転生したからもう姉ちゃんじゃないよね? ~ボクが女の子になったワケ~
sorano
第1話 姉ちゃん頼むから下履いてよ! ボクだって一応男の子なんだよ。
「ねえ萌生(ほうせい) もうできたー?」
ドアを叩く女性の声がする。
「あ、姉ちゃん! ちょうど今できたとこだよー」
ボクは作業中のパソコンの画面をそのままに、ドアへと振り向く。
ガチャリとドアが開き、ボクの姉ちゃんが部屋へと入ってきた。
「ちょっと姉ちゃん! なんで下履いてないの!」
ボクは顔を真っ赤にしながら慌ててパソコンへと向きを変える。
ボクの姉ちゃんは、Tシャツにパンツ一丁の恰好でボクの部屋へとやってきたのだ。
いくら姉弟だからって困ってしまう。ボクだって高校一年生の男の子なんだから。
姉ちゃんはお構いなしにつかつかとボクの背後までやってくる。
「ほぉ~やってんね! どれどれ……ん? あれ、なんで女キャラなの?」
姉ちゃんはボクの背中に寄りかかりながら画面をのぞき込む。
姉ちゃんの二つのふくらみがボクの背中にあたっていて、思わず背中をびくりとそらして引き離す。
「姉ちゃん、胸押し付けないでっていつもいってるでしょ!」
照れるボクをニヤニヤした顔で覗き込むボクの姉、宗乃 美乃梨(むねの みのり)16歳。高校二年生になったばかりだ。
ちなみに姉ちゃんのバストサイズは80でアンダー65のCカップだ。
小さすぎず大きすぎず、まさに理想のおっぱ……コホン。それは置いておいて。
ボクは1つ年下で美乃梨の弟、宗乃 萌生(むねの ほうせい)だ。
姉ちゃんはいつもラフすぎる格好で家の中をうろつき回る。
お風呂上りもバスタオル1枚で平気な顔をしてボクの前にくる。
ボクに対しては羞恥心がないのだろう。本当に困ったものだ。
おかげでボクはいつも姉ちゃんのせいで悶々とさせられている。
「他にも設定やらステ振りとか色々しなきゃいけないんだから、あまりボクの邪魔しないでよ!」
ぷいとボクはそっぽを向いて答えた。
すると、姉ちゃんはわざわざボクが向いた方向に移動して、ボクの顔を覗き込む。
「あたしちょっと色々発見しちゃったから、まだこのデータでアップデートしちゃだめよ?」
そういうと、姉ちゃんは机に置いておいたボクの飲みかけジュースをひょいと取り、一気に飲み干した。
「ね、姉ちゃん!?」
今度はボクが食べていたポテトチップスを袋ごと取り上げた。
「ひどいよ……それ……ボクの最後のお菓子……」
「いいからいいから。 それよりちょっとこっちに来て」
強引にボクの腕を掴んで居間に連れていかれた。
そこにあったのは……
30cm程の丸いショートケーキ。その上には小さな蝋燭が4×4列で、計16本も並んでいた。
そして、可愛らしく色とりどりなクッキーや、小さなトレーに載っているチョコレート、そしてジュースが置いてあった。
「これは……?」
すると、姉ちゃんはクラッカーを取り出し、天井に向けて紐を引く。
パンッ!
「16歳のお誕生日おめでとう! 萌生、あたしと同じ16歳だね」
立ち尽くすボクに優しい笑顔を向ける姉ちゃん。
「ありがと……姉ちゃん、覚えてないかと思ってた。ボク嬉しいよ……」
両親が死んでから、もう2年になる。
姉ちゃんはそれ以来、学校に行かずにバイトをしはじめた。
ボクも学校にいかず、家に引きこもってしまった。
そんなボクを見捨てずに、姉としてボクの面倒を見ようとしてくれていたんだ。
高校2年生になったばかりの姉ちゃんは、自分の学校生活を捨ててまで、ボクを養うためにバイトを始めたんだ。
ボクの人生には、もう姉ちゃんしかなくなった。
ボクの最後の家族。大事な姉。そして……ボクの最愛の人。
ぐすっと鼻を鳴らし、ボクの目に涙が溢れてきた。
それを見た姉ちゃんは、ボクをそっと抱きしめてくれた。
「忘れるわけないじゃない。萌生は大事な大事な弟なんだから」
そっとボクの頭を撫でる姉ちゃん。
本当にあったかい、優しい手の温もりだ。
「最期のお誕生日だからね。パーッとやろうよ。ぜーんぶあたしの手作りなのよ?」
姉ちゃんは座布団を拾い上げ、テーブルの横に並べた。
「ほら、泣いてないで一緒に食べよ?」
「うん」と頷いて、姉ちゃんと隣り合わせでテーブルに座る。
「ほらこれ、自信作なのよ?」
姉ちゃんはクッキーを1枚掴み、ボクの口へと持ってくる。
しっとりとしているのにきちんと歯ごたえもある。
口の中に入れると、とろっと溶けてその甘みが口中に広がってゆく。
姉ちゃんの手作りクッキー。
その甘さはまるで姉ちゃんの優しさのように感じられ、ボクの口の中に、ボクの体中に広がっていった。
「とってもおいしいよ、姉ちゃん!」
ボクは姉ちゃんを見つめてニコリと笑う。
「本当に……ボク、姉ちゃんと姉弟でよかったって思ってる」
姉ちゃんはそんなボクのほっぺを指でつつき、いじわるそうな顔をする。
「どうした弟よ。姉ちゃんに恋しちゃったか~? んー?」
ボクは顔を真っ赤にして下を向く。
もう、時間がないんだ。だから……
勇気を振り絞って声を出す。
「うん。ボク……姉ちゃんの事大好きだよ。本気で愛してる」
ボクの答えが意外だったのか、驚きの顔で固まる姉ちゃん。
頬をわずかに染めている。
「そ、そう……じゃああたしも応えなきゃね……」
背筋を伸ばし、まっすぐ向く姉ちゃん。
照れ隠しなのか、お互いの方は見ない。
ボクと姉ちゃんは二人並んで背筋を伸ばし、まっすぐ前を向いている。
「あたしさ……恋愛とか諦めちゃってたんだよね。生きるだけで精いっぱいってやつ? だから、男の人を好きになるっていう感情がずっとなくてさ。
あ、でもね、萌生の事は好きよ。とってもとっても大事なあたしの弟。あんたの為なら、あたしの人生投げ捨ててやるってずっと決めてたくらい。
そんな弟から、まじめに告白なんかされちゃったらさ、もうあたし彼氏なんか作れるわけないじゃない。まあ、どっちみちもう無理かもしれないけどさ」
静まり返る部屋。
ボクと姉ちゃんはお互い前を向いたまま固まってしまう。
しばらくして、その静寂を姉ちゃんが破った。
「ねえ……萌生……あのね、よかったらなんだけど……あたしとしてみる?」
ボクの体がぴくりと跳ねた。
姉ちゃんと……する? 何を……?
ボクは恐々と姉ちゃんへと振り向く。
「どうせ、この体とももうすぐお別れだし。あたしそういう経験したことなかったし。萌生もないでしょ? 最期くらいいいかなって……」
姉ちゃんの顔は真っ赤だ。
ぷるぷる震えているのがわかる。
姉ちゃんは、ボクの為にそこまで決意してくれたんだ。だけど……
「とっても嬉しいよ。ボクだって大好きな姉ちゃんとそういうことしてみたいよ。でもだめだよ……姉ちゃん。都条例的にアウトだよ……」
「そ、そうよね。アウトよね。あはは、あたし何言っちゃってるんだろ。ごめん、忘れて忘れて!」
あははと作り笑いでなんとか切り抜ける姉ちゃん。
「ボクはさ、姉ちゃんの事本気で愛してる。でもね、だからこそ姉ちゃんには幸せになって欲しいって思ってる。
ボクがいたら、姉ちゃんは恋愛もできないでしょ? 男で弟のボクと一生一緒にいられるはずもないんだし」
姉ちゃんは両手を腰の後ろに伸ばし、腕にもたれかかって天井を見上げながら呟く。
「あたしは……それでもいいと思ってた」
本当に嬉しい。大好きな姉ちゃんにそこまで言ってもらえるなんて。
もうこれで悔いはない。
ボクは幸せだ。
この幸せを抱いたまま、ボクは……
転生できる。
「姉ちゃん、ボクはね……転生したら女の子になるよ。そうしたらずっと一緒にいられるでしょ?」
ボク達は、おいしい姉ちゃんの作ってくれたお菓子を堪能し、再びボクの部屋へと向かった。
さっきまでボク達が行っていた作業は、自分の分身であるキャラクター作成だ。
よくある3DRPGゲームのように、顔の輪郭や目の形、髪型など物凄く細かく設定できるのだ。
しかし、これからこのキャラを使ってゲームをするわけじゃない。
地球が滅ぶから、キャラクターを作っているのだ。
何のことかわからないかもしれない。しかし今地球上の人間の多くは、このキャラクター設定を行っている。
政府の発表によると、人間が住める環境じゃなくなるから、人間を辞めてゲームのキャラクターになって生活しろということだ。
だから、今作っているキャラクターは、今後自分自身になるのだ。
その為、ボクと姉ちゃんは、今一緒に自分自身の作成をしていたというわけだ。
「萌生、あんた女の子になりたかったの?」
「い、いいじゃんかよ!」
姉ちゃんの為ってだけじゃない。
生まれ変われるなら、ボクは女の子になってみたかった。
だから、ボクはキャラクターの性別を女性にして作っていた。
ボクの好みを全部満たした完璧なキャラクターを作り上げた。
姉ちゃんにそれを見られるのは恥ずかしい。でも、今後のボクの人生がかかっているんだ。妥協はできない。
「ねえ、萌生。あんたってそのキャラみたいな子が好きなの?」
「う、うん……まあ、こんな感じが好みかなぁ。」
ボクがマウスを握っている手に姉ちゃんが手を被せてきて、そのままマウスを操作する。
姉ちゃんの柔らかい手の感触がボクの手の甲に伝わる。
ボクの肩越しには姉ちゃんの顔。とっても近い。
ボクは呼吸が乱れ、激しく高鳴る心臓を抑えようと深呼吸する。
すると、姉ちゃんの甘い香りがボクの肺いっぱいに広がってきた。
やばい、ますます緊張してきた!
ウィーン……ガタガタガタ……
姉ちゃんはキャラクターの画面を印刷していた。
印刷し終えた紙を自分の顔の横にかざしてボクに見せた。
「ねえ、萌生。あんた知ってた? このキャラってあたしそっくりなんだけど?」
ボクはその印刷された紙と姉の顔を見比べて、顔を真っ赤に染める。
姉ちゃんはじっとボクの顔をニヤニヤして見つめた後、耳元で小さく囁いた。
「萌生はあたしが好みっと……」
「そ、そんなんじゃないから!」
ボクは顔を更に真っ赤に染めて、慌てて否定した。
「心配しないで。あたしがそのデータでキャラ作ってあげるから」
姉ちゃんは机の上のペン入れからボールペンを1本引き抜く。
そして、パソコンを操作して細かい設定値を紙に書き込んでいった。
もちろんその間、ボクの手ごとマウスを操作している。
姉ちゃんの手、顔、胸、吐息……ボクは姉ちゃんに包まれながらじっとしているしかなかなかった。
ボクの好みを反映させて作ったキャラクターのはずだった。
でもそれは、出来上がってみたらびっくり仰天。姉ちゃんそのままだった。
それをボク自身に認知させられながら、姉ちゃんにぴったりくっつかれている。
しかも、ボク好みのキャラクターに姉ちゃんがなるなんて言い出してる。
これどんな罰ゲームなんだ。
「え、でもそれじゃ……」
いつも一緒にいてくれる姉ちゃん。
だから、姉ちゃんに憧れてたんだ。
どうせ姉弟だし、姉ちゃんと結婚できるわけじゃない。
好きになっちゃいけなかったから。
だから、男であることが嫌だった。
男の欲望が嫌だった。
男のギラギラした欲望で姉ちゃんを見ている自分が嫌だった。
だから、ボクは女の子になろうと決めたんだ。
そうすれば、いつまでも姉ちゃんと一緒にいられるから。
でも、姉ちゃんはボクの作ったキャラクターになると言い出してきた。
「姉ちゃんが今とそっくりになってくれるのは……ボクも嬉しいよ? でも……姉ちゃんは自分で好きなように作ったほうがいいんじゃない?」
ボクの手を包む姉ちゃんの手にぎゅっと力が入り、そして姉ちゃんは左手で後ろからボクを抱きしめてきた。
「萌生のキャラはあたしが作ってあげる。あたし好みの最強のキャラをね!」
姉ちゃんに抱きつかれながら、身動きが取れないボク。
姉ちゃんの左手がボクの顔に添えられる。
そして、ボクの顔を姉ちゃんは自分に無理やり向けさせる。
触れるか触れないか、そんな距離。
姉ちゃんはボクの目をじっと見つめている。
近い……姉ちゃん……近すぎるよ!
姉ちゃんは口元をニヤリと吊り上げてボクに言った。
「ねえ、知ってた? 転生したらさ、もう姉弟じゃなくなるんだよ?」
「だから、お姉ちゃんを好きになっちゃっても……いいんだよ?」
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