「血」と、呪縛。そして、二つの強さの物語。

湖水地方に建つ寄宿舎で育つ主人公は魔術を使わせてもらえない「落ちこぼれ」。彼女の元にある日宮廷魔術師の男が訪れ、彼女は女王の「娘」であると告げる――

そんな説明をしてみれば、目くるめく絢爛な物語が思い浮かびますが、さにあらず。
主人公は激痛を伴う致死性の遺伝病を患い、死を逃れるために女王の継承権を手に入れねばならないと告げられ、もう一人の女王候補との継承権争いに身を投じることとなります。

彼女に関わる男たちは美しく有能で、それと天秤にかけてもどうしようもないぐらいことごとく女王の思い出に呪縛された者ばかり。女王に重ねられ、戸惑いながらも生きるために柔軟に立ち回る主人公のしなやかさには、そこだ、やれ!という応援を惜しまず捧げたくなります。

そこに隠された秘密もあり、明かされていく経緯はハラハラと息を詰めるようなもの。

舞台は、汽車が走り、また魔術があり、遺伝情報を編集し、データサーバーめいた『門の島』をもつ神聖王国アケイシャ。想像を刺激する単語の使い方には胸を鷲掴みにされること間違いなし。硬質な筆致で綴られる、美しいと悟れるのに、絶対に曇天だと確信できるような風景描写にもまた一見の価値ありです。


(「魅せる世界観×応援したくなる女の子」4選/文=渡来みずね)

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