第4話 ナンパされたら即死する可能性があるので……
俺たち五人、っていうか俺が五人なんだが……ややこしいから俺たちでいいや。俺たち五人の最初の二週間は、実に有意義なゲーム生活を送っていた。
最初は「生きること」の意味がガラっと変わった菫たちの精神健康を気にしていたが、
「童貞君がまた何か言っているらしいぞみんな」、
「本体お前ジャ○プの新刊買ってスキャンしてこいよ、こっちの世界で買えないんだから」、
「私たちは美少女四人で家族風呂してくるけど覗いちゃダ、メ、だ、ぞ♥」
などと気のいいご回答がたくさん寄せられていて、俺への呼び方も「本体」、「お前」、「一号」から「時々ログアウトしなきゃいけない可哀そうなアレ」へと昇格。
お前らマジぶっ飛ばすぞ。元気でいいけどさ。
ちなみに外見ギャルだからって無理して語尾にハートを足して発言したギルフィーナはその後あまりの羞恥さにのたうち回ったが百パー自業自得である。
この場にいる全員が同一人物で、お前のそのパフォーマンスが男による物って分かっているから自爆するなよ……
こいつらのウザさを見て、ますます当初普通に仲間募集しなかった俺は正しい選択をしたと言わざるを得なかった。
何はともあれ、俺が現実で飯を食って寝ていた時間の間を利用して、四人のレベルはすくすくと育ち、菫はサムライ、セツカはガンマン、アガタはサモナー、ギルフィーナはアサシンと、それぞれ低級職へとジョブチェンジした。
ヒーラーは不在だが、高級職にジョブチェンジする時はファントムウィスパーがいいと言うアガタがいるから、みんなも大して気にしなかった。
職の選択を見て、本当に全員俺だなと苦笑した。物の見事に、PVP上位勢の高級職にジョブチェンジできる低級職を選んで来た。対戦大好きだから仕方がない。
戦場モードという五人小隊を最小単位として戦うPVPイベントも毎週国境線で開催されているので、今までぼっちだったため参加できなかった俺たちはそれが楽しみで、せっせとレベル上げ作業に勤しんでいた。
俺が置いてけぼりにされないよう、朝ログインの時、いつもみんなが昨日俺が寝ていた間何をやったとか、次何が目標なのか話してくれた。そんな変哲のない毎日の雑談が、本当に楽しかった。
そして、ある日。
俺がログインすると、四人とも深刻な顔をしていた。
「ギルフィーナが、その、結構しつこくナンパされた。男プレイヤー五人組に」
菫のその一言に俺はポカーンと口が開いてしばらく言葉を失った。
今の今までで本当にこいつら全員俺ってイメージが強すぎて、よくても男友達的なノリで(男友達ないからそれどういうことなのか言えないけど)、ガチで女として見たことなどあるわけがない。
そりゃそうだ。
中身俺でも、外見があんな美少女なんだ。ナンパの一つもされるわ。
「いやね、別に悪意がある人達でもなければ失礼だったっていう程でもなかったんだけどね」
ギルフィーナが恥ずかしそうにポリポリと左手で後頭部をかいて、
「四人、しかもヒーラー抜きで通常は五人で通う狩場で大型モンスターを目標にレベリングしてたら、通りすがりの奴らにプレイングと手際を褒められてつい甘い顔をして、脈ありって思われていたかもしれない」
そう説明した。
「エロフならぬチョロフだったのか」
「全回避するからヒーラーいらない俺、最強では?って思うじゃん」
「二人とも黙らっしゃい。深刻だよこれ。本体お前さ、ことの重大さ分かってる?他のプレイヤーに接近されて、もし揉めて逆恨みとかされて、『モデル改造の疑いあり』として通報されたら一発でアウトなんだけど」
セツカの一声に気づかされた俺は、ゾッとした。
そうだった。
ゲーム世界のリアルさを構築するための運営政策の一環として、ゲームキャラクターの創造は現実の性別通り、モデリングも現実準拠で、美化するにしても上限十五パーセント。
つまりプレイヤーの外見は通常、現実の自分を若干よくして、そしてファンタジー化した姿である。
そこで、あんまりに目立つと、モデルを改造したとして通報される恐れはある。今はもうほどんと存在しないのだが、運営初期は本当に多発した禁止行為の一つである。誰だって自分の外見をよくしたいものさ。
通常、偽通報が発覚したらした側にも厳罰が下されるため、むやみやたらに嫌がらせで通報されることはない。でも男女問題絡みになると、そう言い切れなくなる。「お前実際そんなかわいくねえだろ」と、そんな思いで通報されるケースは時々耳にする。
しかも、最悪なことに、通報されたら『モデル改造』で課せられる罰金とモデリング修正で済まされないところだ。
二週間経って、こいつらが生きている人間のように強く感じて、忘れがちになるけど、全員AIである。見方を変えればBOT。言われなくとも真っ黒なギルティ。
そして『モデル改造』の審査は、ゲームデバイスのゴーグルで発信してるバイタル信号を一通りスキャンする、簡単かつ有効な方法でなされている。そこが致命的だ。
このゲームのデバイスは、プレイヤーの安全面をモニタリングする役割も果たしているため、バイタル信号を常に発信している。
……四人のバイタル信号、全員俺ので代用してる。
で、この世で顔が同じな人間が五人同時に同じ部屋でログインしてる確率はどれぐらいあるのかは分からないけど、深く調べられること間違いなし。
俺は、こいつらを失いたくない。
一緒にプレイしている仲間がいることがどんなに楽しいのか知ってしまった俺はもう後戻りはできない。
そして、こいつらにとって、アカバンは文字通りの死活問題。元となるデータ、つまり「心」の部分は一応母ちゃんがくれた開発ツールの中にいるのだが、「クロノスリベレーター」という接続先を失ったら、目も耳も口も塞がれて暗闇に放り出されるようなものではないだろうか。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
「みんな聞いて」
暗くなって沈黙になった俺も含める四人に、アガタはおもむろに立ち上がり、真剣に宣言した。
「絡まれる確率を極限まで下げる作戦はある。人間としていろいろ捨てることになるけど……」
なにを今更。自分をコピーしてしかも美少女にした時点で末期だ。
言い淀むアガタは、俺たちの無言の支持を得て、ビシッと右手の人差し指を立てた。
「考えてみろ。ナンパの目標にされない美少女ってどんなのだ?」
「……彼氏持ち?」
セツカがそう答えると、
「そう。その通り。しかも熱烈にラブラブな程に、多分手出してこようとする人間は減る。」
確かに。せめて俺なら他人の間に入り込もうという発想はできない。
「でも口だけじゃ説得力に欠けるんじゃないのか?彼氏って実在する人間を見せなければ……えっ」
そう言ってて、俺は途轍もなく嫌な予感がした。
「おめでとう、本体。」
ニコニコと笑いながら、アガタは俺の肩を叩いた。
「今日からお前はクソハーレム野郎だ」
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