ラーゼ。

 そこにはスラムの自警団員らに銃口を向けられ、両手を上げた咲良と楓真ふうま、それと子供が二人。

 後をつけられていたのか、と自らの仮面を指で抑えながら、ウルク・ラーゼは自らの迂闊さに自己嫌悪をした。



 【9】


「……まったく、尾行とは褒められた行為ではないな」

「支部長! 今のは何を……え~っと、このスラム街は何なんですか?」


 銃を向けられ土の上に座らされながらも、咲良はウルク・ラーゼへと詰問する。

 コロニー・クーロンに住んで日は浅い身ではあるが、領主の娘が知らないスラム街の存在は看過できない。


「葵曹長、君は……私が何をしているように見えたかね?」

「悪いことです!」

「もっと何か言うことはないのかね?」

「汚職的な賄賂わいろを受け取ってました!」


 ハァ、と仮面のついた顔から溜息がこぼれる。

 咲良的には言ってやったぜという気持ちであったが、どうやら的はずれだったのかもしれない。


「私が先に受け取ったのは、頼まれごとの報酬に過ぎんよ」

「お待ちなさい。わたくしはこのような街の存在、聞いたことがありませんわ」

「……これはこれは、クーロン嬢。ではあなたのお耳にも入れていただこう。彼らは住居の見てくれこそ不格好だが、正式に住民登録がされているれっきとしたコロニー市民だ」

「ではなぜ、このように隠れ住むように暮らしておりますの? お父様に相談していただければ、住みよい住居を用意するくらいは容易たやすいですのに。それに……」


 ちら、とリン・クーロンは自らに銃を向ける自警団……いや、民兵と思われる男たちをにらみつける。

 貧しいスラムの護衛にしては、やけに物々しい人たちだと咲良も感じていた。


 リンの言葉に、ウルク・ラーゼは俯くように顔の向きを少しばかり下げる。

 しかし、その仕草は俯くというよりは、まるで覚悟を促すような威圧感があった。


「君たちが──」


 今まで聞いたことのない、支部長の低い声に思わず息を呑む。


「他言無用を守れるならば、彼らの秘密を明かさないことはない。だが……!」


 ウルク・ラーゼが素早く懐から取り出した拳銃を、咲良たちへと向けた。

 仮面の目を覆う青色の硝子体が、まっすぐにこちらへと視線を向ける。


「し、支部長……!?」

「咲良、伏せろっ!」


 楓真に押しのけられる形で倒れ込む咲良。

 同時にウルク・ラーゼの銃が火を吹き、咲良の頭部が先程まであった場所を少し離れた位置を通り、背後の何かへと当たった。


「ジャン……クルゥゥ……」


 まるで荷物の山が崩れ落ちるような音とともに、地に伏す廃棄物の塊。

 周囲の民兵たちも、突然現れて倒された謎の存在にざわめき、たじろいでいく。


「な、な、なんですの……!?」

「くーちゃん! あれってたしか……!」


 これまで何度か華世が戦い、退けてきたツクモロズの尖兵ジャンクルー。

 そのゴミ人形たちがスラムの各地で発生し始めたのか、あたりが悲鳴と逃げ惑う人々で溢れてくる。


「葵曹長、並びに常盤少尉! 語るのはアーミィの矜持きょうじを貫いた後だ! 民間人の警護と避難誘導にあたれ!」

「は、はい!」


 拳銃片手に飛び出す支部長の背を見送りながら、咲良はリンと結衣の手を握る。

 身を預けるだけの信頼を持ってもらえたかは定かではないが、少なくとも二人は黙って握り返してくれた。

 側では自警団と共に、新たに発生したジャンクルーへと拳銃で応戦する楓真の姿。


「楓真くん、ここは任せられる?」

「僕を誰だと思ってるんだい? 殿しんがりは僕がやるから、君はその子達を早く避難させなよ!」

「ええ! ふたりとも、こっちよ!」


 互いに頷きあってから、走り始める咲良。

 後を遅れないように走るリンと結衣に速度を合わせつつ、避難シェルターがあるであろう方向へと目指して足を動かす。


「コロニーの構造上、シェルターはこっちにあるはず……!」

「葵さん、前に敵ですわっ!」

「ああっ!?」


 細い通路の行く手を阻むように、3体のジャンクルーが姿を表した。

 咄嗟に拳銃を抜くものの、一度に3体を仕留めることはできない。

 せめて一体でもとトリガーを引くものの、当たる角度が悪かった。

 弾丸が弾かれ壁に跡を付け、撃たれたジャンクルーがお返しとばかりにカラーボックスを発射。

 子どもたちを傷つけさせまいと、咲良は盾になるようにリンたちに覆いかぶさった。


(痛………く、ない?)


 背中越しに熱気を感じながら、恐る恐る振り向く咲良。

 そこにいたのは、片腕だけの機械篭手から炎の壁を作り出し、受け止めたカラーボックスを灰へと変える修道女だった。


「……平気?」

「あ、はい。あなたは……?」


「シスター様! あなたの武器ですぞ!」


 老人の声と同時に、咲良たちの頭上で放物線を描く機械篭手ガントレットの片割れ。

 シスター服姿の少女はその場で飛び上がり、空中で篭手を装着。

 そのまま着地と同時に金属板で覆われた拳を石床に叩きつけると、導火線のように火花が空中を走り、ジャンクルーから一斉に炎が上がった。


 咲良たちが散々、その正体や行方を調べていた傭兵「灰被りの魔女」。

 華世が言う、マジカル・ホノカが燃え盛る炎をバックにそこに立っていたのだった。



 【10】


「マズイな……」


 次々と現れるジャンクルーを打ち抜きながら、ウルク・ラーゼは頬に汗を垂らしていた。

 騒ぎが長続きすれば、アーミィが出動してしまう。

 そうすれば騒動は鎮圧されるだろうが、スラム街の存在が露呈ろていしてしまう。


「ジャンクル~~~!!」

「ちいっ!」


 背後から聞こえた雄叫びに、振り向きざまに銃を構える。

 しかし襲いかかろうとしていたジャンクルーは立ち登った火柱に包まれ、灰燼に帰した。


 目の前に降り立つ、シスター服姿の少女。

 ひときわウルク・ラーゼの目を引いたのは、彼女が両腕につけている巨大な機械篭手ガントレット

 そして頭にかぶっているヴェールに刻まれているマークに、視線を奪われた。


「そのマーク……そうか、君もサンライト教会の……!」

「教会を知ってる……? あなたも、まさか教会出身の……」

「フ……因果なものだな。だが、今はっ!」


 会話に文字通りに割り込むように、上から影が二人を覆う。

 同時にその場から飛び退き、降って湧いたジャンクルーの叩きつけを回避。

 示し合わせたわけでもないのに、ホノカとウルク・ラーゼは現れたジャンクルーのコアを挟み込むように蹴りつけ、破壊した。


「この戦いぶりを記録しておけば、君は労せずに人間兵器と認められるだろうよ」

「アーミィに身を売る気はありません。お構いなく」

「傭兵には野暮な話だったか。教会は苦しいのか?」

「私一人が支えている状況です。あの人がいなくなってしまったから……」


 哀しみをたたえた瞳。

 ウルク・ラーゼは仮面越しに彼女の表情を汲み、その肩を優しく叩いた。


「戦いの相手を見誤らないことだ。時が来れば、支えになってやれんこともない」

「……信じて、いいんですか?」

「私はアーダルベルトも、その小娘にものさばって欲しくない人間でもあるからな。……むっ?」


 先ほど倒し、崩れ落ちたジャンクルーの残骸が、ひとりでに浮かび上がる。

 そのまま宙を飛んだ骸が向かう先には、同じく倒されたゴミ人形の構成パーツが巨大なコアを軸に回転していた。


「巨大化……しているの?」

「我々では手に負えなくなりつつあるのやもしれん。だが、幸いなこともある」


 ウルク・ラーゼが見上げた空の先。

 雲の層を突っ切って飛ぶ一つの巨大な影が、高度を落としスラムへと着地した。


《葵曹長。要請の気配を察知し、ただいま参上いたしました》


 咲良の愛機〈ジエル〉がスピーカー越しに機械音声を高らかに上げた。



 【11】


 肥大化しつつあるジャンクの怪物。

 まるでタイミングを見計らったかのように現れた愛機の巨体に、少し驚きながらも咲良は歩み寄った。


ELエル、来てくれたのはありがたいけれど……気配って?」

《葵曹長がツクモロズ関連のトラブルに巻き込まれたと仮定し、私を必要とするであろう可能性が80を超過しました。華世嬢が戦闘不能な今、頼れるのは私とあなただけだと判断しました》


 恐ろしいほど的確、かつ合理的な判断を下したELエル

 しかし、命令も受けずに出撃したとなると頭が痛い。


《弁明の論文であればともに考えることもできましょう。しかし、今は目の前の敵性存在への対処優先を提案します》

「う〜、わかった。乗せて!」

《アイ、マム》


 膝を折り開かれたコックピットハッチを駆け上がり、咲良はパイロットシートへと腰を滑り込ませる。

 同時に神経接続を行いつつ、外から視線を送る楓真へと、声を張り上げた。


「楓真くん、その子達お願い!」

「へいへい、今日のナイト役は譲ってあげるよ。だからしっかり役割はこなすんだぞ!」

「もっちろん!」


 コックピットハッチを閉じ、機体内壁のモニターに映し出された外の景色へと目を向ける。

 寄り集まっていた残骸たちは四肢をもつ人型へと姿を変え、やがてキャリーフレームサイズの巨大なジャンクルーへと変貌していた。


「メガジャンクルー……ってとこかな?」

《敵性存在より高熱量反応、ビーム攻撃への防御を推奨》

「ビーム・シールド展開!」


 腕先の細いユニットから輝く刀身を顕にし飛びかかるメガジャンクルーへと、咲良は〈ジエル〉に後退させながら防御体制を取らせる。

 〈ジエル〉の左腕から発せられた板状のビーム・フィールドが、敵の斬撃を受け止め弾き返す。


『葵曹長、聞こえるか?』

「支部長! 無断出撃の件はどうか……」

『私が口添えはする。騒ぎがスラム外に漏れぬうちに速やかな掃討を願えるかな?』


 ウルク・ラーゼの発言と、彼のこれまでの言動から、この場所を知られたくない彼の思いを、咲良は感じていた。

 決してその意を汲もうとか思ったわけではないが、民間人を連れ回した挙げ句危険に巻き込んだ責任。

 そして支部長へのとりなしを考え、咲良は無言の頷きを返すことにした。


(な〜んか、華世ちゃんが感染うつったかな?)


 そう考えながら、咲良はフットペダルを踏み込んだ。

 細い天使の羽を思わせる〈ジエル〉背部のビーム・スラスターが光を放ち、機体ごと跳躍。

 メガジャンクルーへと体当たりをぶちかましつつ腕で掴み、その朽ちた巨体をコロニーの空へと持ち上げた。


「ジャン……クルゥゥゥ!!」


 野太い咆哮を発しながら、空中で拘束から抜け出し、滞空しながら構え直すメガジャンクルー。

 咲良は瞬時にコンソールを操作し、周辺の使われてない空き地エリアに目星をつける。

 宙に浮いたまま斬撃を繰り出す敵の攻撃をいなしながら、狙いの位置へと徐々に誘導。

 その間も、ELエルが狙いの位置へと相手を落とす最適な姿勢を導き出している。


《葵曹長、格闘パターンA16を》

「オッケぃ!」


 合図と同時にトリガーを引きつつ両足に全力をこめる咲良。

 操作に呼応して〈ジエル〉の頭部バルカンが火を吹き、弾丸の雨を浴びせてメガジャンクルーの動きを一瞬止める。

 そのまま機体がくるりと後方へ一回転。

 回転の勢いを載せた鋭い蹴りが、スラスターの全力噴射とともに敵の核へと突き刺さった。

 ものの一秒も立たないうちに地へと叩きつけられるメガジャンクルー。

 一方の〈ジエル〉はそのまま前方へと転がり、受け身を取って勢いよく着地した。


《着地点誤差0.0471メートル。計算が間に合いませんでした》

「それくらい誤差誤差! ふぅ〜!」


 後方で動かなくなった敵を改めて確認してから、咲良は大きく安堵の息を吐いた。



 【12】


 薄暗い、研究室のような空間。

 光を受けて輝く円筒状の培養槽。

 自らを修復したという装置を見せられ、フェイクはしかめっ面をした。


「レス、本当にこんな装置で私を直したってのかい?」

「ハハハッ。ツクモ獣と化したモノは、その身に受けた傷を注がれた生命エネルギーで修復できるんだとよ」


 そのエネルギーがどこから来ているのか、についてはフェイクは問わない。

 コロニー暮らしをしている時は、人さらいをしてまで確保しなければらならなかった生命力。

 しかし、ツクモロズ首領ザナミという女が作ったこの施設の中では、フェイクが乾き飢える事は一度として起こらなかった。

 生産設備があるのか、あるいはおぞましい数の人間でも捕らえているのか。

 そのどちらかだとしても、疑問を呈した時点で気持ちの良い結果は帰ってこないだろう。


 レスに連れられ、研究室を進んでいくとひとつの培養カプセルにフェイクは視線を動かされた。

 淡く光る液体の中に浮かぶのは、一糸まとわぬ一人の少女。

 ゆらりと漂う長い髪で顔は隠されているが、背格好はあの鉤爪の女に似通っていた。


「悪趣味だねぇ。こいつはいったい何だい?」

「ザナミがいうには、至高のツクモ獣だってさ」

「至高……? 眉唾だねぇ」


 小娘の姿をしたツクモ獣なんかに何ができるもんか、とフェイクは内心で嘲笑する。

 カプセルの中の少女は、その内心を知ってか知らずか、少しばかり微笑んでいた。



 ※ ※ ※



「ザナミさま、潜入しているアッシュより報せですじゃ。くだんの魔法少女とやらの所在がわかったそうでありますぞ」


 段の下から、跪いたバトウがザナミへと報告した。

 彼が言うのは、炎を操る魔法少女のこと。

 その存在、力は侮りがたく、手を焼いているのが現状だ。


「バトウ、報告感謝する。我々の計画の果てに、複数の魔法少女が存在するのは不都合……始末はできるか?」

「例のツクモ獣がようやく使える頃ですじゃ。試す価値はありますぞ」

「よろしい。かのツクモ獣が我らの右腕足り得るか、見せてもらおう。下がって良い」

「ははっ」



 ※ ※ ※



「アーダルベルト大元帥閣下、どちらへ?」


 執務室で秘書に問いかけられ、アーダルベルトは「うむ」とつぶやきながら頷いた。


「コロニー・クーロンへ少し、気になる報告を聞いたので調査にな」

「大元帥自らが、ですか?」

「調査が終わり次第、そのまま羽根を伸ばすつもりでもある。あのコロニーには姪を住まわせているからな」


 訝しむような表情をする秘書。

 だてに大元帥のもとで長年秘書をやっていない。


「……それと若い恋人が、でしょう?」

「ハッハッハ! そうでもあるがな!」


 大笑いしながら支度を済ませるアーダルベルト。

 けれどもその目は、顔つきに反して鋭く光っていた。



 【13】


「……まとめると、このスラム街は支部長の人生のルーツに関わる場所なんですね?」

「そういったところだ。古い知り合いも多くてな、助け合いというやつだよ」


 戦いの後、ウルク・ラーゼに呼ばれスラムの地下にあるバーに集められた咲良たち。

 そこで約束通り、支部長の口から今回の騒動の舞台となったこの街との繋がりを語ってもらう流れとなった。


 説明に納得するフリをしてはみたものの、咲良はいまいち要領を得ないというか、はぐらかされている部分が多いと感じた。

 隣に座る楓真も同じように思ったようで、納得いかないという風にテーブルの上に身を乗り出した。


「仮にココが支部長ゆかりの地だとしてもですよ。アーミィにあだ成す灰被りの魔女と繋がってるのは僕としては見過ごせませんねぇ」

「常盤少尉、『傭兵不問法』を知らぬ訳ではあるまい?」


「ヨウヘイフモンホウって、なんですか?」


 手を上げて質問したのは、ジュースを片手に持った結衣。

 アーミィ隊員ならいざしらず、中学生にコロニーの知識は少々ハードルが高いらしい。

 と、咲良が思っているとリン・クーロンがつらつらと解説を始めた。


「傭兵不問法というのはですね、傭兵本人に責任の追求をしてはいけないというコロニー法の一文ですのよ」

「でも、常盤さんのいた基地を壊しちゃったのってあの子じゃないの? どうして責任をなんたらしちゃダメなの?」

「そ、それはですね……」


「この、アフター・フューチャーの宇宙時代が、傭兵の存在によって発展したから、だ」

「あふ……?」

「近頃の教育ではアフターフューチャーも教えないのか?」


 呆れるウルク・ラーゼであるが、無理もないことである。

 アフター・フューチャー、通称A.F.とは今の時代を表す元号のようなもの。

 地球人類初のスペースコロニー首相が「我々は、かつて夢想していた未来のその先にいる」という演説とともにつけられたものらしい。

 しかし、元号制定から170年ほど経った今でも、この元号が根付いているとは言い難い。

 地球圏ではあまり使わず、ここ金星宙域であってもせいぜい役所の申請書にある日付欄に記入する程度だ。

 大人でも年に何回かしか使わない元号に、学生はもっと縁がないのは何もおかしくはない。


「ともかくだ、宇宙時代の立役者である傭兵たちであるが、時に宇宙海賊とも揶揄やゆされる彼らは基本的に仕事は選べん」

「武力での襲撃や防衛だけじゃなくて、運送屋とか人探し、デブリの掃除なんかまでアーミィがやるわけにはいきませんからね」

「このように傭兵なしでは成り立たないのも確かだが、仕事で罪が重なるようでは傭兵が減る。そこで、傭兵の仕事の責任は依頼者が持つという不文律が大昔からコロニーでは交わされているのだよ」


 一通りの解説を聞き、へえ〜と頷く結衣。

 けれども、楓真の表情は険しいままだった。


「僕が聞きたいのはそこじゃない。あの娘に支部長が肩入れしているのではと聞いているんです。アーミィに対しての背任行為にもなりかねませんよ?」


 ずい、と詰め寄られてもウルク・ラーゼは顔色一つ──といっても上半分は仮面で覆われているが──変えなかった。

 フンと鼻で息をし、楓真に向かって身を乗り出し返す支部長。


「彼女は傭兵で、魔法少女だ。であるならば、こちらに抱き込み対ツクモロズの戦力にするという手もある」

「アーミィが灰被りの魔女を雇うと?」

「そのような形ではないだろうが、いずれな。華世という人間兵器も、今日のように倒れることもある。リスクは分散しておくに越したことはないのだよ」


 一応は通っている論理に、楓真は身を引いて椅子へと腰を戻した。

 追求するとしても、次にあのホノカという少女が明確にアーミィへと牙をむくまで支部長に強くは言えないだろう。


 一つの疑問が晴れたところで、咲良は本題を切り出した。


「では支部長、どうしてスラム街がアーミィに知られると困るんですか?」


 彼にとって、突かれれば痛い事実のはず。

 けれども、咲良の予想に反してウルク・ラーゼは落ち着いたまま返答をした。


「アーダルベルト大元帥閣下は潔癖症であられてな。私の由縁ある地だとしても、知れば放っては置かないだろう。貧しいスラム街の住人たちは住む場所を追われ路頭に迷う。それを恐れているだけのことだ」

「……わかりました。この場所のことは、秘密ですね」

「くれぐれもよろしく頼む。我々コロニー・アーミィは民のための組織でありたいのだよ」


 そう言うウルク・ラーゼの口端は、わずかではあるが上がっていた。


 ──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.9


【メガジャンクルー】

全高:9.0メートル

重量:不明


 無数のジャンクルーがひとつに合体することで誕生した巨大ツクモ獣。

 片腕には廃棄されていたビーム溶断器の刃が備え付けられており、身体を構成するゴミに残っている電力を使って発振させる事が可能。

 キャリーフレームサイズの大型ツクモ獣であり、原理は不明だが宙を浮かぶことも可能。

 しかし思考は原始的なジャンクルーのものと変わらないため、攻撃方法はいたって単純。



──────────────────────────────────────


 【次回予告】


 あるときを境に、身に覚えのない行動に感謝をされるようになった華世。

 巷に広がる同様の現象に、華世たちは「親切な華世」についての調査を開始する。

 その調査の果てに待っていたのは、思ってもみない刺客だった。

 

 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第10話「向かい合わせの影」


 ────あり得たかもしれない現在いまは、いつわりかまことか。


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