第30話 リテアさん……ここ、とっても甘くて柔らかくておいしいよ!
今日は最近一緒の4人組で狩に行き、その後リテアさんに声を掛けられた。
「萌生ちゃん、この後少し時間ある? 萌生ちゃんとね、もっとお話したいなって」
少しもじもじしながらボクを誘うリテアさん。
こうやって姉ちゃん以外の女性から誘われるなんて生まれて初めてだ。
「えっと……多分少しくらいなら大丈夫だと思う……かな?」
本当は何にも予定なんかないのに、つい時間があまりないみたいな言い方をしてしまった。
姉ちゃん以外の女性から誘われるなんて今までなかったから、変な見栄にもならない事をしてしまったのだ。
「よかった。それじゃ公園にでもいってみない?」
こうしてボク達は二人で公園に向かう。
「萌生ちゃん、私を助けてくれてありがとう。まだちゃんとお礼をしていなかったから、今日はお礼をしたくて声をかけたんだ」
「お礼なんていいよ! ネオのおかげでボク達も随分楽になってるんだもん」
「そうはいかないわ。私を助けてくれてありがとう。それに、ペット捕獲アイテムのお金を出してくれて、ネオを捕まえるのを手伝ってくれたし。
こんなにすごい子が捕まえられて、すごく嬉しいの。こんなに綺麗で可愛くて……しかもユニークモンスターだからすごく強いし」
そういうと、リテアさんは小さなデコレーションされた包み紙を取り出してボクに手渡してきた。
「お礼に手作りクッキー焼いてきたんだ」
「ボクにプレゼント!? うわぁ……綺麗で可愛い袋だね。嬉しいなぁ。ボク家族以外からプレゼントなんてもらったの初めてだよ!」
あまりに嬉しくて、そのまま大事にしまっておきたい衝動にかられる。
でも、これクッキーっていってたよね。やっぱ今一緒に食べるべきだよね? それとも持って帰るべき?
どうすればいいんだろう。ボク……こういうのわからないや。
「ほら、開けてみて。萌生ちゃんのお口に合うか感想聞かせて欲しいな」
包み紙をじっと見つめていたボクに、リテアさんは食べるように促す。
「う、うん。嬉しくって開けるの躊躇っちゃった。えへへ」
「萌生ちゃんって可愛いわよね。うふふ、気に入ってくれたならまた作るわ。ほら、食べてみて?」
ボクは丁寧に袋を開け、中からクッキーを取り出してみる。
濃い茶色のクッキーと、黄土色のクッキーの2種類が入っていた。
濃い茶色のクッキーから食べてみる。
少し苦みのある大人の味のクッキーという感じだった。
「おいしいよ! ありがとう!」
おいしかった。でも……正直ボクの好みとは違っていた。
姉ちゃんの作ってくれたクッキーとつい比べてしまう。
姉ちゃんのクッキーは甘くて、口に入れるとミルクがとろけるような滑らかさがあって、ボクはそれが大好きだった。
また姉ちゃんの手作りクッキーが食べたいな……。
ううん、今ボクは少しでも姉ちゃんから独り立ちして力を付けなきゃいけないんだ。
いつまでも姉ちゃんにばかり甘えてちゃいけないんだ。ボクには、姉ちゃん以外にも大事な人達ができたんだ。
リテアさんにともさん、カルナインさんにマイクさん。それにエレットさんやニナさんにアリサさんに坂城さんにリオさん。
うわぁ……いつの間にかいっぱい知り合いが増えたなぁ……。以前のボクからは考えられないや。
「萌生ちゃんにはもっと甘いクッキーの方がよかったかしら?」
「そ、そんなことないよ!」
ボクは黄土色のクッキーを食べてみた。
こっちの方が甘そうだったから。
黄土色のクッキーはさっきのより甘くてボク好みに近かった。
「リテアさん……ここ、とっても甘くて柔らかくておいしいよ!」
ボクは黄土色のクッキーを指さして答えた。
濃い茶色のより黄土色の方がおいしかったから。
「あ、そうだ。ボクばっかり食べてちゃ悪いね。リテアさんも一緒に食べよう!」
ボクはクッキーをひと掴みしてリテアさんに渡そうとした。
その時、足がもつれてしまってボクは盛大に転んでしまう。
「うわ!」
「きゃ!」
ボクは勢いよく転んだ拍子にリテアさんを押し倒してしまい、その拍子に唇と唇が触れてしまった。
そのまま硬直してしまい、しばらくキスしたままになってしまった。
ボクの全神経が唇へと集中する。
柔らかいリテアさんの唇。
早く引き離さなきゃいけないって思うのに、ボクは動けなかった。
リテアさんもびっくりしていて、目が泳いで困惑しているようだ。
恩人のボクだから、きっと強く跳ねのけられないでいるのかもしれない。
未練を捨ててボクは顔を離す。
でもボクはリテアさんを押し倒したままリテアさんの顔を覗き込んでいる。
「ご、ごめん!」
「ううん、気にしないで」
「でも……唇が」
「うん……でも萌生ちゃんだから……いいよ」
「え? それって……」
どういう意味?
ボクの事好きって事?
転んでしまった驚き、そしてキスしてしまった驚き、そしてリテアさんの言葉に驚くボク。
ボクは頭が混乱してしまった。
「ボ、ボクもリテアさんならいいよ!」
何を言っているのか自分でもわかっていない。
リテアさんが頬を染めてボクを見つめている。
これって……もしかしてリテアさんはボクの事が好きなのかもしれない!?
ボクにも彼女が出来るかもしれない!?
ボクの目を見ながらリテアさんが囁くように呟く。
「萌生ちゃんは私のことすき?」
「え、う、うん……好き……かな?」
「私も萌生ちゃんのこと好きよ」
どうしよう。どうしよう。どうしよう!!
リテアさんはボクの事が好きなんだ!
リテアさんの唇を奪ってしまった責任を取らなきゃいけないのかな?
「女の子同士だから、気にしないで。萌生ちゃん可愛いから許しちゃう」
そういうとリテアさんはボクのほっぺにキスをした。
「だって女の子同士のお友達が出来て嬉しいから」
あ、そっか……ボクは女の子なんだった。リテアさんはボクの事女の子としてみていたからか……。
そういうことか……。
さっきまで高まっていた熱が一気に水を浴びせられたかのように冷却させられてしまった。
リテアさんを好きになっても、ボクとは友達どまりなのかな?
もしボクが好きになったら、リテアさんはボクを受け入れてくれるのかな?
リテアさんを好きになるっていう事はそういうことだ。
女性同士で好きになるっていう事になっちゃうんだ。
そっか……難しいんだね。
そうか……ボクは女の子。
もしボクが大事な恋人が欲しいと望むとしたら?
ボクはその相手を……男性と女性、どっちの相手を選ぶんだろう?
リテアさんみたいな女性?
カルナインさんみたいな男性?
それとも姉ちゃん?
今のボクは……男性でもあって女性でもあるのと同時に、男性でもなくて女性でもないんだ。
心がふわついている。
どっちにもなれそうで、どっちにもなれていない。
ボクはどうしたいんだろう?
「ねえ、萌生ちゃん。笑わないで聞いてくれる? 私の根源……」
リテアさんはボクの頬に手を当てて、ボクの瞳を覗き込む。
「私の根源……『百合属性』なの」
リテアさんはボクの顔を引き寄せ、そしてボクの唇を奪った。
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