第34話 どお? 硬くて丈夫で……とっても凄いでしょ?

 私の名前はリオ。

 伝説の鍛冶屋を目指すNPCです。


 今日は朝から大忙しで、何やら新しい街が出来て採掘場と伐採場の下見をして欲しいというお願いされました。

 鍛冶屋を目指している私ですので、採掘場はとても興味があります。

 実はたくさん鉱石が手に入るならやってみたいことがあるのです。


「お待たせ、リオさん」


 私達の護衛をしてくれる萌生さん達がやってきました。

 美乃梨さんとエレットさんのパーティーは西側へ探索に向かい、萌生さんのパーティーは私達と一緒になりました。

 こちら側は安全だと聞いていますが、念のため萌生さん達が来てくれました。

 感謝です。


 それにしても、美乃梨さんと萌生さんは仲の良い姉妹なんですね。

 少し過保護に見えなくもないですが……。

 妹の萌生さんを危ない場所にいかせられないということで、私達と同行することになったんです。

 まるでマスコットですね。

 周囲の反応を見ても、そんな感じが伝わります。

 可愛らしい小さな女の子ですからね。可愛がられているのでしょう。

 しかし、美乃梨さん達が今日行く場所はそれほど危険な場所なのでしょうか。

 無事皆さん戻ってきてくれると嬉しいのですけど。


「ボクの顔じっと見つめて、どうかしたの?」


 萌生さんがあまりに可愛らしくてじっと見つめてしまっていました。

 頭を撫でたら機嫌悪くしてしまうでしょうか。

 私も小さいですけど、萌生さんはもっと小さいのです。

 

 うふふ。お姉さんが可愛がってあげますよ~。


 思い切って萌生さんの頭を撫でてみました。

 最初は驚いた様子でしたけど、今は子犬のようにじっと私を見上げてきています。

 可愛いですね。


「さて、我々も行くとしましょう」


 いつの間にか私の後ろに回ってきていた坂城さんが、私の頭を撫でてきました。

 また私の事を子供扱いしてますね……。

 

 坂城さんに頭を撫でられながら、私は萌生さんの頭を撫でるといった変な状態になってしまいました。

 こうなったら萌生さんが坂城さんの頭を撫でてくれると楽しいのですけど。


 先日頂いたラマさんに乗って採掘場へと向かうことになりました。

 ラマさんは重い私のリュックがあっても楽々と移動できるのがすごい所です。

 でもラマさんの速度は人間とほぼ同じなんですよ。

 人間より体力があるので、常時走ることができるので採掘場なら10分程度で着いちゃいました。

 昨日はみなさん徒歩で1時間もかけて歩いたそうです。

 魔物とも遭遇しないで楽に採掘場にたどり着くことが出来ました。


「では中を見させてもらいますね」


 中は薄暗く、ひんやりとした空気が充満していました。

 中に入るとランタンが自動的に灯り、移動には困らない明るさで中を照らしてくれました。

 しばらく進むと、側面の岩肌に赤茶色をした鉱石が埋まっているのを発見しました。


「ありました。赤く錆びたような岩がありますよね? これが赤鉄鋼と呼ばれるものです。今日はこれを採掘したいと思ってます」


 赤鉄鋼は、鉄に酸素が含まれて錆びたような色をしている鉄鉱石です。

 失われた世界では一般的な鉄鉱石だったそうで、この世界でも同じく一般的な鉄鉱石なようです。


 私はつるはしを取り出し、赤鉄鉱石を採掘しました。

 その後いくつも赤鉄鋼を見つけては採掘し、かなりの数の鉄鉱石を手に入れることが出来ました。

 赤鉄鋼以外には、石炭、銀鉱石、バナジウム鉱石、銅鉱石が見つかりました。

 奥に行けばまだあるかもしれませんが、相当な量を採掘できたので今回はこの辺で切り上げることにしました。


 次に向かったのは伐採場です。

 目的は朴の木ほおのきです。

 よく日本刀の柄に使用されている柔軟性に富んだ木材です。

 衝撃を吸収して割れにくいのが特徴です。

 

 まず見つけたのが本赤樫です。

 とても硬くて木剣やこん棒に使える高級木材です。

 しばらくすると鉄刀木タガヤサンと呼ばれる希少木材も手に入れることが出来ました。

 タガヤサンは黒檀、紫檀と共に唐木三木と呼ばれる有名な木材です。

 こちらも素ばらしい木材です。

 そして、紫檀も見つけることが出来ました。

 水中でも100年の耐久力があると言われている木材で、水中用の武器のパーツにも使えそうです。

 そして朴の木や桐、檜、杉なども入手し、私達は伐採場を後にしました。


 無事素材を入手し終えた私達はエレットタウンに戻って解散となりました。

 私はさっそくモエノースに作った私の作業場に戻って制作に取り掛かろうとしました。

 すると萌生さんが私に声を掛けて引き留めました。


「リオさん、よかったら武器を作る所を見せてくれませんか?」


 鍛冶に興味があるのでしょうか。

 同じ女性なのに鍛冶に興味があるなんて珍しいですね。

 同志を見つけたような気分でとても嬉しいです。


「はい。ちょうど今から特殊な物を作ろうとしていた所なんですよ。よろしかったら見て行ってくださいね」


 ゲートでモエノースに戻り、私達二人はモエノースの端にぽつんと建った私のログハウスの作業場に着きました。

 杉で作ったログハウスは、高級感はありませんがとても温かみのある木目が美しい空間です。

 木製のテーブルに木製の椅子。レンガ造りの暖炉もあります。

 作業場なので、炉や金床などいくつもの機材が所狭しと配置されています。


「狭いですけどゆっくりしていってください」


 私は炉に木炭をくべ、火をおこしました。

 薄暗かった室内に暖かなオレンジ色の空間が広がりました。


「おじゃまします。うわぁ~とってもいい雰囲気のおうちだね。ボクこういうとこ好きかも」


 萌生さんは無邪気にきょろきょろ見回しています。

 好きと言ってもらえたので、私と萌生さんは趣味があうのかもしれませんね。


「今日は何を作るの? 何か特殊な物を作るって言ってたけど」


 一通り見て回った後、萌生さんは椅子にちょこんと座って私に話しかけてきました。


「私はスキルでは作れない『ダマスカス鋼』を作りたいんです。かつての世界では失われた伝説の技術なんですよ。

知っていましたか? ダマスカス鋼は鉄から出来るんですよ? 錆びなくて強靭なんです。

それに、何といっても出来上がりの模様が最高に素敵なんです。木目に似た繊細で美しい模様がダマスカス鋼の特徴なんです。

今日は特別に伝説のダマスカス鋼の製法をお見せしちゃいます」


 私は今日採掘してきたばかりの赤鉄鋼を取り出して萌生さんに見せました。


「鉄鉱石は酸化鉄といって、純粋な鉄じゃなくて硬くて加工しにくいので最初に純粋な鉄にするんです。なので、鉄鉱石と一緒に石炭や木炭を炉に入れて酸素を奪うのです。

その後、転炉に移して酸素を送ってあげます。そうすると、鉄の中の不純物が取り除かれ、純度の高い鉄が出来上がります。この状態の鉄を『鋼』というんですよ」


 今度は既に出来上がっているインゴットの板を取り出して萌生さんに見せてみました。


「この鋼を延べ棒の板にしたものをインゴットと呼ぶんです」

「へぇ~思ったより薄くて小さいんだね」


 インゴットの板を手に取り眺める萌生さん。


「この後普通に武器を作ることも可能なんですけど、私はここでもこだわりたいのです」


 私はテーブルにインゴットを5枚と粉末の入った瓶をならべました。


「最初に薄いインゴットの板を5枚重ねます。そしてこれがダマスカス鋼の秘密の一つバナジウムの粉末です。

これを振り掛けると被膜として鋼を覆って錆びにくくなるんですよ。そしてその状態でインゴットを熱します」


 私はインゴットを真っ赤に燃え上がる炉に入れ、しばらくインゴットを熱します。

 そして、インゴットが真っ赤になったのを見計らって取り出し、金床に乗せます。


「そうしたらこれをハンマーで叩いて、薄く延ばして……その後半分に折り返します」


 私は長く伸びたインゴットの中間地点にノミで叩いて折り目を付けます。

 そしてそのまま半分に折って重ねます。

 半分にした後、バナジウム粉末を振り掛け、再びインゴットを炉にくべます。

 インゴットが真っ赤に熱せられたのを確認した後、再びインゴットを今度は万力へと運びました。


「こうやってインゴットを万力で固定した後に……えい! こうやって熱したインゴットを捻って螺旋状にするんです」


 捻ったインゴットを再び炉にくべ、真っ赤に熱せられたのちに取り出し、金床で平らにします。


「これを6~8回繰り返して合計320層以上の鋼の層にするんです。やりすぎても駄目なんです。その鋼の持つ最高のバランスを見定めるんです」


 静まり返った暗いログハウスの作業場。

 丸太を積み重ねて出来た壁を炉の炎がオレンジ色に照らし出します。

 炎が揺らめくと、その揺らめきに合わせて私の影も踊りだします。

 ハンマーを握るその影は、振り上げられそして振り下ろされます。


 カーン、カーン、カーン……。


 金属を打ち鳴らす心地よい音が鳴り響きます。

 ハンマーは真っ赤に熱せられたインゴットへと振り下ろされ、ハンマーがインゴットとぶつかり合い、オレンジ色の火花が飛び跳ねます。

 この火花が散るたびに、金属の塊に命が吹き込まれてゆくのです。

 熱せられた空気にあてられ、私の汗も火花と共に飛び散ります。

 額の汗を拭い、大きく息を吸い込みました。


 ふと後ろの見物客を見ると、椅子に座って微睡んでいるのが見えました。


「うふふ、やっぱり女の子じゃこの鍛冶のロマンはなかなかわからないですよね。残念ですけど、仕方ありません」


 私は刀状に叩き終えた一振りのダマスカスブレードを持ち上げてみます。

 オレンジ色の光が反射し、その刀身に浮かぶ綺麗な木目調の模様を照らしださせていました。


「さて、もうひと踏ん張りですね」


 私はリオ。

 鍛冶職人を目指すNPCです。

 いつの日が、私の作り出す武器が伝説の武器と呼ばれるようになるまで、私は頑張るつもりです。


 私は研ぎ終えたダマスカスブレードを指で弾くと、キーンと済んだ響きがしました。

 鏡のように研ぎ澄まされた刃には、満足げに微笑む私の顔が映っていました。


「どお? 硬くて丈夫で……とっても凄いでしょ?」

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