第31話 エレット嬢のお尻万歳!
あたしは坂城の提案に乗り、キスカの街へと続く北の街道沿いに街を建設するため、長距離移動用のパーティーを編成することになった。
「長距離移動になりますので、戦力はできるだけ整えるべきでしょう」
あたしは最近萌生が連れてきたというパーティーにも声を掛けることにした。
マイクは信用できないけれど、萌生だけじゃなくカルナインまでもが何度もしつこく言ってきたからだ。
更にはニナやアリサまでマイクに助けられたなどと聞かされては仕方がない。
「美乃梨さん、彼女らも協力を依頼すべきです」
坂城が連れてきたのは、エレット率いる20人ほどの集団だった。
以前見かけたときは、連れの男共は10人位だったのに、今は倍にまで膨れていた。
「条件がありますわ! わたくしとお友達になってくださりません?」
遠征の協力を依頼してみた所、なんとも見返りの無欲さに拍子抜けしてしまった。
「それだけでいいの?」
「わたくし、何故か男達がやたらと着いてきてしまって、同性の方たちは皆さん怖がってしまいますの。その為、わたくし同性のお友達が全然つくれないんですの」
エレットは後ろに付き従う男達を見渡す。
以前より明らかに数が増えている。
きっとエレットの持つ根源が関係しているんだろう。
そばにいた萌生がエレットに声を掛ける。
そういえば萌生は空中飛行レースで助けてもらった恩もあるんだったわね。
友達になりたいって前から思っていたのかもしれない。
「エレットさん! ボクもエレットさんとお友達になりたいな!」
すっごい嬉しそうな顔をして萌生を見つめるエレット。
だけど、腕を組んで横を向いてしまった。
「ど、どうしてもというなら、お友達になってあげてもよろしくてよ?」
「ああ、なるほど」
そういう根源なのね。
それなら……。
「あたしは別にどうしてもとは思ってないわ。こっちは友達になってもならなくてもどっちでも構わないけど」
エレットは焦ってあたしの顔をチラ見する。
動揺しているようだ。
「そ、そうよ! 萌生ちゃんはわたくしがお友達になって欲しいのよね? それなら仕方がありませんわ」
「このこは人見知りだから萌生も別にそこまで思ってはないわよ」
「え? ボクは……」
こっそり萌生へと振り返り、エレットに見えないようにひとさし指を口にあてて、「しー」と萌生に黙るように合図を送る。
「はぁ」とため息をついた萌生はあたしの顔を見て悟ったようだ。
さすがあたしのおもちゃなだけはあるわね。
「あたしは特にこれ以上友達は必要ないけれど……そうね、どうしても友達になりたいなら、テストをしましょう」
「テストですの? そ、それをクリアすればわたくしを友達と認めてくださるんですの?」
「ええ。あたしと萌生、それにあたし達の仲間全員があんたを友達と認めるわ」
「全員ですの!?」
あたしは周囲を見渡して睨み付ける。
すると、やれやれといった表情で全員が頷いた。
「仕方ないですわね。そこまで言われたらやるしかありませんわ」
「嫌ならいいのよ?」
「や、やりますわ!」
ほら乗ってきた。
ちょろいわねこの子は。
「友達になるという事は、楽しいことも辛いことも一緒に背負って生きるということよね?」
「もちろんですわ」
「貴女にはその覚悟があるのかしら?」
「当然ですわ!」
「もしテストに合格したら、エレットを新しい街の統括に任命するわ。モエノースでいうとこの坂城のポジションよ」
「え!? そんな重要なポストにわたくしを……?」
あたしはニヤリとしてエレットへと近づいた。
「以前は萌生によくもヒモパン履かせてくれたわね……?」
耳元でぼそっと呟く。
「え、あれは仕方なく……」
「おかげで萌生は全員の前で大恥をかいたわ」
「わ、わたくしのせいだって言いますの!?」
「あら、友達が恥ずかしい思いをしたのに、知らんぷりするのかしら?」
「友達!? え、そんなことありませんわ! もちろんわたくしも心を痛めていますわ!」
「そうよね。楽しいことも辛いことも一緒に背負って生きるって同意したわよね?」
「し、しましたわ……」
「それなら……」
あたしは周りに聞こえないようにこれから行うテストを告げる。
「え!? 本気で言ってるんですの!?」
「本気よ。さっきも言ったけど、嫌ならいいの。全然かまわないわ」
「うぐ……や、やればいいのでしょう!」
エレットはそういうとあたしらに背を向け、そこで動きを止めた。
「はーい、みなさん注目―! これからエレットさんが皆さんに是非見てもらいたいことがあるそうです」
あたしが大きな声で声を掛けた。
すると周囲の人達がぞろぞろと集まってきた。
「美乃梨!? どうして……」
顔を真っ赤にしてフルフル震えている。
「エーレット! エーレーット!」
あたしは手拍子をしてエレットを応援しはじめる。
それに釣られてエレット連れの男達も手拍子を初めてエレットを応援しはじめた。
「エーレット! エーレーット!」
エレットは足を少し開いて、お尻をちょこんと突き出した。
そして半身で振り返り、ぼそっと呟く。
「わ、わたくしが……新しい街の統括エレットですわ……」
「そんなんじゃ全然だめね」
あたしが冷たく言い放つ。
びくっと体を震わせるエレット。
あー本当に楽しい。
エレットは前より前かがみになり、お尻を突き出す。
ヒモパンを履いているせいか、お尻が丸見えになってしまっていた。
「わたくしがエレットですわ! 新しい街の統括エレットですわ!」
涙目で顔を真っ赤にしながら振り返って叫ぶエレット。
「うおー!」
男達の大歓声が上がり、盛大な拍手に包まれる。
「やりましたわよ! これでよろしいのでしょう?」
エレットはスカートを抑えながらあたしに近寄る。
とても恥ずかしかったのだろう。顔を真っ赤にして涙目でぷるぷる震えている。
おかげで周囲の男共は大喜びだ。
「今聞いてもらったように、これから行く街はあたしが領主でエレットが統括の街にするわ!
みんなもエレットを助けて街を発展させるのに力を貸してちょうだい!」
男達が「おおー!」と叫びながらエレットを取り囲む。
「エレット嬢! 俺達が力を貸しますぞ!」
「エレット嬢の街なら俺達の街も同然だ! 一緒に頑張ろう!」
「エレット嬢の為なら何でもするぜ!」
「エレット嬢のお尻万歳!」
坂城があたしの隣に歩み寄り、眼鏡の中心ををぐいっと指で持ち上げる。
「なかなか策士ですな、美乃梨さん」
「エレットを雇用するのを提案してきたのはあんたじゃない。まあ、味付けはちょっとしたけど。まあいいわ、モエノースはあんたに任せるわ。何かあったら連絡して」
「お任せを。商工会経験者や社長経験者など人材も集まりました。モエノースの発展は順調に進むでしょう」
新たな街でしかもフルムーンから離れている街。いくらキスカとの中間地点にあるとはいえ、まだ街間の往来はほとんどないだろう。
そんな寂れた街を活性化させるには、何らかのパワーがいる。
坂城が提案したのは、エレットという人的パワーだ。
求心力のある人材を中心に置くことで、盛り上がりを演出するのだそうだ。
エレット達は冒険者でもあり、ここを拠点として活動してくれれば探索も進む。
何よりエレット目当ての男共がやってくるだろう。
「それにしてもエレットはすごい人気ね……一体何が男共を惹きつけてるのかしら?」
「聞いた話ですけど、エレットさんの根源は『おせっかい』『ツンデレ』とそれに『お姫様』らしいですよ。
やたらと上品で可愛らしいお嬢さんが、ツンデレしながら人の面倒を見てくれるそうです。どうにもそれがたまらなく男心をくすぐるそうですよ」
「お姫様? あたしお姫様にお尻見せて男共を喜ばせろって命令しちゃったのかぁ」
「そんなお姫様にひどい命令を下す美乃梨さんは、とりわけ『女王様』でしょうか。ふふふ」
「あたしNPCじゃないから根源なんてないけど」
「どうにも困っている人がいると、誰彼構わず声を掛けて助けようとするそうです。
お酒で酔って倒れている人がいると、膝枕で介抱してあげて例の「あなたのためじゃないんだからね」を言っているそうです。
それを見た男達が次々とエレットさんの見ている所で酔った真似をしはじめるから、エレットさんは大事なスキル選択で酔い覚ましの魔法を選択したそうです。
責任を感じた男達がエレットさんの為に一緒に冒険や依頼をこなしているって話です」
「なんかエレットってちょっとおばかそうね……萌生にも自分のパンツ脱いで履かせてあげたりとかしてたし」
「そこも魅力なんですよ。本来根源にないおばか加減やチョロインといった属性が、彼女の3つの根源の配分によって表れてくるんです。
お姫様の施す性質とおせっかいなせいで、ちょろくなってしまい、ツンデレなのにおせっかいで上品なお姫様だからおバカに見えてしまう。
いやはや……彼女は偶然が生み出した奇跡でしょうね」
「坂城……あんたもしかして?」
坂城は眼鏡を指で持ち上げ答えた。
「当然わたくしも彼女を評価していますが何か?」
あたし達が見つめる中、エレットは男共に囲まれて声援を浴び続けていた。
顔を真っ赤に染めて恥ずかしがるエレットを見ながら、新しい街も何とかやっていけそうだと手ごたえを感じていた。
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