第33話 大きすぎるよ! もう入らないから……無理だよぉ

 あたし達は取り敢えず作りたての街で一泊することになった。

 宿屋に併設してある食堂兼酒場で盛り上がるメンバー達。


 エレットとこれからのことを打ち合わせる前に、新たに追加された首領コマンドを確認することにした。

 まず出来る内容で、領主コマンドと被る内容。

 衛兵雇用、戦争、施設設置、税率調整。この辺りは領主と同じだから理解できた。

 首領コマンドのみの項目が問題だ。

 まずは探索、開墾、公用地設置というコマンドが増えた。

 これは資源の産出場所や農地や公共の土地を増やす際に使うものらしい。

 まずは探索を行い、そのポイントの情報を入手する。

 入手した土地を開墾して農地にしたり、採掘場や伐採場を開設できる。

 また、公用地という指定にすることでそこへゲートの設置をすることができる。

 ゲートとは、空中飛行レースの際に使われていたような移動魔法のゲートで、こちらのは常時設置ができるようだ。

 移動時間短縮が出来るのはありがたい。

 しかし、コストが非常に高いのと公用地設定をしていないといけないのと、その場所の安全を確保しなければならないので安易に沢山は設置できないだろう。


 他には議員任命権、議員解任権、資金運用権などが追加されていた。

 この辺は難しそうなので坂城に一任しようと思う。

 

 一番興味を引いたのは、駐屯地命令というコマンドだ。

 どうやら駐屯地というものがあるらしく、そこの兵士を増強したり進軍したりできるらしい。

 新たに駐屯地を設置することもでき、中には戦略施設の設置として壁やバリケード、櫓、塔、バリスタ、投石器等様々な設置物があった。

 しかしコストがとんでもなく高いので、現段階では新設は無理だ。

 その代わり、フルムーンには1か所最初から設置されている駐屯地があった。

 以前坂城が持ってきた地図に載っていて何のアイコンか不明な物がいくつかあったが、その一つがどうやら駐屯地だったようだ。

 ここエレットタウンの西に伸びる街道沿いにも一つある。

 アイコンの位置から、おそらく2~3時間ほど距離がありそうだ。

 現在の攻略対象という項目があり、そこには『盗賊団の住処』となっていることから、何らかの戦闘状態にあると予想される。

 そこ以外にはフルムーン南東に一つ、フルムーン西に一つ同じようなアイコンがあったが、どうやらこれらはフルムーンの駐屯地ではないようだ。

 南東のは恐らくリラの街の駐屯地になるのだろう。

 西側にも一つあるが、地図には西側に街は載っていない。

 地図の表記外にある別の街の所有する駐屯地の可能性がある。


 あたしは一通り説明をして、エレットの意見を求めた。


「そうですわね。今の美乃梨の説明からまず優先するのは周辺施設の調査でしょうね。東にある採掘場と伐採場の確保。問題は西の駐屯場ね。

エレットタウンと比較的近いのと、何より盗賊団の住処と戦闘状態にあるなら、現状の調査は必要でしょうね。必要であれば戦闘に加担する選択肢も出てきますわ」

「そうよね……とはいって現状でどうにかできるものなのかしら。まあ、一度行ってみないとなんともいえないわね。で、どうする? 西の駐屯地先にする? それとも東の資材ポイントを先にする?」

「一つよろしくて? まずはこの街そばに公用地指定をしてゲートを開けないかしら。モエノースとエレットタウンにゲートを開ければ、生産者の往来が楽になりますわ。

その後に東の施設を調査して、危険がなさそうなら坂城やリオに動いてもらうというのがわたくしの考えですわ」

「うん……そうね。本格的な生産施設調査は関係者にやってもらいましょうか。じゃあ明日は朝一であたしゲート作るわね。坂城とリオにはメール送っておくわ。その後全員で駐屯地へ行ってみましょう」

「ええ。それで構わないわ。ところで、わたくしのパーティーのサブリーダーを美乃梨に紹介しておきたいんですの。よろしくて?」


 そういうとエレットは後ろにいた男を隣に連れてくる。


「スコットをわたくしの参謀として力を貸してもらおうと思っていますの。彼は『騎士』『誠実』『文武両道』の根源を持つ優秀な方で、わたくしのパーティーでサブリーダーをしてもらってますの」


 スコットは美乃梨へと丁寧なお辞儀を行った。

 見た目は30代くらいのナイスミドル。金髪が軽くふわっと揺れていて、そのせいで筋肉質な体なのに全体的には柔らかそうな雰囲気を漂わせている。

 濃い碧の瞳は彼の清純さを物語っているようだ。


「私はスコットと申します。エレット殿のパーティーでサブリーダーを任されております。以後お見知りおきを」

「これまた随分といい方向に偏った根源の方なのね。見た目もさわやかで……あ、ごめんなさい。あたしは宗野美乃梨。よろしくね」


 あたしが握手のつもりで手を伸ばしたが、スコットは跪いてあたしの手を取った。そしてその手に軽くキスをするスコット。

 まるでナイトがお姫様にするような挨拶だ。はじめてそんな挨拶をされた衝撃であたしは身体が硬直してしまい、身動きが取れなかった。

 あたしはだらしなくぼうっとスコットの顔を眺めてしまい、そんなあたしに笑顔で微笑むスコット。

 これは凶悪だ。ふと我に返って気を付けようと心を引き締める。

 萌生の方をチラリと見ると、やっぱり案の定……スコットを睨み付けていた。

 まあでも、エレットの取り巻きだし、あたしや萌生には害はないでしょう。


 こうしてお開きになり、あたしは一人宿屋に戻った。

 そういえばここ最近、萌生と一緒に寝てないな……。

 萌生は一緒のメンバーのともとリテアと一緒に宿に行ってしまった。

 ここ数日で一気にあたしの周囲に人が集まってしまった。

 でも、気が付くとあたしのそばには誰もいない。

 いつもは萌生がいた場所には、今は誰もいない。

 

 さみしいな……。


 あたしなりに一生懸命頑張っているつもりだ。なのに頑張れば頑張るほど萌生が遠くに行ってしまう気がする。

 あたしが頑張ってるのに、萌生はあたしに構わず別の子と楽しそうに遊んでいる。

 無理やり萌生を自分の宿に引っ張っていくのも今は出来ない。

 あんまり周囲に変な目で見られちゃいけない立場になってしまったから。


 首領? 領主? パーティー? そんなの本当はどうでもいいんだ。

 萌生だけいればよかった。

 全部捨てちゃう?

 そういうわけにもいかないよね。

 あたしは迷い込んで出口の見えない迷路に入り込んでしまった気分だった。


 次の日、あたしはエレットタウンの東側出口に公用地を設定し、そこにゲートを開いた。

 東側の出口の方が採掘場や伐採場に近いからだ。

 そしてモエノースに戻って坂城とリオに軽く説明をした。

 坂城は「フルムーン首領美乃梨様、首領就任おめでとうございます」などと大真面目に挨拶してきたので引いてしまった。

 あたしにはそんな大任やれるわけないし、勘弁してほしかった。

 とりあえず議員に坂城を任命して全部任せると言っておいた。


 エレットタウンに戻り、全員を招集してまずは東の採掘場と伐採場の調査へと向かうことにした。

 1時間程歩くと採掘場らしき場所へと辿り着いた。

 山肌に高さ2メートルくらいの穴が開いており、木枠で固定されていたので採掘場だとすぐにわかった。

 ここまでの道中はブラウンウルフがいた程度なので、少し戦闘訓練を受けた者なら倒せるレベルだろう。


 そして採掘場すぐそばに野生のラマがいるのを発見した。

 萌生が連れてきたテイマーのリテアがラマを1匹テイムした。

 どうやらサドルを別で購入すれば乗ることが出来るようだ。

 道具屋に戻ってテイムアイテムとラマのサドルを各自購入してリテアに全員分テイムしてもらった。

 数匹テイム余計にテイムしてもらったので、後でリオに渡すことにしよう。

 運搬用で使えるはずだ。いや、インベントリに入れられるなら運搬用は必要ないのかもしれない。

 ふとリオがラマに乗っているイメージを想像してしまった。

 リオの事だから、ラマに乗っても自分で大きなリュックを背負っていそうで、その姿がおかしくて吹き出してしまった。


 採掘場の中は特にモンスターが沸くといったこともなく、勝手に明かりが灯るランタンも配置されていて非常に楽そうだった。


 安全を確認した後は特に調べることもなさそうなので、伐採場へと向かうことにした。

 採掘場から10分ほどの場所に伐採場はあった。

 他の林と違うのは、木の種類がとても多い。

 ヒノキや杉、ケヤキ、赤松、オークウッドなど数多く生えていた。

 かなりの広範囲に広がって伐採林は存在していたが、このエリアにはモンスターは沸かないようだった。

 代わりに小型のリスや鹿や鳥が生息しているようだった。


 一通り東側の探索を終え、結果を坂城とリオに報告し、捕まえたラマを渡した。

 予想通りリオはラマに乗っているのに自分でリュックを背負っていた。


「リオさん、大きすぎるよ! もう入らないから……無理だよぉ」


 まだリュックに荷物を詰め込もうとしているリオ。

 よたよたしているラマを見て萌生が必死に止めていた。


 まあ、後は彼らに任せておけばいいだろう。


 明日は西側の調査に行くことにしよう。


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