第32話 姉ちゃん、気軽にOKしすぎだよ。後で襲われても知らないから!

 今回初の遠征で、ついたら即街を建設し宿泊施設と衛兵を雇う予定で、宿泊は現地の新設宿屋でするので、キャンプ用品は持って行かない。

 新たな街の建設予定地は、フルムーンから北にあるキスカへと続く街道沿いでちょうど中間地点にあたる十字路付近を予定している。

 キスカとの往来が盛んになれば、中間にあるプレイヤータウンは宿として、そして周辺の鉱山利用者の拠点として、そして他の攻略ポイントへの準備地点として利用されることを想定している。

 街を設置する作業を終えたら、周辺の探索を行う予定だ。

 主な探索ポイントは街の建設予定地の東側にある鉱山と伐採場所。それと西側にある謎のアイコンのある場所

 遠征する部隊は30人程になり、半数以上をエレットの部隊が占めていた。


 モエノースを出発してしばらく進むと、鉱山らしき場所が見えてきた。

 山のふもとに坑道の入口が空いており、木組みで坑道が整えられているようだ。

 恐らく中で鉱石が採れるのだろう。

 今回は中の調査は行わないが、モエノース近郊の採掘場となれば調査をしないわけにはいかないだろう。

 近いうちに来なければ。


 しばらく道なりに進むと、北と東に分かれる分岐点に到着した。

 一同はここでしばらく休憩を取ることにした。

 周辺は岩や草木が散らばっているだけの平原になっている。

 かなり広範囲の平らな地形になっている所を見ると、こういう場所を街にするのに適していると言えるだろう。

 もしここに街を作れば、東側の砂漠地域への進出前の街として活気が出るかもしれない。

 ここも悪くなさそうだ。


 坂城が持ってきた地図によると、ここを東に進むと砂漠地帯になっていてオアシスや遺跡があるようだ。

 砂漠を歩いて進むのは厳しそうだ。

 ラクダみたいな騎乗ペットとかいないのだろうか。

 萌生が連れてきた仲間にテイマーがいるそうだから、それっぽい騎乗生物がいたら捕まえてもらおう。


 ここまで狼10匹、ブラウンウルフ3匹、毛むくじゃらの凶暴ななまけものっぽい魔物1匹とと戦闘になったが、一瞬の内にエレットパーティーが殲滅した。

 動きも悪くない。

 頼れそうなパーティーだ。


 エレットが休憩がてらあたしに話しかけてきた。


「既に目的地の半分を超えた場所まで来たけど、思ったほど強い敵はいないようですわね」


 主要街道沿いだからなのか、それなりの敵は毛むくじゃらの敵1匹だけしか遭遇していない。

 

「そうね。このままなら行商の商隊でも護衛数人程度で移動は可能そうね。それにしてもあなたのパーティーなかなかやるじゃない」

「わたくしの為にみなさん頑張って下さってるわ。わたくしを統括に任命してくださったおかげでパーティーの士気も物凄く高まっていますの。これも美乃梨のおかげですわ」

「あはは。あたしはあんたの人望を利用しただけよ。あんたの実力よ。期待してるわ、お姫様?」

「あら、わたくしの根源を知ってらっしゃったの? まあ……割と感謝していますの。ランダムで割り振られたのか意図的な物があったのかはわかりませんけれど」

「そういえばカルナインもランダムにしてはすごい根源が集まっていたわね。やっぱり何らかの意図的なものがあるのかもしれないわね」

「とはいえ『妹属性』と『男の娘』と『姉好き』の兄と『姉属性』と『男の娘』と『妹好き』の弟とかいるんですのよ。どう見てもおかしな組み合わせでしょう? 意図的ならこんな組合せにはならないはずですわ」

「それはどうみても意図的にしか見えないわ。というよりその兄弟をあたしに紹介して」

「え?」


 和やかな休憩時間を終え、あたし達は目的地へと再び進み始めた。

 モエノースを出てからおよそ3時間。そして休憩が30分。

 この調子だとあと3時間程度で目的地に着きそうだ。

 フルムーンからモエノースまでは出口を出てから歩いて1分で着くのでほとんどフルムーンからの時間と変わらない。

 つまり、フルムーンからキスカの街までは休憩なしで12時間程で着く計算になる。

 戦闘準備をしつつ、荷物を抱えて徒歩で12時間はとてつもなく大変だ。

 やはり中間地点に街を作るのは他の人々にとっても有益なはずだ。


 残りの後半は初めて見かけた人型の盗賊魔物に遭遇したが、これも無事に撃破した。

 いきなり銀髪のエルフ耳の少女が両手剣で突進して、そのまま転倒して危ない場面もあったが、それ以外は特に問題はなかった。


 そしてあたし達は順調に街建設予定地へと辿り着くことが出来た。


「じゃあぱぱっと街建てちゃうから、その後は街で休憩にしましょう」


 遠征の疲労がかなり溜まっていたので手早く済ませてしまおう。

 あたしは前回同様領主申請書を使用して街の名前を『エレットタウン』とした。

 最低限の施設という事で、宿屋と生産では作れない物資を扱う無人の道具屋と食料品店を建て、念のために衛兵を10人雇用した。

 後は適当に街の範囲にするエリアを選択していくだけだ。

 めんどくさいので読まずに「はい」をタップして終わらせた。


 突然見たこともない全体メッセージがあたしの視界に飛び込んできた。


「ん? 何これ?」


 その時萌生が慌てた様子であたしの所に駆け寄ってきた。


「なななななにやってるの姉ちゃん!?」


 やけに慌てている様子だ。

 また街作りをやらせろっていいだすのかしら。


「今忙しいから後にして? 萌生も早く休憩したいでしょ?」

「姉ちゃんメッセージ見てる? とんでもないことになってるよ?」

「とんでもないこと?」


 そういえばさっき何やらメッセージが出てた気がするけど……ログって見れるのかな?

 システム欄を開いて確認すると、先程のログが表示されているのを見つけた。


「どれどれ?」


『フルムーン領所属宗野美乃梨によって、キスカ領K-29が占領されました』

『フルムーン領所属宗野美乃梨によって、キスカ領K-28が占領されました』

『フルムーン領所属宗野美乃梨によって、キスカ領K-27が占領されました』

『フルムーン領所属宗野美乃梨によって、キスカ領K-26が占領されました』


 あたしはログを見て固まってしまった。


「は?」


 何やらあたしがキスカ領を占領したというメッセージが表示されていたのだ。


「あたし占領なんかしてないけど?」

「たぶんここってちょうどフルムーンとキスカの中間地点だから、街作った時にキスカ領にかかっちゃったんじゃない?」


 その時更に別のメッセ―ジが表示された。


『フルムーン領内のみなさまにお知らせいたします。ただいまフルムーン首領着任の必要貢献度達成者が現れました。ただいまよりフルムーン首領は宗野美乃梨が就任いたします。

首領には税収の1%とフルムーンの施設変更権限、及び戦争権限、及び衛兵雇用権限、その他領地設定権限が与えられます』


「え……? あたしがフルムーン首領?」


 どうやら街設置の最中に、「はい」を連打しすぎて警告に気が付かずキスカ領の領地を占領をしてしまっていたようだ。

 街道の半分より北側はキスカ領になっていることに気が付かず、どんどん占領をしていたということだろう。

 その結果、あたしのフルムーン貢献度がダントツトップになってしまい、一定値を超えたのであたしが自動的に首領になってしまったようだ。


 頭は混乱したままだが、とりあえず作業を終えようとやりかけの作業を終える。

 その瞬間全体メッセージで、『フルムーン領所属宗野美乃梨によって、キスカ領K-30が占領されました』と表示された。


「あ……またやっちゃった」

「姉ちゃん、気軽にOKしすぎだよ。後で襲われても知らないから!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る