きれいな顔してるだろ。こいつら。全員俺なんだぜ。中身。
武篤狩火
第1話 とんだクソハーレム野郎だ.1
「クロノスリベレーター」。
世界中に圧倒的な人気を誇る、VRMMORPG。
重厚なストーリーに厳しいID審査、現実と区別がつかないほどの没入感で、「これはもはや異世界転生では?」との呼び声も高いリアルさ。
絶妙なゲームバランスに次々と開発される対戦方法と遊び方はあらゆる層のゲーマーを熱狂させ、そのEスポーツ世界大会も、ギネス世界記録で、世界三位のスポーツ大会観戦人数を刻むほどのユーザーを擁している。
さらに、脳波を増強サポートするデバイスが開発され、どんな年齢の人も、全盛期の自分の反応速度で、普段の人類の数倍の運動能力を持ち動き回ることができる。老若男女、みんなが公平に競い合えるのである。
そんな大人気ゲームに、今日も人類族首都ファラー城の外堀付近の広場で、とある日本人プレイヤー達の間で結構有名になりつつある五人チームが注目を集めていた。
「おお、やってるやってる」
どこからともなく野次馬の期待に満ちている声が聞こえる。
野次馬達の視線を沿って見ると、四人の女性プレイヤーが二人ずつ、チームに分かれているように対峙していた。そして、彼女らに挟まれて、審判のように立っている男が一人。
最初に野次馬達の目に入ったのはダークエルフのような外見をしている女だ。過激極まりない恰好をしていて、いやでも注目を集める。
黒のホットパンツからすらりと伸びる浅黒い肌色の太ももと、フサフサの毛皮と革でできている胸当てからはみ出る豊満な下乳は、この真夏の日照りよりも熾烈に輝いていた。
極めつけは下腹部に描かれている、彼女の瞳と同じワインレッド色をしている複雑な紋章。流石に際どすぎませんかと、何人も思っていた。
だが上に目線をやると、若干乱雑にまとまっているワイルドな白銀のポニーテール、強い意志を感じさせる双眸と不敵な笑みは挑発的な服装と相殺し、媚びているとは思えない個性的な女性であるという印象を受ける。
彼女のとなりには物静かな黒髪ロングの女性が立っていた。
文学少女という単語を想起させる儚げな雰囲気と大和撫子という単語を想起させるピンとした佇まい。
皺くちゃで片方に傾いている大きな魔女帽子は彼女の右目を覆い隠し、ミステリアスな感じを出させていた。
短めのスカートの中から伸びてきた両足は黒タイツに包まれ、ダークエルフの女と比べると大分大人しめな恰好であった。
奇妙なことに、全体的に魔法職的な恰好をしている彼女だが、杖は見当たらなく、代わりに大き目なリボルバー式拳銃が二丁、腰あたりのホルスターの中に装備していた。
もう片方のメンツは、西洋風な服装とは対照的に、和風な装備をしていた。
まずは身長が高く、袖が短めの着物と日本式な鎧を合わさったサムライ装束の少女はチームメイトの前に仁王立ちしていた。
若干パーマがかかった艶やかな桃色な髪を、サイドテールにまとめて左肩の上に置く彼女は、凛々しい表情で対戦相手を見据えていた。
なぜか女騎士という言葉を連想させる堅そうな面構えをしている彼女の右額に、無表情な白仮面が飾られており、左腰は大小を二本差していた。
その後ろに、身長とその細身からして、四人の中では最年少な少女は淡藤色の紋様が描かれている陰陽師の狩衣を身にまとっていた。
実に愛想のよさそうな柔和な笑みを浮かべながら、シャンパンのような薄い金色に輝くツインテールの片方を左手でクルクルと巻いて遊んでいる。
彼女の腰のポーチから、札のような紙が覗かせる。
このゲームは本当の性別のキャラしか作れない上、外見も種族によってはボーナス値が与えられるとは言え、上限として現実の造形をベースに十五パーセントしか美化することが出来ない。
つまり彼女達は多分、リアルでも相当な美人達だろう。
一触即発な雰囲気を発しながら、彼女らは無言で相対していた。
「えっ、PKですか?」
そんな緊迫した場面を見ているある初心者の女の子がそう訝しむと、
「いや、デュエルルールだ。倒される方はHPが1で固定されて、しばらく攻撃ができないが、システム的に無敵状態になるんだ」
となりの手練れおじさんプレイヤーが親切に、そう教えてやった。
デュエル方式か。
なら平和的で安心して観戦できると、初心者は胸を撫で下ろした。
「シャドーハンターに氷雷メインのスペルシューターか。搦め手多めで『詠唱中断』技も両方とも中距離で打てる。防御力が全職でも一番低いヒーラーが集中攻撃を受けたらひとたまりもないだろ。これは流石にヒーラー持ち側が劣勢じゃないのか?」
ダークエルフと魔女っ娘陣営を見ている野次馬達の中にそんな意見が聞こえた。
なるほど、とすると陰陽師の恰好の女の子はヒーラー的な職なのかと初心者はぼんやりと考えた。
そして、確かに。
速攻でヒーラーを倒した後、挟み込む形で相手の足を異常状態技で奪いながら、近距離攻撃しかできないサムライの方を中距離でなぶり殺しのように倒す。
そんな絵が、初心者の目の前に鮮明に浮かび上がった。
「いや、ファントムウィスパーは治療量が低い代わりに、無詠唱スキルと攻撃技が多めのヒーラー職だ。そして大回復的なやつも、飛び回りながら詠唱を代行してくれる『後鬼』を召喚して行える。さらに、自前で召喚できる『前鬼』も前衛の役割を分担し、そりゃープレイヤー並みの活躍はできないが、足止めにはなる。相方のソードメイデンも、妖狐や鬼熊を憑依させれば前衛職の中でかなりDPSと瞬発火力が出せる職だ。シャドーハンターもスペルシューターも確かに攻撃職だが、搦め手が多い代償としてティア1級の火力が出せない。俺はむしろヒーラーのないこっちは最終的に攻めあぐねてジリ貧になると見た」
もう一方のとある手練れプレイヤーがそう考察した。
なるほど。一理ある。そう聞くと、勝負が分からなくなってきて、初心者は自然的にワクワクしてきた。しかも双方上級の複合職ばかりで、何のスキルを持っているのか初心者にはチンプンカンプンだったので、より好奇心をくすぐられた。
「ルールはいつも通り。『
ようやく審判のような立ち位置の男がそう発言すると、
「「「「はーい」」」」
女の子達はそう元気よく答えた。
「『
初心者の女の子がそう聞くと、
「そういやお前さんの恰好からしてまた35レベルにいってねえか。『
となりのおじさんがそう解説してくれた。
そしてそんなやりとりが交わされているうちに、戦う場にいる四人の女の子は武器を抜き出し構え、開始の合図を待つ体勢に入った。
「よーし、じゃーちゃっちゃと片付けるか」
黒い革靴を踵で鳴らし、ダークエルフが自信満々に言い放ち、両手の掌を地に向けて、繊細な指を広げていった。彼女の後ろに、黒髪の文学少女は静かに目を閉じ、二丁拳銃を十字に構えた。
「昨日のように簡単には行かせませぬぞ、ギルフィーナ殿」
サムライ娘は口元を吊り上げ、獰猛に笑った。彼女の後ろに、札を取り出し、注意深く相手側の黒髪文学少女を見つめている幼いチームメイトが深呼吸をしていた。
野次馬達も約束したように、全員静まり返っていった。
「よーい。はじめ!」
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