第25話 私は……役立たず……です。……ごめんなさい

 あたし達はフルムーンに戻り、さっそく新たに出来上がった街へ人々を誘致してみることにした。

 幸い人の集まる広場には、例のNPC至上主義者の姿は見えなかった。


「ふぅ。緊張するわね。じゃあ始めるけど、みんなは周囲の警戒お願いね」

「了解した」


 念のため坂城とリオには少し離れた場所で見ていてもらうことにした。

 インベントリから透明に輝くひし形の正八面体をした宝石を取り出す。

 これは先ほど坂城から渡された声を拡張してくれるアイテムだ。

 空中飛行レースで主催者が使っていたものと同じものだ。

 これを使用してしゃべると、街中に声が響き渡る。


「突然失礼します。あたしは宗野美乃梨といいます。この度フルムーンのすぐ北にあたし達が作り上げた街ができました。その宣伝をさせてください。

街の名前は『モエノース』。人間とNPCが共存できる街を目的に作りました。

あたし達の街では、人間もNPCも優劣ありません。街への移住を希望される方を歓迎します。ただし移住には条件があります。

人間は、NPCに対して対等であり、共に歩む存在であることを心に強く刻み込んでください。

決して人間だけ優位になるような行動は起こしてはいけません。

またNPCも同じく、人間に対し友好的に接してください。お互いはこれから共に歩むパートナーとなるのですから」


 自分で言っておきながら、あたしはどうだったんだろう。

 本当にそんなことを思っていたのだろうか。

 あたしは自問自答する。


 あたしと萌生のことしか考えていなかった。

 あたしと萌生だけが良ければいいと思ってた。

 あたしも同じなのかもしれない。

 ほんと綺麗ごとよね。

 心の中では正直そんなことはどうでもよくて、あたし達に被害が及ばなければいいって思ってる。


 でも、今はもう他の人間やNPCに対しても、仲間だという意識を持たないといけないんだ。

 あたし自身が変わっていかなきゃいけないんだ。


 しばらくすると、様子を見に来ていた人々であたりは埋め尽くされた。

 やはり、時期的な要素が大きいのだろう。

 NPC至上主義者という明確な脅威が現れた以上、自分の身に不安を感じた人々が多かったのだろう。

 坂城の睨んだ通りだった。


 一人の男性があたしに話しかけてきた。


「その街は安全なのかい?」


 やはりそこが一番の心配事か。


「街には警備兵も巡回していて、現在では20人います。街が軌道に乗ればもっと増やせますけど、そのためには街の発展が必要です。

みなさんが移住してくれれば警備兵を増やす事もできます」


 今度は女性が話しかけてきた。


「その街には宿屋はあるの? 買い物はどうするの?」

「宿屋は1件建てました。ここと同じように全員が収容することができるので、安心してください。

買い物は、まだポーションと装備品しか売る物はありません」

「それだけか……」


 まだ始まったばかりの街だから、各施設はそれほど建てていない。

 冒険者ギルドとアルケミーギルド、鍛冶ギルド、商人ギルドの各支店は設立した。

 それ以外にも無料で建設できる建築物は全て立ててみた。

 食料販売店や酒場兼食堂、公園や道具屋など生産でどうにかできるもの以外は無料で建てられるようになっていた。

 しかし、まだまだ施設も人手も足りない。


「失礼、わたくしは美乃梨さんのサポートをしている坂城と申します」


 いつの間にか坂城があたしの横まで来てくれていた。

 いざというときには来てくれる。

 頼れるサポーターだ。


「設備などを建てるのにコストがかかります。そのコストも街で生活をしていけば次第に増えてゆき、建てられる施設も増えてきます。

また、人間やNPCのお店もご用意できますので、徐々に生活に必要な施設は整っていくと思っていただいて結構です。

それに、街の位置はフルムーンのすぐ外です。こちらに買いに来ることも可能ですよ」


 坂城の言葉に安心した人々は、先程とは明らかに表情が違う。

 坂城への質問が慌ただしくなってきたところで坂城は移動を施した。


「みなさん質問事項は沢山あるでしょう。まずは街をその目でご覧ください。残りの質疑応答はあちらで行います。さあどうぞこちらへ」


 決断しかねている人達をまるごと連れてゆく坂城。


「さすがねぇ……」


 坂城に連れられていく大量の人達を眺め、確かな手ごたえを感じた。




「ボクだって役に立って見せるんだから!」


 ボクは一人でこっそりとフルムーンの街へと向かった。

 覚悟とは裏腹に、何をするのかまったく決めていなかったので、とりあえず冒険者ギルドへ来て見た。


「どうしようかな……一人で採集依頼でも受けてみようかな」


 依頼掲示板を眺めていると、後ろの方で言い争いをしている集団を目撃した。


「おい! この役立たず! 謝罪の言葉はどうした?」


 数人の男達が一人の少女を囲んで罵声を浴びせていた。

 その少女は小柄で、青い綺麗な髪の毛をしていた。


 男がその少女の髪を掴み、無理やり少女を床へと座らせる。

 

「ほら、土下座して謝罪しろ! 『私は役立たずです。ごめんなさい』って詫びろ!」


 少女は無理やり土下座させられ、その頭を男の足が踏みつける。


「あう……ゆ、許してぇ……」


 周囲の男達は、そんな少女の姿を眺めて笑っている。


「私は……役立たず……です。……ごめんなさい」


 少女は涙を堪えながら謝罪している。


 ボクは、その少女がボクであるかのような錯覚に陥ってしまった。 

 ボクも……役立たずだって思われているのかな?

 もし姉ちゃんがいなかったら……ボクもあの子みたいになっていたのかな。


 だからこそ、ボクは変わらなきゃいけないんだ。


「やめろー!」


 ボクは少女を足蹴にしている男の足にしがみついた。


「謝ってるじゃないか! 何でそんなひどいことするの? もうやめて!」


 男達の視線がボクに集まった。


「おい、こいつ空中レースで優勝した露出狂じゃないのか?」


 男達の表情が変わった。

 明らかに嫌らしい目つきでボクを見始めてきた。


「変態お嬢ちゃんが何の用かな~? 俺達と遊びたいのか~? ん~?」


 男はボクの髪の毛を掴み、無理やり青い髪の少女の隣に座らせられた。


「役立たずのリテアに露出狂の少女か。こりゃこいつも一緒に可愛がってやるか」


 ボクは無理やり床に這いつくばされ、背中を足で押さえられてしまった。

 男はボクの髪の毛を引っ張り上げて、顔だけ男に向けさせる。


「おら~もうさっきの強気な言葉は終わりかい? どうした、ほれまた言ってみろよ」


 どうして助けに行こうなんて思っちゃったんだろう。

 ボクなんかが助けに来ても何もできないのに。

 現にこうしてボクは体を抑えられ、しかも震えて動くこともできない。


「そこらへんにしたらどうだ?」


 そこに現れたのはマイクだった。


「何だ? マイクかよ。てめーも入りてーのか? 一番最後でいいなら構わねーぞ」


 マイクは男の手を掴み、ボクの髪の毛を掴んでいる手を離させた。


「どうみてもお前らのやってることは正しくねー。そんな腐ったやり方をしてるやつがNPCの心を代弁するんじゃねーよ。

何がNPC至上主義者だ。なんだ? NPCっていうのはこんな少女をいたぶる連中だってゆうのか? あ? お前どうなんだ? 答えてみろ!」


 マイクの言葉に男達は言葉を詰まらせる。

 マイクの大声で周囲のNPC達も集まってきたからだ。


 ボクと青い髪の少女はマイクに助けられ、冒険者ギルドの外へと出て行った。


「萌生ちゃん、今冒険者ギルドに来るのは褒められた行動じゃねーな。あそこはNPC至上主義者が沢山いる。あんたみたいな可愛い嬢ちゃんが来たらあっというまに食われちまうぞ?」

「ありがとうマイクさん。マイクさんがいなかったら、ボク大変な目に会ってました……」


 青髪の少女もマイクへと感謝の言葉を述べる。


「あ、ありがとうございます。私もあのままだったら、きっとひどい目に……」

「いやいや、偶然見つけられただけさ。おっといけねえ。俺はマイク、『勇気』の根源を持ったNPCさ」

「私はリテアと言います」


 顔をあげると、マイクの後ろに見知らぬ少女が立っているのに気が付いた。

 何やらボクらの様子を眺めて、「うんうん」と頷いていた。


「そちらの方はマイクさんのお知り合いの方ですか?」


 みんなの視線がその少女へと注がれる。

 背は小さく、ボクと同じくらいか少し高いくらいだろうか。

 長い銀色の綺麗な髪の毛をしていて、両側で髪を縛っている。

 透き通った茶色の瞳がとても綺麗だ。

 また、耳がエルフのようにとがっていた。


「いや……俺の知り合いじゃないが……お嬢ちゃん、俺達に何か用かい?」

「お主らのやり取りを見ていてな、ちっとばかり心がときめいてしもうた」


 少女はマイクの顔を見上げ、ニコリとほほ笑む。


「うむ。良い男じゃ。お前さんみたいな若者と旅をしてみたいと思ってな」


 銀髪の少女はマイクの背中をぽんぽんと叩く。

 マイクが物凄く嬉しそうな顔をしていた。


「ああ、すまんかった。儂は南ともぞ……あ、いや南ともじゃ。見ての通り銀髪エルフじゃ! よろしくの、お若いの」

 

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