第17話 ボクの履いているパンツいりますか?
ボク達は宿屋に併設されている食堂兼酒場で祝賀会を開いていた。
いつものメンバーであるボク、姉ちゃん、カルナインに加えてエレットさんが来てくれていた。
更に、レース中に姉ちゃんが知り合ったというアリサさんとニナさんも加わっていた。
そして、何故かマイクさんもこの場に加わっていた。
大きなテーブルに全員が座っていて、上座にボクと姉ちゃんが座っている。
「それじゃ、乾杯しましょ!」
姉ちゃんがジュースを片手に乾杯の合図をとる。
「かんぱーい!」
それぞれがグラスをコツンとぶつけ合い、一気に飲み物を飲み干してゆく。
「萌生優勝おめでとう!」
姉ちゃんとグラスをぶつけ合い、お互いの健闘を称えあう。
「ありがとう姉ちゃん! 姉ちゃんも準優勝おめでとう! ボク鼻が高いよ!」
「うふふ。ありがとう。でもまさか萌生が優勝しちゃうなんてね」
「うん。エレットさんのケツァルに乗せてもらったり、すごいスピードのマンタさんに乗せてもらったから、スタミナ温存できたんだよ」
「そういえばエレットさんとは一度冒険者ギルドですれ違っていたわね。初めての人も多いでしょうし、みんな自己紹介でもしましょっか」
そういうと姉ちゃんは立ち上がり、自分の自己紹介からしはじめた。
「はーい。みなさん注目! 初めての人も多いでしょうから、ここらで自己紹介しましょ。まずはあたしから」
姉ちゃんは「コホン」と咳払いをして、全員を見渡す。
「あたしは宗乃美乃梨。人間よ。職業は戦士を選んだわ。将来的には盾役としてパーティーの壁役をやろうと思ってるの。
それと、ここにいる萌生の姉でもあるわ。いくら可愛いからって手を出さないようにね。この子はあたしの物だから!
それから……せっかくこうやって知り合えたんだから、一度パーティーでも組んで一緒に依頼を受けてみない? どうかしら」
周囲の人の反応を伺う姉ちゃん。
頷く人もいれば笑顔を返す人もいる。概ね好評なようだ。
「はい、次萌生ね」
姉ちゃんに言われて次はボクの自己紹介をした。
「ボ、ボクは宗乃萌生といいます。ボク……運よくレースで優勝できちゃいましたけど、実力だとは思ってません。
でも……ボクなんかでも、もしかしたら何か出来るのかもしれないって思いました。いつも姉ちゃんに頼ってばかりだったけど、ボクも何か自分で出来るんじゃないかなって。
今はまだわからないですけど、そんな気がしたんです。あ……何言ってるんだろ……ボク。ごめんなさい、えと……みなさんよろしくお願いします!」
みんなが拍手してくれた。
優しい笑顔で、温かい拍手だったのがボクは嬉しかった。
「萌生ちゃーん! ひゅー!」
マイクが声をあげると、姉ちゃんがギロリと睨み付け、マイクはそっぽを向いて口笛を吹いておどけて見せる。
マイクのあんな言葉をかけられただけでボクはびくっとしてしまい、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「はい、次カルナイン」
次はボクの隣にいたカルナインだ。
お酒のグラスを片手にゆっくりと立ち上がるカルナイン。
「うむ。では……俺はドゥル・カルナイン。漢気と英雄と王の根源を持つ真の漢を目指す者だ。今は美乃梨と萌生と一緒にパーティーを組んでいる。
か弱き姉妹を導き、そして守り抜くことこそ我が使命だと今は思っている。
まだ駆け出しではあるが、この先我らの活躍を刮目して見て欲しい。我らが目指すはまだ見ぬ栄光。立ちはだかる壁は全て俺が壊して見せよう!」
そういうと、カルナインはグラスを天へと掲げる。
「我らに栄光あれ!」
そういうと酒をを一気に飲み干した。
「かっこいー!」
ゆっくりと席に座るカルナインに向かって「パチパチパチ」とボクは拍手を送る。
ボクは漢らしいカルナインさんに見とれていた。
ボクも元男だから、こういった男らしい人には憧れてしまうんだ。
さすがカルナインさんだ。
姉ちゃんは少しムスっとした顔をして、次の人へと進める。
「はい次、おっぱいアーチャー」
次はニナさんだ。
「おっぱ……おほん。えー私はニナ。美乃梨さんとは色々あってレース中に知り合ったの。
協力を持ち掛けられた時には焦ったけど、見事私達3人とも入賞できたのは幸運だったと思ってるわ。
今はアリサと一緒にパーティーを組んでるんだけど、まだ冒険には出たことはないんで、よかったら私達も冒険に連れてって欲しいな。
そんな感じで……よろしくね!」
ニナさんが着席すると、大きな胸が大きく弾んで揺れていた。
マイクが立ち上がってニナに拍手をしだした。
「ニナさん! 素晴らしい! いやー素晴らしい! なんと素晴らしい!」
マイクはニナさんの胸を嫌らしい目で見つめながらいつまでも拍手をしていた。
姉ちゃんがジロリとマイクを睨む。
ニナさんはというと、まんざらでもない様子で顔を真っ赤にして照れながら笑っている。
「はい次、アリサさん」
ピンクの髪のアリサさんが立ち上がり、礼儀正しくお辞儀をして挨拶をしはじめた。
「みなさん、はじめまして。アリサといいます。職業は神官を選んでいます。まだ戦闘とかは経験ありませんけど、ヒーラーとして頑張っていきたいと思ってます。
ニナ……さんとは以前からの友達で、よく一緒にいます。私も冒険に連れてってもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします」
アリサさんが着席すると、マイクは何度も頷きながら拍手を送っていた。
「次は、エレットさん」
おとなしくお酒を飲んでいたエレットさんが立ち上がって挨拶をしはじめた。
「皆様はじめまして。わたくしはエレットと申します。職業は現在魔法使いを取得中ですわ。将来的には賢者、あるいは魔法剣士あたりを目指そうかと思っていますの。
わたくしは既にパーティーを率いてまして、皆様のパーティーに属することはできませんが……大人数での依頼やレイドなどでご一緒できればと思っていますわ。
それからわたくしどうしても言いたいことがありますの。萌生ちゃん、あなたにですわ!
せっかく渡した下着をどうしてまた脱いだんですの? 本当に露出狂の性癖でもあるのかしら? しっかり弁明してくださいます?」
そういうとエレットさんはボクをじっと見つめ、ボクが答えないといけない状況になってしまった。
できればその話はしてほしくなかった。大観衆の前でボクの痴態を晒されてしまい、早く忘れてしまいたい黒歴史なのだから。
しぶしぶボクは立ち上がって、エレットさんに答えた。
「うぅ……あの……あの時は、本当にありがとうございました。ボク……海で大きな触手の生物に襲われて……その時脱げちゃったんだと……思います。本当にごめんなさい」
ボクはエレットさんにペコリと頭を下げて謝罪する。
「そ、そう……そうだったのね。そんな危険があったなんて。萌生ちゃんが無事で良かったわ。今後もし何か困ったことが合ったら、わたくしに相談なさい。出来ることなら協力いたしますわ」
優しい笑顔をボクに向けて、そのままエレットさんは着席した。
姉ちゃん以外の女性にそんな言葉をかけてくれる人なんていなかったから、ボクはすっかりエレットさんに惹かれてしまっていた。
「あ、ありがとうございます! ボ、ボクもエレットさんのお役に立てるように頑張ります。あ、そうだ。ボクの履いているパンツいりますか? 無くしちゃったので、これしかないんですけど……」
「え!? い、いえ。わたくしそんな趣味はありませんのよ!? ぬ、脱がないでいいですわ! おやめなさい!」
自分の履いていた下着をボクにくれたのはエレットさんだもの。きっと女性同士なら普通のことなんだと思ったから、ボクもお返ししようと思ったんだけどな。
エレットさんは返さなくていいと言ってくれた。きっと物欲がない人なんだろうね。
一緒のパーティーに加わってくれないのはとっても残念だけど、何かあったら声をかけてみよう。
恐らく、あの10人位いる追っかけの男性達がエレットさんのパーティーなのかもしれない。
実は今も、テーブルは違うけど隣の席にその人達が座っていて、全員がエレットさんを熱いまなざしで見つめている。
「はい、全員終わったところでそろそろお開きにしましょう」
姉ちゃんが締めの挨拶をはじめようとしていた。
「ちょっとまった!! 誰か肝心な人物を忘れちゃいないですかい!?」
マイクが慌てて立ち上がって叫びだした。
誰か忘れていたかな?
ボクはきょろきょろ見渡してみて、一人忘れていたことを思い出す。
「姉ちゃん! 一人忘れてたよ、大事な人!」
「さすが萌生ちゃん!」とマイクは泣きまねをしている。
「坂城さんのことすっかり忘れてた! ほら、露店のアドバイスくれた人!」
「あー……そういえばいたわね。すっかり忘れてたわ」
姉ちゃんも忘れていたようだ。あはは、おっちょこちょいだなぁ。
「まあ、今回は誘い忘れちゃったから、次回は誘いましょうか」
「そうだね」
ボク達はお互いにフェローIDを交換するために席を立った。
まずはエレットさんとIDを交換しようっと。
「えー俺様の名はマイク! 何を隠そう『勇気』の根源を持つ勇者の卵だ! 先のレースでは、カルナインの旦那と死闘を演じ……」
無事エレットさんとフェローIDを交換し終え、ボクのほっぺをつんつんつつくエレットさん。
ニナさんとアリサさんは、姉ちゃんの紹介でカルナインと話をしている。
「見事5位入賞を果たすことができたのだ! えー……聞いてます?」
マイクはボクへと近づいて何かを言っているようだ。
「萌生ちゃん、俺とフェローID交換しようね~」
しかし、姉ちゃんに腕を引っ張られてニナさん達の前に連れてこられた。
「萌生、ほらあんたもこっち来なさい。新たにメンバーに加わるから、挨拶しといて」
マイクはカルナインへと近づき、1枚の写真をこっそり手渡す。
「旦那、俺も輪に入れてくれよ……ほら、これで……な? 例の萌生ちゃんの丸見え写真だ」
「うぐっ……!? そ、そんなものでこの俺を買収する気か!?」
「滅相もないぜ、旦那。買収だなんて人聞きが悪い。これは俺と旦那の男と男の約束ってやつさ……ほら、1枚渡すって言ってただろ?」
「う、うむ。男と男の約束といわれてしまったならば、これは受け取るしかあるまいな。う、うむ。で、なんだ? 輪に入れろと? よし、では俺にまかせろ!」
カルナインはマイクからもらった写真を胸元に隠し、美乃梨へと近寄っていく。
「あー美乃梨。マイクがだな、少し話があるそうだ。聞いてやってはくれんか?」
「却下」
カルナインは目を丸くして美乃梨を見つめ、そして大きく見開いたその目のままマイクへと顔を向ける。
「す、すまん……」
手を合わせて謝罪のポーズをとる。
「し、しかし、これは返さんからな!」
「旦那~……」
こうしてボク達のパーティーに、新たに仲間が加わった。
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