松之湯

「松之湯」は、静岡市の曲金まがりかねにあるカプセルホテル付きの温浴施設です。国道一号線を静岡鉄道の柚木ゆのき駅を目印に南に入ったあたりにあります。


とても「和」のコンセプトが強い、もう少し言うと、大げさでクセのあるコンセプトの施設で、いろいろと極端で、「和」アミューズメントのような趣があります。


大浴場は圧巻の木造湯屋で、天井にはの黒い梁が何本もむき出しでどーんと構えています。あそこにニンジャ乗ってても違和感ないと思えるド派手さです。梁を見るだけで楽しくなる大浴場というのは、そうは無いのではないでしょうか。


その広いスペースにあるのは、洗い場に白湯をはじめ、水素の湯・塩の湯・炭酸泉・かめ風呂・檜の水風呂、はては垢すりスペースまで。これでもかという程いろいろなものを詰め込んでいます。さらには露天には薬湯まで。


おかげで、広々として天井の高いスペースなのに、妙に狭く感じるという不思議な場所になっています。フリマや縁日の屋台みたいな感じとでもいうのでしょうか。


そしてもちろん、サウナもあります。湯屋の中には低温サウナと高温サウナの2種類、そして、露天スペースにはなんとテントサウナまで。


高温サウナは10人ほどが入れる、80℃ほどのロッキーサウナ(サウナストーンがどどーんと積み上げられたサウナ)。高温というわりには、それほど温度が高くないのでは、と思われるかもしれません。しかし、湿度が結構高いのです。通常、ドライサウナに入って鼻から息を吸うと、高温の乾いた空気が鼻腔にピリリときます。これが苦手でサウナ室内では口呼吸している方も多いのではないでしょうか。


その点、松之湯のサウナはとしています。肌当たりが優しく、鼻呼吸してもピリッと来ません。しかし、マイルドなサウナなのかと言えば違います。そうです。湿度が高いという事は、体感温度が高いのです。熱いのです。


温度計を見て油断していると、あっという間にホカホカに蒸されて汗が吹き出します。気持ちいい。湿度高めのサウナおそるべしです。おじさんは10分たたない時点でホカホカに蒸しあげられてしまいました。


サウナを出ると、すぐに水風呂があります。この水風呂も変わっています。檜の木桶なのですが、完全にひとり用です。長細い木桶が3つどどん、と並んでいます。木製のユニット水風呂といったおもむきです。


その温度設定は20度。割と高めです。入ってもキュッと身がしまる程冷たいというわけではなく、プールにでも入ったかのような感じです。サウナ好きにとってはぬるい部類でしょう。あまりいい水風呂ではないなあ、と思って出てしまう方もいるかもしれません。でも、ちょっと待ってください。このひとり用の水風呂の真骨頂はここからなのです。


この水風呂、温度が高めでひとりで浸かれるスタイルのため、長く浸かることができるのです。これはこれでいいじゃない、と、ボーっと水に浸かっている内、じわじわゾワゾワと体が冷えてきます。このじわじわ感が最高なのです。


ああ、なんか冷えて来たかな? あれ? 思ってたより冷えてる場所が出て来たぞ。これはもしかして、冷えてる? どうやら間違いない。今おじさんは冷えつつある、冷やされてる。あぁ~


と、いう独特の感覚は、一気に体が冷やされてしまう他の施設ではなかなか味わうことができません。「今、体にいいことが起きつつある」というオンタイムでメンテナンスされてる感。たまらないのです。


水風呂から上がったら、もちろん休憩です。よいサウナだったなあ、なんて余韻に浸りながらひと息ついたら、今度は露天に出てみましょう。そこには待っているのです。テントサウナが。


テントはひとり用のちんまりしたもので、中にサウナストーブが設えられており、煙突がテントからにょっきり出ています。


中に入って入り口を閉めて貰い、サウナストーブと2人きりで向き合いましょう。ここにいるのはサウナストーブとおじさんだけ。他に邪魔するものは誰もいない、と思いきや、もう一人いました。アロマ水たっぷりのバケットが。


そうなのです。実はこのテントサウナ、セルフロウリュができるのです。サウナストーブの上には、「ここにおるで!」という存在感でサウナストーンたちが熱せられています。そこに木製のバケットから木製のラドルでアロマ水をサーっとかけるのです。ジュワアァ…という音と共に、たちまちテント内に蒸気が広がり、体感温度が一気に上がります。気持ちいい。1人用のテントなので、静かな空間の中、自分任せでロウリュの具合を調整し、存分に浸れるのも嬉しいところ。おじさんは様子を見ながら2杯ほどかけましたが、それだけで汗が噴き出てきます。


初めてのテントサウナでアロマの香りと温度を堪能しながらテント内をキョロキョロと観察するおじさんは発見しました。「ヴィヒタあります」の案内を。ヴィヒタ! おじさんの心臓が跳ね上がります。


ヴィヒタとは、白樺の葉を束ねて作った扇のようなサウナグッズです。これをアロマ水に漬けておき、サウナ中、体をパンパンと叩くのです。サウナの本場、フィンランドでは「ヴィヒタの無いサウナは、塩の無い料理のようなもの」ということわざまであると言われるサウナグッズなのです…という知識はあるものの、実はおじさんはヴィヒタを使った事はおろか、生で見た事すらありません。ついのあのヴィヒタを! テンションの上がったおじさんはキョロキョロとテント内を探しましたが、見つかりません。


そこでテントの外の店員さんに「すいません、ヴィヒタってあるんですか」と聞くと、あっさりと「ありますよ。使いますか」との声。早速持ってきてもらい、ヴィヒタ初体験です。


持ってきてもらったヴィヒタは、想像していたような扇のような、玉串のような神々しい形態ではなく、赤い網の中に入れられた状態でした。葉っぱなどが飛び散るのを防ぐためなのでしょうね。なんか神聖なアイテム感は一気に薄れてしまいましたが、ヴィヒタには違いありません。早速おじさんは、パシン…と肩をヴィヒタで叩きます。


気持ちいい。なにこれ気持ちいい。白樺とアロマ水の香りがふわっと広がるのもいいですが、本命はやはりその冷たさです。アロマ水に浸かっていたヴィヒタは、サウナで火照った体に優しいのです。ヴィヒタさん、見た目で冷凍ミカンみたいだな、なんて思っていてすみませんでした。超気持ちいいです。おじさんは体のあちこちをパンパン叩いて冷たさと香りを堪能しました。


テントサウナは1人あたり10分と時間が決まっていますが、それでも十分なほど楽しめました。テントとヴィヒタという普段では体験できないサービスは、それだけでお祭り感があって楽しく、しかも普通に気持ちいいのです。


すっかりホカホカになったおじさんは、またじっくりとユニット水風呂に浸かってじわじわゾワゾワ冷やされるのでした。ああ、今、ととのえられてる!


お風呂から上がったら、そのまま2Fに併設されているレストランでお食事なんてのもいいですね。オロナミンC+ポカリスエットの「オロポ」もメニューにあるそうです。が、実はおじさん、学生の頃にこの周辺に住んでいたのです。サウナ飯はちょっと足を延ばして想い出の食堂でいただきました。もちろん、最高においしかったです。


周辺の施設には無いユニークなセッティングのお湯やサウナを楽しんでみたい方であれば、松之湯はとても良いのではないでしょうか。駐車場も広いですし、カプセルホテルでもあります。車で遊びに来て、サウナ後にビールを1杯飲んで一泊し、翌日は静岡観光に繰り出す、なんてのも良さそうですね。

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