第34話 「人間の傲慢、美しく見せようぞ」.10
頭を振るって、ネガティブな想像を追い出す。
うじうじ悩むだけでは何も進展しない。不安を取り除くには行動に転じるしかない。
色んな感情を飲み込み、俺は今できることに専念する。
早くイチャイチャの続きがしたい顔を見せるクサモチに、引き続き考えられる情報を引き出すよう伝え、俺は菫のチームを探しに出た。クサモチはもう完全にアーニャの信頼を勝ち得たので、後は若い二人に任せる方がいいだろう。
クエストを進むと何かしらの手掛かりが手に入るかもしれないし、クエストを受けた菫を観察しておけば何かしらのヒントを得られるかもしれない。
歩きながら、この件を菫たちに伝えるべきかどうかを考える。
脳裏で出来上がっているこのシナリオは言わば俺の被害妄想で、アーニャのAIが一体どういう仕組みで出来ているのかも定かではない。そんな不確かな情報を伝え、彼女たちを不安にするメリットはあるのか。俺ですらここまで動揺しているのに、言わば命が掛かっている彼女たちに与える影響は計り知れない。
だが逆に考えて、彼女たちにしか見えない解決法や思いもよらない独自な解釈があるのかもしれないし、俺の方が「これは心配する必要のないことだ」と説得されて安心するかもしれない。俺だったら相談してくる方がよっぽと信頼されているように感じるし、有事の際に役立ちたいのだ。
そんなこんなとクヨクヨしていると、騒音に気を取られた。
高身長で目立っているから直ぐに見つけた。菫だ。
菫を中心に、何故か村の婦女子たちが集まっていて、人だかりになっている。
「安心なされよ、お嬢さん。妾たちが何とかする」
「巫女様……」
声が聞こえる程度に近づいたら、菫はなんとイケボでキザったらしいセリフの数々を発しながら女の子達の頭を撫でて回っている。
不安になっている村人を安心させようと、一人一人彼女たちに声を掛ける騎士の鑑。傍から見ればそうなるが、中身を知ってる分「何やってんのこいつ」としか思えない。
しかもモフモフ美少女たちにたかられている菫は、事もあろうにリクエストを受けている。
「巫女様……さっきサラちゃんに言ったように私も『仔猫ちゃん』って呼んで!」
「いいとも、仔猫ちゃん。妾が守ってあげようぞ」
「「「キャっ―!」」」
何だありゃ。俺は幻覚でも見ているのか。
中身が俺である菫がモフモフ美少女たちの黄色い悲鳴を集めている。
……謎の敗北感に襲われた。何がいけなかったのだろう。俺もタイに行って外見を美少女にして来いってことか。
ここのNPCも何だかAIがおかしなことになってるけどどうでもよくなった。ここにくるまでの俺のシリアスな雰囲気を返してくれ。何だあの宝塚系女子は。あの朴○美さん的なイケボは何なんだ。
「まったくもう……まったくまったくもうもう……」
気が付けば、隣にセツカが立っていた。彼女はむすっと頬を膨らませ、菫の方を睨んで何やらブツブツと呟いている。
「けしからんなあれ」
「そうです!けしからんです!何よ……鼻の下伸ばして……心配して損した……」
ご機嫌斜めらしい。
敢えて言うのであれば、今のセツカはハーレム系主人公が別の女の子といちゃつく現場を見た時のヒロインの表情をしているようにも見える。
でもまあ、俺の錯覚だろう。
うむ。両方とも実は俺であるということを知らなければ、大好物の百合百合しいオーラを感じていたが現実は残酷である。中身は童貞とボッチをこじらせた煩悩に塗れる青少年だ。
なので正解は、俺と同じ、小さい男の小さい妬みだ。
「何か手掛かりは?」
「菫に聞いたら……どうですか。大変……コミュニケーションがお上手……らしいじゃないですか」
ふんっと顔を背けるセツカ。こりゃ重症だ。
「分かった分かった。俺があの調子に乗っている奴にお灸をすえてやる拗ねるな」
「別に拗ねて……ません」
言いながらも俺がどういう行動に出るか気になる様子のセツカ。
人混みを掻き分けて菫の背後に接近しながら空間袋を漁り、去年のハロウィン仮装を見つけた。
オーク先輩マスク。これだ。
「巫女様。俺もリクエストいいですか」
「ああ、いいとも。君は……うおわぁ!」
振り向きざまに至近距離でオーク先輩の顔を見て、王子様らしからぬ声を出した菫だが、それだけで許していやるつもりはない。
見せつけやがってこの野郎。こっちはお前らの安否を案じているのに(逆恨み)。
「巫女様、『くっ殺せ!』って言ってくれませんか?絶対似合いますので」
菫の肩を掴み、前後に揺さぶる。
「ちょっ、お、きっ、ロザリアン殿じゃな?!そのっ」
「さあ巫女様!言ってください!可愛らしい女性たちの要望には応えるが、今まで支えてきた仲間の要望は応えられないのは筋が通りませんぞ」
「い、いや、あれじゃ」
「『くっころ』って言え」
「ぐ、ぐぐ、く」
「聞こえんな!巫女様!腹から声出せ!」
「くっ!殺せ!」
「いい子だ」
茹でタコみたいになった菫は顔を両手で隠し、その場で蹲った。
隣からモフモフな彼女たちからの抗議が飛んでくるが、それを全て無視し、外野にいるセツカと親指をお互いに立てる。ちなみにセツカは満面の笑みであった。
きれいな顔してるだろ。こいつら。全員俺なんだぜ。中身。 武篤狩火 @blackaillton
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。きれいな顔してるだろ。こいつら。全員俺なんだぜ。中身。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます