第23話 ボクを後ろからついていかせて欲しい。お願いだよ、カルナインさん!

 依頼と素材集めと経験値稼ぎと姉ちゃんからの誘惑、同じような繰り返しの日々を数日過ごしたある日、中央広場で誰かが声を荒げて演説をしているのを見かけた。

 ボク達は何だろうと人混みに近づくと、その活気は怒号の類の活気だと気が付いた。


「我々NPCは人間どもの為に存在するのではない! 我々は我々の為に人生を歩むべきだ! 人間を追い出し、我らだけの街を作り上げよう!」


 声をあげていたのは、以前冒険者ギルドでボク達に嫌味を言っていた男だった。


「おおー! 我々の街を作ろう!」


 そしてボクを驚かせたのは、その男の言葉に賛同するNPCの多さだった。


「姉ちゃん……これって……」


 姉ちゃんはボクの手を掴み、自分の方へと引き寄せた。


「萌生、姉ちゃんから離れないで。今はぐれたら危険よ。何されるかわかんないから」


 姉ちゃんとボクはすぐにその場から離れ、宿屋と隣接している食堂へと駆けこんだ。


「今他のメンバーも召集したから、ここでみんなを待ってましょう。ここなら宿を使う人間が多いから、NPCもこないでしょうし」


 姉ちゃんの緊急招集ということで、全員がすぐに駆けつけてくれた。

 集まったメンバーの顔を見ると、誰もが難しい顔をしているのがわかる。恐らくは現状を理解しているのだろう。


「急に呼び出してごめんなさい。ちょっと緊急事態が起きたから、みんなに来てもらったの」


 姉ちゃんが皆の前で話始めた。


「さっき広場でNPC達が人間を追いだして、NPCの街を作ろうって演説してるのを見かけたわ。しかも賛同者がかなり多かったわ。多分、100人以上は余裕でいたわね」


 坂城さんが手をあげて、普段は見せないような険しい顔をして話し出した。


「彼らは今日動き始めたわけではありません。以前より規模は小さいですが、同様に賛同者を集めていました。既にNPCの生産者の何人かは、彼ら専属の取引契約を結んでいます。

つまり、人間には物を売らないと決めたNPC生産者が出始めているという事です。

美乃梨さん、まずは我らがメンバーの中にいるNPCの方達の意見を聞いてみてはいかがですか?」


 確かにそうだ。ボク達のメンバーにも二人NPCがいるんだ。

 この中では一番こういった会議みたいなものに詳しそうなのは坂城さんだもの。

 彼の言う通りにするのがいいと思う。

 

「姉ちゃん、坂城さんの言うとおりだよ。まずは二人に聞いてみようよ」

「そうね。正直、危機意識だけでみんなを集めたけど、どうすべきかとかまるで考えがないのよね。

カルナインとリオ、二人の意見を聞かせてもらえないかしら?」


 ずっと腕を組み、目を瞑ったままだったカルナインさんがすっと目を開け頷いた。


「NPCはNPCの為に生きたいという気持ちは俺にもわかる。我らとて自我があり心がある」


 そうなんだ。ここではNPCも生きている。

 カルナインさんだってそうなんだ。自分の好きに生きたいと思うのは当然だろう。


 カルナインさんともお別れしなくちゃいけなくなるの?

 そんなの嫌だ……せっかく仲良くなれたのに。

 ボクにとっては、姉ちゃん以外で出来た初めての仲間なんだよ。

 ボクを後ろからついていかせて欲しい。お願いだよ、カルナインさん!


 ボクは下を俯いてしまった。


「俺は俺の好きに生きる。それが俺の答えだ」


 カルナインさん……人間対NPCの争いはやっぱり避けられないの?


「だから俺はお前達と共に歩む。俺がそうしたいからだ」

「カルナインさん……」


 カルナインさんの言葉は、ボクの心を強く揺さぶった。

 カルナインさんは涙目のボクに笑顔を向けてくれた。


 嬉しい。本当に素敵な人だよ……カルナインさん。

 ボクも……あなたと一緒にこれからも歩いて行きたい。


 パチパチパチと、坂城さんが手を叩いた。


「真の漢の言葉を聞かせていただきました。わたくしもカルナインさんへ全幅の信頼を送らせていただきます。

さて、お次はリオさんの番となるわけですが……」


 坂城さんは縮こまるリオさんに顔を向けて一呼吸置いた。


「リオさんの前に私から一つよろしいでしょうか。まず、みなさんに知っておいていただきたい事があります。

それは、商人の生きる術についてです」


 何故リオさんにしゃべらせないで坂城さんが話し始めたのだろう。

 ボクにはよくわからない。

 でも、リオさんの表情はとても険しい表情をしている。

 カルナインさんみたいに、ボクらと一緒に行ってはくれないのだろうか。


「商人という職業は、かならずお客様が必要になります。特に商売で成功するためには、大口のお得意様の確保が必要です。

今現在、この街のNPC生産者は全員、例のNPC至上主義者から声が掛けられています。

これは、商売としては絶好のチャンスとなり、NPC至上主義者が固定の商人からしか購入しないといういわゆる独占販売が可能なのです」


 坂城さんは、そこで一呼吸置き、テーブルに置いてあったワイングラスを一口含む。


「肝心なのはその話を蹴った場合です。NPC至上主義者は話を蹴った商人からは一切物を購入しなくなります。

そして、我々の取り扱う商品は冒険者向けのアイテムです。

しかし……少しづつ増加してきているとはいえ、冒険者の数は圧倒的にNPCが多いのです。

ここまで話せば、もうお分かりになりますね?

リオさんは、このままでは生きていくことが出来なくなる状況に追い込まれるのです」


 その話を聞いた姉ちゃんが顔をあげ、リオさんを見つめた。


「だから、前にその話をしてきてたのね……ごめん。あたしもっとしっかり考えておくべきだったわ」


 坂城さんが立ち上がり、リオさんの席の後ろまで歩いて行き、リオさんの肩に両手を置いた。


「美乃梨さん、リオさんが自身の決断を話す番は今ではありません。先に美乃梨さん、貴女が先に決断をすべき番なのです」

「あたしが……決断? 何を決断しろっていうの?」

「このままでは、この街の勢力図はNPC対人間といった勢力図に2分されてしまうでしょう。そうなれば、この街で人間が生きてゆくのは厳しくなります。

ですので、その勢力図を変えるのです。さあ、どうぞこちらを」


 坂城さんは1枚の羊皮紙を姉ちゃんに差し出してきた。


「これは……?」


 姉ちゃんは羊皮紙を開き、書かれている文章を読みあげる。


「領地申請書? 前に言ってたやつね。何で今この話をするの?」


 坂城さんは右手を胸に当て、左手を後ろに回し、腰をまっすぐ伸ばして90度のお辞儀をする。


「領主美乃梨様、貴女には第三の勢力、人間とNPC混成国家の当主となっていただきます」

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