サウナおじさんの日記帳

吉岡梅

おじさんはユートピアへの扉を開ける

おじさんは冷え性だ。寒くなると体が動かぬ。いくらかの動物は、寒さの厳しい時期は冬眠するシステムを採用しているが、おじさんは冬眠できぬ。寒くても活動せねばならぬ。


では、どうするか。蒸されるのだ。健康ランドで、温泉で、銭湯で、ホテルで、湯船もそこそこにその部屋のドアを開ければ、広がるのは寒さと決別したおじさんたちのワンダーランド。タオルいっちょのおじさんたちが、檜のひな壇に腰かけ汗をかいている。


存分に蒸されて汗をかけば、部屋を後にして次なる聖地へと向かう。その場所とは水風呂。湯船に水を張ったおじさんたちのシャングリラ。桶を手に頭からざんぶざぶと水を被って汗を流し、ゆっくり肩まで水に浸かれば思わず声が漏れる。


存分に冷やされて汗が止まれば、約束された安息の地へと向かう。その場所とは休憩用ベンチ。露天があれば露天で、浴室内にあれば浴室内で、洗面所にあれば洗面所で。ベンチが無ければ浴室内の洗い場の椅子で。


腰を掛けて目を閉じれば、瞼の内側に広がるのは宇宙。温かな体内と冷たい表皮の間で血流がせめぎあい、ゾワゾワとした心地よさが腕や背中からだんだんと首筋へと這い上がり、脳内に一気に流れ込む。


ああ、ととのいました。


寒さに打ち震えていたおじさんは今は昔。椅子の上にいるのは、妙に肌が艶々したホカホカのおじさんだ。そしておじさんは水分を補給して温浴施設を後にする。サウナよ、今日もありがとう。


このエッセイは、そんな寒がりのサウナおじさんが地元周辺のサウナを訪れるだけのエッセイです。

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