第19話 まいにちごっくん! もうこれがないと生きていけないよ!
「見つけたわ! タゲ取るまで攻撃しないようにね! 『挑発』」
姉ちゃんは新たに見つけた狼3匹のターゲットを自分に引き付けた。
狼が姉ちゃんに向きを変えた瞬間、ニナさんの弓が狼の頭を打ち抜く。
続いてカルナインさんが大上段からの一撃で別の狼を屠る。
残った1匹の攻撃を、姉ちゃんは盾ではじき返した。
盾の一撃を受けてよろめく狼に、カルナインさんがとどめの一撃を与える。
ボク達は既に100匹以上の狼やクロウラーと戦闘を経験し、今では戦闘の基本的な形が出来上がってきていた。
初戦以降、姉ちゃんの動きが劇的に変わったのが大きい。
誰よりも真っ先に敵へと突撃し、たった一人で敵の攻撃を受け切っていた。
転生する前なんか、戦闘経験がないはずなのに、一体何でそんなことができるようになったのかボクにはわからなかった。
ただわかるのは、姉ちゃんの表情から伝わるただならぬ覚悟。
「萌生はあたしが守る」と自分に言い聞かせながら戦っている姉ちゃん。
昔からボクを守ろうとしてくれる姉ちゃんを見てきていた。
学校を辞めて働きだしたりしたこともあった。思い込んだら自分の事を考えずに突っ走るのが姉ちゃんだ。
きっとそういう覚悟が後押しして、姉ちゃんを成長させているんじゃないかなとボクは思う。
ボクも姉ちゃんの為に頑張らないと!
「姉ちゃんお疲れ様、『ヒール』!」
ほとんど減っていない姉ちゃんのヒットポイントバーが回復する。
まるで意味がないようだけど、経験値が貯まるのとなにより「お疲れヒール」をして欲しいといった姉ちゃんの要望を受け入れたからだ。
精神的な回復効果があると姉ちゃんは言っていたので、それならやるしかないよね。
「はい、カルナインさんもお疲れ様、『ヒール』!」
姉ちゃんにお疲れヒールをしているのを見て、カルナインさんもやって欲しいと言い出してきたのだ。
なんでも精神的なバフがかかるから、と言っていた。
ボクは精神ゲージなんてあるのは知らなかったけど、姉ちゃんもカルナインさんもそういうならきっとあるのだろう。
「ニナ、あなたには私からね。『ヒール』」
ニナさんへの「お疲れヒール」はアリサさんの担当だ。
二人で見詰め合うニナさんとアリサさん。とっても仲良しみたいだ。
今日狩を行ったのは、街を出てすぐ近くにある林の中だった。
視界は悪かったけど、少し進むごとに開けた場所がいくつもあって、そこに引き付けて戦闘を行っていたのだ。
いわゆる『釣り』といった、敵をひっぱってきて狩拠点にいるボクらの元まで連れてくるやり方を行っていた。
体力と機敏の2極振りにしている姉ちゃんにはぴったりの戦法のようだ。
走る速度が誰よりも早いからだ。
なんでも姉ちゃんがやってたMMOでの狩の仕方らしい。
「レベルもそれなりにあがったし、素材もだいぶたまったわね。今日はこの辺で戻りましょうか」
ボク達は狩を終え、冒険者ギルドへの報告を済ませた後、素材を渡すために坂城さんとリオさんの二人と合流した。
ニナさんとアリサさんは、坂城さんとリオさんとはこれで初顔見せになる。
軽く自己紹介をして、露店について説明していた。
「ふむふむ……ここまで短期間でメンバーが増えたのはさすがですね、美乃梨さん。これは……領地について検討を始めても良いかもしれませんね」
坂城さんは集まったメンバーを見渡し、領地についての説明を姉ちゃんにしはじめた。
「美乃梨さん、実はこの世界には領地という仕様があるらしいのです。領地といっても、この月欠けの街フルムーンの外になってしまいますけどね」
ボクに抱きついてじゃれていた姉ちゃんは、坂城さんの言葉を聞いてボクから離れて坂城さんへと向きなおす。
「へえ~領地なんてあるんだ。あたし達の領地が持てるって事? 面白そうね」
「はい。場所は早い者勝ちで、あらかじめ決まった地域の枠がありまして、そこを占領した人が領地とできるそうです。ただし領地を持つと、他の領主と戦闘になる可能性も発生します。
もちろん、隣接した領主と同盟を組めばそういった危険性は低く抑えられますが」
姉ちゃんは右手の人差し指を頬にあてて思案する。
カルナインさんも腕を組んで「ふむ」と頷きながら坂城さんの話を聞いていた。
領地かぁ……よくわからないけど、姉ちゃんがやりたいならボクは賛成かな。
難しそうだし、ボクにはよくわからないや。
「領地内では、一般市民やNPCが商売を行うことができ、その売り上げの規定割合を税収として徴収できるそうです。
更には、領地を守る護衛NPCを雇用することができるようになり、そのNPCを運用して攻防にあてるとのことです」
坂城さんの言葉を真剣に聞く一同。
「まだこの世界に来たばかりだというのに、次々と色々な事を考えなきゃいけないなんて、正直わけがわからないわね。
でも、あたし達は誰かのやった後をまねるのではなく、自分たちでレールを敷いて行かなきゃいけないの。ちょっとわけありでね。
で、坂城さんに質問。ぶっちゃけあたしは領地運営なんて難しい事できないかもしれない。でも坂城さんなら上手くやれそう?」
今までの感じだと、何らかのアイデアがあるから坂城さんは姉ちゃんに話したんだと思う。
今だって、話を振られた坂城さんの口元が吊り上がっている。
ここまで坂城さんの狙い通りなんだろう。
「そうですね。そうなった場合の案ならばいくつかあります。具体的には2つの領地を同時進行させる案です。が、その前にやることがあります。まずは美乃梨さんはこの後ポーションの作成を進めてください。
大量に必要ですから、リオさんも一緒にお手伝いをお願いします。荷物整理にニナさんとアリサさんもお手伝いお願いします。搬送はカルナインさんにお任せいたしましょう」
やっぱりそうだった。
坂城さんはすごい頭が良さそうだなぁ。
うん、この人に任せておけば大丈夫だ。
「そのためにはまず……先にやらねばならないことがあります」
そういうと坂城さんは何故かボクを見つめてきた。
一体何だろう。
「萌生さんはレースで一躍有名になりました。これを利用しない手はありません。まずは第一段階の露店販売用の広報です。わたくしにお任せいただけますか? 当然いただけますね? はい、ではいきましょう」
有無を言わさず坂城さんはボクの手を引き、人気のない広場へと連れてこられてしまった。
他のみんなは有無を言わさず仕事を分配され、戸惑ってるうちに坂城さんに動かされた感じだ。
でもまあ、坂城さんの言う通りにしていれば間違いはないだろう。安心できる。
「さて、このへんでよろしいでしょう。それでは萌生さん、これを着ていただけますか?」
そうして手渡されたのは水色と黄色の服だった。
「え? これを着て何をするんですか?」
「もちろん撮影ですよ。販売促進用の写真を撮ります。ささ、お時間がありません。急いで着てくださいね」
坂城さんにせかされて、ボクはそのまま渡された衣装を着ることにした。
服を脱いで着ることもできるけれど、外で裸になるのは嫌なので、一瞬で着替えられるように装備品変更画面から着替えることにした。
「おお、さすが萌生さん! とっても似合ってらっしゃいますよ!」
坂城さんはボクが着替えた衣装を見て、とても興奮しているようだった。
ボクは……女の子だから、可愛い服を喜んで着ないといけないんだったよね。
「でも、なんか露出が……多くない? おへそとか出てるよ?」
そうなのだ。おへそ丸出しに、いつもよりも短いミニスカート。そしてニーソックスだ。
自分自身を見るためにステータス画面で確認してみることにした。これなら自分のモデリングデータが表示されているからだ。
「わぁ……なんか可愛らしい服ですね……」
「そうでしょう、そうでしょう。きっと気に入ってもらえると確信しておりました。はい、ではそこに座ってください。あ、少し足は開いてくださいね。だめです、手で押さえてはいけません。
もうちょっと開きましょう……はい、いいですね。ではこの白ポーションのビンを持ってください。口元まで持って行って……はい、舌を少し出しましょうか。舐めるイメージで。いいですねぇ。
ではちょっとこぼしてみましょうか。ああ、わたくしがやりますよ。はい、お顔に垂らしますよ。ああいいですねいいですね!」
坂城さんの言う通りにしていれば……大丈夫……なはず?
坂城さんに言われるまま、ボクはポーズを取らされてしまっていた。
「え? え? えぇぇぇぇ!?」
坂城さんは色々な角度からボクを撮影していた。
やけに下から撮影するんだなぁ。
きっとプロの撮影テクニックなんだろう。
坂城さんがいうなら間違いないはずだし。
「ああ! いいですねいいですね! これなら高く売れそうです」
高く売る? ポーションを高く売るのかな? まさかボクの写真を売るはずないだろうし。
でも、道具屋さんより安く売るって言ってたけど、方針を変えたのかな?
この後坂城さんに言われるまま、5種類くらい衣装を変えて色々なポーズの撮影をした。
さすがに水着や下着だけでの撮影は恥ずかしかったけど……看板には使わないという約束で撮影を了承した。
これなら安心だね。
こうして坂城プロデュース、美乃梨商店のポスター撮影が終了した。
そして、月欠けの街フルムーンの街中に、初めてのポスターが貼られることとなった。
そこに写しだされているのは、水色と黄色の可愛らしい衣装を着た萌生。
ポーション大好き! 毎日飲んでます!
まいにちごっくん! もうこれがないと生きていけないよ!
というキャッチコピーが書かれていた。
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