熱波師さんの「技」
このところサウナが熱い。温度的な話でなく、ブーム的な話で。TVや雑誌を見てみても、サウナをテーマにしたものをよく目にするようになった。いちサウナ好きとしては嬉しい限りだ。
ブームが起きてその結果、入浴料金が安くなったり、立ち寄り券の時間が1時間ではなく90分や1時間半になってくれないかな、なんて願っています。
そんなサウナ界隈で注目を浴びている存在が「
標準的な熱波師さんの作法はこんな感じだ。まず、サウナ室内で熱せられた石(サウナストーン)にアロマ水をかけ、良い香りのする
これが熱くて、いい香りがして、実に気持ちいいのだ。熱いというと身構えてしまう方もいるかと思いますが、熱波師さんはそのあたりもちゃんと加減してくれる方が多いのでご安心を。
冬場にちょっと熱めの湯船に浸かると、熱いけど気持ちいいじゃないですか。あんな感じです。
そして実は今、熱波師界隈がいろいろ変化しているタイミングなのです。いろいろと面白いチャレンジをされている方や協会、さらには施設が増えてきています。
この熱波師さん、多くは風を送るのにバスタオルを使う。実に多彩な振り方で様々な風を産み出すのだが、このタオルを振る
まずはサウナ室のドアを開け、サウナ室内の温度を下げると同時に空気の入れ替えを行う。温度を下げるなんてどうなの、と思うかもしれないが、これには2つの意味がある。
ひとつは、ロウリュによって体感温度がぐっと上がるため、熱くて入っていられない、という人を減らす意味。もうひとつは、サウナストーブを作動させるという意味。
多くの施設では、サウナストーブは自動的に室内の温度を判定し、一定温度を切ったらストーブが作動するようになっている。ロウリュではサウナストーブ上の石にアロマ水をかけ、石の保持していた熱を一気に使って蒸気を産み出す。その結果、石の方は冷えてしまい、ロウリュ後のサウナ室の温度保持が難しくなってしまうのだ。
そうならないために、ストーブを作動させた状態でロウリュを開始し、終わった後に石の温度を速やかに元に戻せるよう、あらかじめドアを開け放って部屋の温度を下げ、サウナストーブを作動させた状態でショーを開始する、というわけだ。
ショーが始まったら、まず、口上がはじまる。多くは使用するアロマの説明や、「熱すぎたら途中退出して下さいね」というような安全面のエクスキューズだ。ふんふんと口上を聞きながら、普段とは違う何かが始まるのだな、という期待感が高まる。
そうこうしているうちに、石にアロマ水がかけられ、ジュワアアアアと蒸気が噴き出す。熱波師さんは、バスタオルの端をぐっと握り、石に向かって下から天井へ向かって大きくタオルを振り回して風を送る。
すると、石付近から天井へと向かっていた温まった空気がぐるりと下へと還流し、結果的に、サウナ室内のおじさん達に熱波のシャワーが一気に降り注ぐ。これが気持ちい。下がったサウナ室の温度とのギャップも相まって、直接身体に湯をかけられたとき、いや、それ以上にぐっと熱が降り注ぐのだ。
熱波師さんはさらに、バスタオルを横振りして熱い空気を循環させる。そして、ひと通り熱波が循環してからが本番だ。ひとりひとりに、個別に風を送る勝負の時間が始まる。
サウナ室のひな壇に座っているひとりひとりの前に正対し、先ほどまでの横振りとは異なり、両手で振りかぶったバスタオルを勢いよく縦に振り下ろし、強烈な風をおじさんに送る。これがまあ熱い。ロウリュの効果もあり、暖まった空気が一気におじさんの肌に襲い来るのだ。熱い。熱い、が、これが気持ちいいのだ。
熱波師さんは、これを一人一人に対して丁寧に繰り返す。そして全てのおじさん達に熱い風を送った後、熱波師さんはいい風を送って貰って大満足したおじさん達の拍手と共に退室するのだ。
これが標準的な流れだ。が、最近では単に風を送るだけではなく、その風を送る際のタオルの振り方の「技」や、タオルを振るための「ストーリー」をショーとして見せる流れが産まれつつある。
代表的なところでは、横浜の「スカイスパ」さんの「サウナシアター」だ。こちらはゆうに100人が同時に入れるほどの大きなサウナで、かつ、巨大なサウナストーブに、巨大なスクリーン、照明施設を持つ、ショー形式のアウフグースに特化したサウナ施設だ。
個々のアウフグースには、熱波師さんごとの「
音楽と映像、そして時には熱波師さんのコスプレに沿った物語を体感しながらの体験というのは、フィーリングさえ合えば愉快で、気持ちよく、格別な体験になるだろう。まるで、身体的にサウナでリラックスしながら短編映画を見た時のように。
このサウナシアターさんは極端な例だが、「サウナ浴の最中に、風を送ると気持ちいい」というアウフグースの概念が広がりつつあるのは間違いない。
こういった流れを受け、アウフグースの中でも、アウフグースを行う
いろいろなサウナの温度や水風呂の温度の好みが細分化されてきたのと同様に、アウフグースのスタイルも多様化される程にサウナが広まってきたのかもしれない。
パフォーマンスを楽しむ場合、そのパフォーマンスは多岐にわたる。まるでフィギュアスケートのように、アウフギーサーさんの「演目」を楽しみにサウナに入るというスタイルさえ産まれつつあるのだ。
美しいタオルの振り方、熱波の行き渡らせ方、そして、独自の物語に流れるBGMとの調和。惚れ惚れと演目を見ている内に、すっかり体は蒸され、球の汗をかいている。知らずに普段入っていられないような長さのサウナ浴となったあと、水風呂。これがまた、格別なのです。
サウナ中に温度や湿度という要因だけでなく、熱波の流れや蒸され時間をコントロールする「熱波師」という存在、彼らの効用、そして、華やかさがあらたなサウナ体験にひと役買っているのです。
おじさんは、ゆっくりとサウナに入りたいタイプなので、あまり派手な熱波師さんは正直苦手なのですけど、たまに遭遇してはしゃぐのは、それはそれで楽しいのです。
サウナに興味を持った方、「熱波師」という存在に注目してみると、今までとは別のサウナの楽しみ方を見いだせるかもしれませんよ。
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