概要
魔術学校に通う落ちこぼれの少女・エリファレット。
ある日突然、エリファレットは自身が女王の娘であることを知らされる。それも研究の途中で破棄されたはずの、決して生まれてはいけない「失敗作の胚」から育ったのだという。
エリファレットは女王家系につきまとう致死性の遺伝病に罹っており、余命いくばくもない身であることを告げられる。病を克服するという条件で、彼女は稀代の天才魔術師・サイラスとともに、《薔薇鉄冠の儀》と呼ばれる女王位継承争いに参加することになる。
対抗馬はもうひとりの女王の娘、エグランタイン。
彼女は女王家系の遺伝病を克服した、「完璧な胚」から育った少女だった。
狂気の女王位をめぐり、ふたりの少女は相対する。
ーーひとりは生きるために、ひとりはみずからの尊厳のために。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!「血」と、呪縛。そして、二つの強さの物語。
湖水地方に建つ寄宿舎で育つ主人公は魔術を使わせてもらえない「落ちこぼれ」。彼女の元にある日宮廷魔術師の男が訪れ、彼女は女王の「娘」であると告げる――
そんな説明をしてみれば、目くるめく絢爛な物語が思い浮かびますが、さにあらず。
主人公は激痛を伴う致死性の遺伝病を患い、死を逃れるために女王の継承権を手に入れねばならないと告げられ、もう一人の女王候補との継承権争いに身を投じることとなります。
彼女に関わる男たちは美しく有能で、それと天秤にかけてもどうしようもないぐらいことごとく女王の思い出に呪縛された者ばかり。女王に重ねられ、戸惑いながらも生きるために柔軟に立ち回る主人公のしなやかさには、そ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!一気読み必至の面白さ!
生体干渉魔術によって人工的に生み出された、女王の継承者。
王位を継ぐべく育てられた少女と、「失敗作」として女王の血統についてまわる遺伝病と闘いながら生きる少女。
圧倒的存在感を放つ偉大な女王に魅了されていた男たちは、女王の継承者たる少女にかつての女王を重ね合わせる。
そうした周囲の目に対して、ふたりの少女は異なる反応を示す。
主人公は「失敗作」のほう。
生き延びるために本音と戦略を天秤にかけて柔軟な対応をしていく様は、もうひとりの少女にはない強さだ。そこに惹かれた。
女王、魔術、遺伝病。
これらが密接に関わり合う世界観も違和感なく読ませてくれる。
甘くてドキドキする場面もあり、とても…続きを読む - ★★★ Excellent!!!揺らぎに立つ少女、その生への賛美。
落ちこぼれの少女エリファレットの日常が崩壊し、突如として女王位を争うことになる怒濤の時間を描いた小説です。
これほど短い期間に、エリファレットは見知らぬ他人から向けられる愛情・憎悪・殺意・執着……少女の未熟な心ではとても受け止めきれない数々の濃密な感情を押し込められてゆく。
想像するだに気色の悪い状況でしたね。
そしてそのすべての原点として根差す、エリファレットという人間の生への疑惑。
それはエリファレット自身のものでもあり、周囲の男たちから向けられるものでもある。
エリファレットの視点で読んでいくからまだいい。
しかしもしも違ったら?
もしも違ったら、この小説は本当に救いがなかったし、エ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!どうしようもなく「誰か」であること
自分が「誰か」であることって、あまりに当たり前な気がしているけれど、実際はとても相対的なものなのかもしれません。
誰の前にいるかによっても、何をしているかによっても、自分というものは少しずつ形を変え、移ろっていきます。
それなのに自分という存在が一定である気がしているのは、実は不思議なことなのだな、と私はこの作品を読みながら思いました。
もしかしたら自分という不確かな存在を自分自身にしているのは、ささやかだけれどこれ以上ない強い願いなのかもしれない、と。
主人公のエリファレットは、もはや図太いとすら言える安定した人格の持ち主なのですが、自らの出生の秘密に迫るほどに、他者からの「誰か」であれ…続きを読む