第35話 もっとみんな突っ込んで! あたし我慢できないよ
あたし達のパーティーとエレットのパーティーは駐屯地へと向かっていた。
そしてラマで10分程走った先に駐屯地を見つけた。
周囲はバリケードで覆われ、入口に兵士らしき人影が立っていた。
勝手に入っていいのだろうかと迷っていると、入口の兵士がこちらに敬礼をしたので話しかけることにした。
「ここって駐屯地であってるわよね?」
「はい、こちらはフルムーン北部駐屯地になります。ここより西側にある盗賊団の戦闘に対処する事が我々の任務になります」
「あたしなんか首領権限で色々出来るみたいなんだけど、なんかしていいの?」
「はい。今現在フルムーン首領美乃梨様による作戦指示の受付待機状態となっています。
中に入られると一番大きなテントが見えますので、そちらが作戦本部となっており、そこで作戦指示を行うことが出来ます」
「そうなんだ。ありがと」
駐屯地に入るといくつも六角形型のテントが並び、中央に周囲より一際大きなテントがあった。
テントの中に入ると一人の男性の兵士風なNPCがそこにいた。
「ようこそフルムーン北部駐屯地へ。私がここの隊長を務めていますシーザスと申します」
「はじめまして。あたしは宗野美乃梨。えっと、ここがどういうとこか見に来たんだけど説明してもらってもいいかしら?」
「もちろんです。ここはフルムーン直轄領の北部駐屯地となっていて、ここの西側に拠点を構えている魔物の盗賊団を抑えています。
ここと敵の拠点とはまだ距離があり、ここまで敵が攻めてくることは今の所まだありません。
ここから敵の拠点までは大きく分けて6つの戦闘予定地があり、一つはここの駐屯地、その外にある1本道の小さな林のある平地、見通しの良い荒野、入り組んだ林道、敵拠点のある山脈、盗賊団の拠点の洞窟の5つの地形があります。
攻め入るなら6つの拠点を一つづつ攻略していき、前進していくしかありません。前進するにつれて敵の攻勢は激しくなっていきます。
ポイントは一つづつ拠点を抑える戦闘を行っていくことです」
「ちょっとまって、そんな面倒な事しないで一気に襲撃しちゃえばいいんじゃない? 襲撃も戦法の一つでしょ」
「いえ、軍隊を指揮するという事はそういうことです。少人数での戦闘とは違います。大人数の兵士を揃えなければ勝てない規模の戦闘ですので、どうしても侵攻地点の占拠が必要となります」
「そんなに敵の数多いの? どれくらいいるの?」
「正確にはわかりませんが、全部で1000匹はいるでしょう」
「は!? そんなに!? 外にいる兵士合わせても30人くらいしかここいないじゃない! どうやって敵の進行を防いでるの?」
「今の所は敵の進行はありません。攻め込まない限りは敵も攻め込んではこないでしょう。
それに、攻め込むには人材が必要で、人材を集めるにはコストが必要です。人材を要所に配置すれば当然コストがかかりますし、敵の侵攻で味方兵士数も減ってゆきます。
各拠点を1つでも抑えることが出来れば、時間経過とともにコストが増えてゆきます。そのコストを使用して再び兵士を雇用して再配置することが可能です」
「なるほど……そういうご都合主義なとこはゲームなのね……」
あたしが説明を受けて考え込んでいると、エレットが近寄ってきた。
「美乃梨、ちょっといいかしら?」
「どうしたのエレット?」
「恐らくこの戦闘はプレイヤー参加型のタワーディフェンス形式の大規模戦闘じゃないかしら。
難易度もそれなりにあると思われるから、参加するにしてもある程度のレベルと人材が必要になると予想されますの。
今は参加はされないことを提案いたしますわ」
「うん……そうね。あたしもそう思うわ。エンドコンテンツ扱いの可能性もあるし」
その時テントの入口へと駆け込んできた兵士が大きな声で叫んだ。
「大変だー。 敵の襲撃だー。やつらがきたぞー」
その声は緊張感のない棒読みのような声だった。
あたしとエレットは驚いた顔で兵士を振り返る。
「やられた!? 話しかけたらフラグ立ったんだ!」
そんなあたし達に笑顔のシーザスが話しかける。
「緊急事態です。ささ、戦闘指揮をお願いします。チュートリアルを開始します」
「は? 敵襲なのになんで笑顔なのよ! しかも指揮をお願いしますって言った後にチュートリアル開始しますっておかしいわよね!?
あたしが指揮するの? それとも教えてくれるの? どっちなのよ!」
そんなあたし達を無視してシーザスは外へと出て行った。
ニナがあたしに駆け寄って来て耳打ちする。
「俺タワーディフェンスなら得意だからアドバイスできるかもしれないぞ」
「それは助かるけど……エレットも言ってたけどタワーディフェンスって何?」
「タワーディフェンスっていうのは、ストラテジーゲームっていうジャンルの一つで、マップに味方兵士を配置して、敵を迎え撃って防衛するいわゆる防衛ゲームさ。
ここではどうかわからないけど、敵を倒したり、時間経過でコストが増えるんだ。そのコストを使って兵士を雇ったり、兵士を強化したり、あるいは防衛施設を建てたり強化したりするんだ。
ここだと何が出来るのか説明はなかったからわからないが……チュートリアルっていうんだから、まず負けない設定にはしてあると思うから、安心していいと思うよ」
「そうだといいんだけど……」
とにかくシーザスを追いかけてあたし達も外へと向かっていった。
表に出るとシーザスの横に既に兵士たちが並んでいた。
剣を持つ者、弓を持つ者、杖を持った魔術師らしき人物、神官のような人物、大きな盾を持った全身鎧の兵士の5人がいた。
「あーこりゃわかりやすいな。美乃梨、大丈夫そうだ。これみただけでわかる。まあ説明聞こうぜ」
ニナはあたしの肩をぽんと叩いてシーザスのそばに寄っていった。
「あたしは全然わかんないわよ!」
あたしがシーザスのそばまでいくと、シーザスは説明を始めた。
「このゲームにはコストという物があります。コストは非常に重要で、兵士を配置したり戦略施設を設置するのに使用します」
「今あんたゲームって言ったわよね! ちょっと!」
あたしのつっこみを無視してシーザスは説明を続ける。
「敵を倒したり、時間経過によってコストは次第に増えていきます。ではさっそくやってみましょう。まずは兵士を配置してください」
「無視かよ……えっと……配置ってどうやんの? どうすればいいニナ?」
「んー……マップとかないよな……配置可能場所とかあんのかな? てかこいつの説明足りな過ぎじゃね? 俺もわかんねーわ」
そんなあたしとニナの会話を聞いていたシーザスがぽんと手を叩く。
「あーそっか。えっと、まず最初に指で兵士を指して兵士を選択します。そのとき「兵士選択」と言ってください。その後配置したい場所を指さし「兵士配置」と言ってください」
「あーそっかって言った! こいつ大丈夫なの!?」
仕方なくあたしは剣を持った兵士を指さし「兵士選択」と言って、次にあたしの横を指さして「兵士配置」と命令してみた。
「剣を持った兵士はしかめっつらをしてあたしの横に走ってくる」
どうやら不服なようだ。
「ぶふっ」とシーザスが吹き出した。
「まずは兵士を門に配置しましょう。そんな所に配置しても無意味ですので。それにその兵士より防御力のある盾役を前衛に配置すべきです。最初にシールダーを門に配置してください」
むかつく! こいつ説明不足を棚に上げて吹き出しやがった。
「なら最初に言ってよ! もう!」
シールダー? 盾持った奴のこと?
あたしは全身鎧を着た盾持ち兵士を門へと配置させる。
「兵士選択! 兵士配置!」
するとシールダーは頷いて門へと走っていった。
「よくできました! さすが我らが領主様です!」
ぱちぱちと手を叩いて大げさに褒めるしぐさをするシーザス。
すると周囲の兵士全員が拍手をしはじめる。
「さすが我らが領主様!」
「さすが領主様!」
「さす!」
馬鹿にされている気分だ。
さすってなによ。略しすぎでしょ!
あたしの後ろからも拍手が聞こえて振り向くと、ニナとアリサも笑顔で拍手していた。
こいつらもか!
「では次に盾役のそばに遠距離火力職を配置してください」
遠距離火力職? 弓持った人と魔法使いのことかな?
「んじゃそこの弓の人を……兵士選択、あのシールダーの後ろにいって。兵士配置」
あたしはシールダーの少し手前側を指さした。
すると、弓持ちは大げさに溜息を吐く。おまけに首まで振って「やれやれ」といったしぐさまでしてみせた。
「なんなのよもう! 嫌ならシーザスが指揮すればいいじゃない!」
荒れるあたしにシーザスは説明をする。
「アーチャーや魔法使いを配置する場合、射線を考慮しなければなりません。敵は向こう側から来ます。シールダーの真後ろに配置しては射線が通りません。
高い場所や真横などに配置する必要があります。なので、最初に
「ならそう言ってよ! もう! で櫓はどうやって建てるの? ぜんっぜんわかんないんだけど?」
「今度は戦略施設の設置方法を説明します。指で差した場所に『櫓設置』といえば櫓が建ちます。櫓以外にもバリケード、スパイク、木の壁、石の壁、投石器等あります」
そんな口で言われてもわからない。
「施設の一覧みたいなのないの?」
あたしはシーザスに文句を言う。
すると、シーザスは羊皮紙を取り出してあたしに手渡してきた。
「こちらに建設可能施設の一覧と必要コストが記載されています」
「はじめによこしなさいよ!」
あたしは文句をいって羊皮紙をひったくった。
「くすくす。美乃梨可愛い」
アリサがあたしを見て笑っていた。
その笑い方はいかにも女性らしく可愛らしかったのがむかついた。
「あんたの方が可愛いわよ!」
アリサに捨て台詞を吐いて羊皮紙を開いて睨み付ける。
「敵と味方の第一接触ポイントは重点的にやったほうがいいぞ。この中だとそうだな……コストの安いバリケードとかで通路を狭めて敵の侵攻を制御するのが手だな。
そうしないと広範囲から敵が襲ってくるから、配置した兵士だけじゃ防ぎきれなくなるだろうし」
ニナがあたしの横から羊皮紙を覗き込んできた。
「なるほどね。んじゃ櫓とバリケードを設置すればいい?」
「コストがいくらあんのかわかんねーからな。なあシーザスさん、コストってどこでわかるんだ?」
「『コスト表示』と言えば視界に表示されるようになります」
「だとよ」
言われた通りあたしは「コスト表示」をしてみると、視界の左上に「コスト 200」と表示されていた。
羊皮紙を見ると、櫓のコストは1つ50でバリケードは1つ5だった。
ちなみに兵士のコストは剣士が10、アーチャー20、魔法使い30、シールダー30、神官30だった。
「ここにいる5人はコストどうなってるの?」
「すでにこの5人はコストが引かれています。お好きに配置してください」
ならまだコストは結構余裕がありそうだ。
あたしは門へと駆けて行き、シールダーへと進行誘導できるようにバリケードを配置していく。
「バリケード設置、バリケード設置、バリケード設置……」
そして門の横に櫓を挟み込むように2か所設置した。
ニナのアドバイスに沿って、櫓にはそれぞれアーチャーと魔法使いを配置し、シールダーの後ろに神官と剣士を配置した。
「配置完了したわよ。どうすればいい?」
全て完了したあたしはシーザスに問いかける。
「では『ウェイブスタート』とおっしゃってください。そうすると敵が攻めてきます」
「さっき敵が攻めてきたって言ってたわよね!? さっきのはなんだったの!?」
もう突っ込みどころ満載だわ。
そんなあたしを見てみんな後ろで笑っている。
「笑ってないでもっとみんな突っ込んで! あたし我慢できないよ」
深呼吸して自分を抑え込む。
「あ、そうそう。あたし達も戦闘に参加してもいいの?」
「もちろんです。お好きなようにしてください」
あたしは全員を集め、メンバーを配置する。
門にあたしをはじめ前衛が並び、火力部隊は横に分割して配置し、神官を後衛に配置した。
「んじゃいくわよ! ウェイブスタート!」
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