美味い酒と料理で冒険者の日常を彩るグルメファンタジー

 ダンジョンから産出する魔道具を求めて、人々が集まり形成された都市・魔都。そこに突如として出現した『日本酒バル マーチン's』を舞台に、常連客となった冒険者ヨランタの食事風景を描く異世界ファンタジー。

 まず本作を語るうえで一番大事なところとして、酒の描写が上手い! 料理を美味しそうに描くグルメもの作品は数多いが、本作は料理だけではなく、各話ごとに実在の日本酒を登場させてその味わいを実に美味そうに描写する。酒そのものだけではなく酒を注ぐ酒器の描写も丁寧で、日本酒が並ぶ食卓の雰囲気を鮮やかに描いているのが素晴らしい。

 店主のマーチンが出す日本食を物珍しく眺めながら、冒険者ならではのエピソードを開陳するヨランタの話も面白く、食卓で繰り広げられる二人の気の置けないやりとりには読んでいてついつい頬がゆるんでしまう。

 またヨランタには受けているものの、マーチンが自信をもって出した料理が他の異世界人たちの食習慣には上手くかみ合わず、適当に出した料理の方が評判が良かったりするなど、異文化間のギャップをユーモラスに描いているのも楽しい。

 巧みな文章で描かれる料理と酒の数々は食欲の秋にぴったりで、お酒が飲めない人も楽しんで読めるグルメファンタジーだ。


(「酒は飲んでも飲まれるな!」4選/文=柿崎憲)