夏のテントサウナと蝉

サウナ後の食事が最高というのはよく言われます。心身ともにサッパリし、血流と共に五感も冴えた状態で食べるご飯はおいしいのです。さらに飲み物。汗で失われた水分を補給したいと体が欲している事もあるのでしょう。サウナ後にぐいっと一杯やるのは最高。いや、最の高なのです。


おりしも梅雨もどうやら明け、夏の日差しになってきました。ここらで景気づけになにかおいしい物でも食べましょか、というころあいです。

ご時世もあり、大手を振って皆で外食というのは憚られますが、せっかくの機会なのでお取り寄せで好きな物を取って自宅でのんびりいただく、なんてのもいいな、と思い物色する事に。


そこで、ふと気づきました。昨年の秋口から、我が家にはテントサウナがあります。ということは、お取り寄せを食べる前に存分に蒸されてからいただくというムーブが可能なのでは、と。


さっそくお気に入りの鳥刺しを注文し、地ビールを買っておき、テントの準備もしておきます。焚き付け用に薪を小さく割り、サウナストーブの中に新聞紙で包んで組み上げてます。


そして、配送日。そろそろ来るな、という時間に合わせて水風呂プールに水を投入。温度を下げるための氷を製氷皿から外し、保冷材の準備も万端です。


「サウナ後に美味い物を食べるのだ」という目的があるためか、いつもより準備をしている時間も楽しいものです。そして荷物が到着。ビールと一緒に冷蔵庫に入れておき、海パンとレプリカユニフォームにサウナハットへと着替え、早速テントサウナへと向かいます。


さあ着火するかと思った時、足元に何か落ちているのに気が付きました。小さくて茶色いぽろんとした欠片。薪の皮がはがれたのかしらん?と手に取ってみると、なんと蝉の抜け殻でした。薪にでも付いてたようです。


夏だなー、とちょっと感心してしまいました。そういえばテントの外からは蝉の泣き声が聞こえます。しばらく耳を澄ませた後、抜け殻をサウナストーブへと放り込んで、今度こそ着火です。


夏場のサウナはのっけから暑く、そして湿気も多いのです。すぐにぷつぷつと汗が出てきます。ロウリュ用に桶にアロマオイル入りの水を用意していたのですが、これ使わなくてもいいかなー、と思えるほど、あっという間に温度も湿度も高めになります。


でも、やっぱりロウリュのあの音、そしてちょっと遅れて来る香り、さらには肌を包む蒸気の感覚。やはり気持ちいいものです。1杯だけいくかーと思い、ケロリンの桶と柄杓を手に取った…のですが、いったん置きました。


やめるかと言えば、そうではありません。上着を脱いで再び桶と柄杓を手に取ります。やっぱりロウリュはできるだけ直接浴びたいですものね。


アロマ水を掬いサウナストーンへとかけるとジュワアアアァァ…という音が。ややあって、ふわっと香るヴィヒタオイルの香り、肌をぐっと包む熱波。そして背中にポトリと落ちる何か。


背中にポトリ!?何!?慌てて海パン一丁のまま振り向いて確認してみると、なんとそこには1匹の蝉が倒れてました。どうやらテント内に吊るしていたヴィヒタにでも止まっていて、ロウリュの熱さにやられて落ちてきたようです。


うおおおお、大丈夫か蝉、と摘まんでみるとあっさり摘まめます。泣き声も立てず暴れもしませんが、じたばたしてる所を見ると一命はとりとめているようです。慌ててそのままテントを出て、傍の木の枝へと降ろしました。


しばらく見てると、弱ってはいるものの、もぞもぞと動いています。大きさはそれほどでなく、青系の色が入っているのでおそらくはミンミンゼミのもよう。大丈夫だといいけど、ロウリュ熱いからなあ、と思いながらテント内へと戻りました。


そしてしばらく蒸されながら考えました。ひょっとしたらさっきの抜け殻は、あの蝉の物だったのではないでしょうか。7年の地中生活を終え、いざ地表へと顔を出してみた場所はテントサウナの中。


地表とはこんなものかと感心し、まずは脱皮だと殻を脱ぎ捨て、手ごろな木を探して見回すとその複眼に映ったのはヴィヒタの束。腰を落ち着け、あれ?地表の木ってこんな乾いてる?と疑問に思っている所に闖入してきたのはヒトのおじさん。


そしてみるみる上がる温度。地表の夏やべーなと焦っているうちに降り注ぐ熱波。そして気絶。


なんてハードな体験。すまん蝉。おじさんがこんな場所にテントを建てたばっかりに。少し体を休めて本当の地表の夏を満喫してくれ。


そんな事を考えながら蒸され冷やされ休憩する事3回。すっかりととのいました。帰りがけに蝉を置いた辺りを見てみると、もうそこにはいませんでした。


ダウンして落下してしまってるんじゃないかと足元を確認したのですが、いませんでした。どうやら移動したようです。ちょっとホッとしました。


思わぬ訪問者がありましたが、本題はおとりよせです。部屋に帰ってまずはトマトジュースをぐっと1缶煽って水分補給。すでに最高。そしてお待ちかねのビールにお取り寄せです。


鹿児島の坂留鶏肉店さんの鳥刺しに、フンドーキンさんの甘口しょうゆ、そして、御殿場高原ビールさんのヴァイツェンボックです。鳥刺しはさっぱりポン酢系もおいしいのですが、甘口の刺身しょうゆでいただくのが好きなのです。


さっそくひと口いただくと、おいしい!さすがサウナ後。続いてビールもいただきます。暖まった喉にほどよく冷えたビールを流し込めば、いやー、間違いないですね。最・THE・高です。


堪能していると部屋の外からは蝉の声が。あの蝉だったらいいなあ、なんて思いつつゆっくりと夏の景気づけを楽しみました。


暑い季節、皆さまもサウナ&冷たい飲み物&おいしい食事なんていかがでしょうか。ご近所でひと蒸しして、おうちでのんびり食事しながら猛暑を乗り切っていきましょう。

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