富士山天母の湯

「富士山天母あんもの湯」は、富士の麓の山宮という地域にある温浴施設です。天母山あんもやまという山があるのですが、その中腹辺りに位置します。実はこの施設、ちょっと変わり種なのです。というのも、すぐ隣の敷地には市のごみ処理場が建てられており、そこでごみを処理する際に出る排熱を利用してお湯を沸かしている施設なのです。エネルギー再利用の一環というわけですね。


そして、変わっているのは施設の形態だけではありません。天母の湯のサウナの温度は50℃。ドライサウナとしてはとても低いです。実は、遠赤外線式の低温サウナ、いわゆるトロンサウナなのです。通常のサウナは、サウナストーブを使って、室内の空気を温め、その空気を通じて体を温めます。これに対し、トロンサウナは、遠赤外線により直接体を温めます。そのため、サウナ室内の温度は、それほど高くする必要はありません。気密性もそんなに気にしなくてもOKです。


室内の温度が高いと、どうしても体に負担がかかります。特に、心臓や肺などへの負担はそこそこなものです。その点、トロンサウナであれば、あまり負担をかけずに発汗することができるのです。いわば、「体に優しいサウナ」なわけですね。


サウナ室はとてもこじんまりとしており、長方形の部屋に、腰かける段が1段のみです。路線バスの一番後ろの長い席ってありますよね。ちょうどあんな感じの部屋です。背もたれに当たる個所と、前の座席の足元に当たる個所にトロンサウナのヒーターが嵌め込まれています。目の前はガラス張りになっており、光が十分に入ってくる明るい室内です。


低温ですが、しっかり汗が出ます。高温サウナのような、肌への刺激はありませんが、じんわりと温まり、ポカポカです。明るく、息苦しさがないのに発汗はするという、ちょっと不思議な空間になっています。


サウナを出たら水風呂といきたいところですが、水風呂はありません。専用のシャワーのみです。が、このシャワーもちょっと変わっています。シャワー管にフラフープのような、あばら骨のような管が囲むようにくっついており、その輪の中に入って壁のボタンを押すと、上のシャワーヘッドと、体をぐるりと囲む管から水が噴き出してきます。ちょっと面白いです。


その昔、中世ヨーロッパの罪人は、体を囲む鉄の処女アイアン・メイデンに抱かれて刑を受けましたが、平成/令和のおじさんは、あばら骨のシャワーに抱かれて冷水を浴びるのです。なんてロマンチックなのでしょう。絵面はきたないですが。


そして休憩です。休憩は露天スペースで行うのですが、ここがまたほかの施設とは一味違います。なにせ、山の中腹です。申し訳程度の垣根の向こうに見えるのは、一面の山です。はるか下まで杉の木でいっぱいです。もはや露天というか、外です。タオルいっちょで足元から山の麓まで広がる一面の杉山を見下ろすという、ここでしか味わえない風景を楽しみながら外気浴ができます。


ぜひ、日の出ているうちにお越しください。山宮周辺に街明かりなどない。夜の露天の向こうは、月明かりと杉の木だけだ。それはそれで珍しいのですけど。


ちなみに、「富士山の近くなのだから、露天からは富士山が見えるのでは?」と思う方もいるかもしれません。最もな考えです。しかし見えぬ。富士山方面は山の続きだ。見えるのは山頂まで続く杉の木だけなのです。


また、露天には各種の生薬を配合したくすり湯が設えており、独特の香りがあるのも楽しいです。くすり湯の香りは好き好きがあると思いますが、おじさんは割と好きです。


ととのい後のサウナ飯は、併設している食堂で楽しみましょう。近くに店などない。山だ。食堂は富士山推しが激しく、「富士山カツカレー」や「富士山コロッケ」「富士山ラーメン」等が揃っています。たいてい見た目が山の形になっています。


そして、食堂の隣には、大きな宴会場ホールもかくやという程の広い広い畳敷きの休憩ホールもあります。浴室から上がったら、ここで寝転んで整うのもいいですね。


富士の麓で、一風変わった温浴施設を体験してみたい方は、ぜひ。

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