第3話 体感的には女体化異世界転生らしい、とのことです

 最初はこんな、痛すぎる自演なんてするつもりなどなかった。


 俺はただゲームが好きなだけだ。


 明確なルールが存在し、明瞭な目的が存在し、明白な達成点が存在する。


 なんて分かりやすい。現実とは大違いだ。


 殊更俺はRPGと対戦ゲームが好きだ。


 違う人間になれる、ロールプレイという遊び方。一瞬のうちに他人の人生を体験するRPGは、俺には格好な現実逃避の捌け口となった。


 そして、対戦ゲームでは……会話をしなくとも、他人と関わりあえる。例えそれが敵味方同士であれ、俺を一部とは言え社会と繋ぎ合わせてくれた。


 ……その時の俺は、例え煽りを受けてもそれが相手とのコミュニケーションの一環としてむしろ喜ぶ大変な変態であった。


 いや?今はもう違うからな?そこら辺勘違いしないでくれ。


 ともかく、そんな俺の前に、「クロノスリベレーター」が現れた。


 孤児だった俺を引き取ってくれた養母の会社が開発した、VRMMORPG。


 現実となんら変わらない没入感と、厳しいID審査から生まれたもう一つの社会。


 ゲームの規定を違反するユーザーへのアカウントバンが極めて徹底的に行われるこのゲームの中で、大多数のプレイヤーはルールを守ってプレイしている。


 そんな中、大流行する「異世界ロールプレイ」。


 そう。ここでは誰もが現実のことを忘れ、他人の正体を探ることなく、みんながこのもう一つの魂の故郷に、一冒険者として生きている。


「クロノスリベレーター」にドハマりした俺は、唯一の長所である数学を駆使し、いかに効率よくキャラを育て、最善のDPSの出し方とスキルの組み合わせなどの研究に没頭した。


 最初は本当にうまくいった。


 リアルマネーでの取引もある程度許されるこのゲームで、数学がそこそこできる人間として、俺はそれなりの金額を稼げた。


 だがゲームの進行につれ、突きつけられる真実は二つ。


 それは……


 例えゲームの中でも、俺はコミュ障の童貞のヒキニートで。


 そして、このゲームはレベルが上がるにつれ、一人ではどうしても先に進めなくなるという、悲しい現実であった。


「クロノスリベレーター」の世界と、苦労して育て上げた自キャラに愛着を感じる分だけ、仲間を作ることに恐怖しか感じられなかった俺は自分でも想像だにしなかったストレスを抱えることとなった。


 ストーリーを進めたい。でも仲間がなきゃ無理。でも赤の他人と会話とか怖すぎる。


 最初から嫌われたらどうしよう。


 最初はなんとかうまく会話とかを合わせられたとして、俺が調子に乗ってなんか変な話をしたらどうしよう。


 ヒキニートの俺はアニメ、ラノベやゲームのネタで脳の九割が構成されている。よしんば心優しい誰かと仲間になれたとして、変なネタを振らない自信は微塵もなかった。


 最悪無自覚に下ネタとか軽々しく口にしてセクハラとして運営(養母の会社)に通報されて流れるようにアカバンそして母ちゃんにヒキニート生活がバレる……


 想像するだけで寒気がする。


 そんな悶々と過ごす生活の中、とうとうゲームの進行が完全に止まって途方に暮れた俺は、母ちゃんが「宿題」として残した開発ツールの数々を思い出し、とある悪魔の発想に辿り着いた。


 仲間がなきゃ作ればよくね?


 そこからは奇跡の連続であった。


 分かるはずもない母ちゃんの論文を読み漁り、NPCとAIを作る開発ツールを死ぬ気で勉強して。


 友達が……仲間が欲しかった。


 自分の記憶と人格をコピーすれば、どんな話でも合わせてくれるだろう。嫌われる心配もない。だって自分なんだもの。趣味とか全部一緒じゃん。


 ストレスの限界だった俺は、そんな軽率なことを軽々しくと考えながら、気が付けば……


 最初の仲間である春陽堂菫が誕生した。ふふ、淫ピですなと笑いながらモデルを作った俺は傍から見ればすごく危ない人に違いない。


 いや待て俺、何で自分の記憶と人格を自分の性癖丸出しの美少女アバターに搭載した。気持ち悪くないか?


 うるせえ!せっかくなんだから美少女の仲間の方がいいに決まってんだルルォ!


 今でも、菫をサーバーに組み込んた後、彼女がオドオドしながら俺に挨拶しに来た時、感動に震えるのではなく、我に返って冷や汗を大量に流したことは記憶に新しい。


 まず最初に、菫の分のIDとデバイスをちゃんと買ったとして、開発ツールの中のデータをサーバーにプレイヤーと誤認させるのはもちろんチートの類で、許されることではない。


 そして、もっと重要なことがある。


 ……菫は、俺でありながら、俺ではないのだ。実際の体を持っていない、データ。


 そこに、人権は生じるのだろうか。法的に生じていなくとも、俺は一人の人間を永劫に脱出することができない牢獄に閉じ込めたことの責任と、本当に向き合えるのか?


「は?バッカお前。実質美少女化異世界転生だぞ。性癖ガン刺さりじゃん。ゲーム内食糧を食べれば味も満腹感もちゃんとあるし、太りもしない。死んだら神殿で生き返る。永遠に現実に帰らなくても許されるのだぞ?チ○コが取れたぐらいなんのその。大したチ○コでもなかったし使う機会もなかったろ?」


 菫はファラー城で長年爆売れされている「いのささおうカツサンド」をムシャムシャしながら力強く言い放った。


 ハッと目を見開いた。


 そんな見解なんだ……さすが俺だ……誇りに思える変態っぷりだぜ相棒……


 しかし美少女になったからってお前俺(自分)のアレディスリすぎじゃね?


「じゃ他の企画中の三人もよろしくな。流石に一人で異世界転生は心もとない」


「お、おう」


 なし崩し的に四人も作り、母ちゃんが住まわしてくれたアパートはデバイスでギチギチに詰まっていた。


 そこからは人生で一番楽しい毎日だった。


 念のため一人一人、完成時に細心の注意を払いながら感想を聞いたところ、本当に美少女としての人生を楽しんでくれているらしい。

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