第28話 ごほっ……ボクの口に無理やり押し込まないでぇ。もぅ飲めないよぉ

 ここ数日はリテアさん、ともさん、マイクさんとボクの四人、それにこの間捕まえたホワイトウルフのネオで依頼と狩をしていた。

 ちなみにネオという名前はリテアさんが付けたものだ。

 ネオはレベルが30もあり、しかもユニークモンスターという事もあってとても強かった。

 その為、街周辺から少し離れた場所でも余裕を持った冒険ができた。


 そして今日は冒険の疲れを癒すため、女性陣3名で休暇と称してこの所発展してきたモエノースをみんなで見て回ろうという事になった。

 マイクさんはカルナインさんと二人で用事があるとのことで、一緒にはこなかった。


「楽しみで仕方がないのお。何人にナンパされるか楽しみじゃわい!」


 何でも温泉プールが出来たとかなんとか。

 ともさんがどうしても行きたいという事で、ボクも水着を買って準備万端だ。

 しかし……。


「可愛いね、君達。一緒に遊ばない?」


 今日何度目だろう。

 ボク達3人でいるとやたらと男の人に声を掛けられる。

 水着に着替えて温泉プールに出た瞬間からひっきりなしだ。


「えっと……遊ぶって何をするんですか?」


 もう何度目だろう。

 いい加減疲れてしまう。

 でもともさんは大喜びで男の人と楽しそうに会話をしている。

 売店で飲み物や食べ物を買ってもらい、その都度用事があるからといって更衣室に戻る。


「ほれまたこんなに買ってもらったぞい。萌生にリテア、ほれ好きなの取りなされ」


 ともさんは両手いっぱいに抱えたジュースやパンなどをボク達に見せる。


「ボクもうお腹いっぱいだよ」

「私ももう食べられません」

「食べ物を粗末にしてはいかんぞ!」


 ともさんはボクの口に無理やりジュースを飲ませてきた。


「ごほっ……ボクの口に無理やり押し込まないでぇ。もぅ飲めないよぉ」

「しかたがないのお。ほれ、リテアも食べなされ」


 今度は無理やりリテアさんの口にパンを押し込む。


「んんっ!? んぐぅ……んっ!」


 抵抗するリテアさんの両手をともさんががっちりと抑え込み、無理やり細長いパンをリテアさんの口に押し込んでいく。


「ほれほれ、早く飲み込まないとどんどん奥に入っていくぞい。ほれほれ……もっと奥まで突っ込むぞい」


 パンを奥まで突っ込んだかと思うと、また引っ張り出す。そして再び奥まで突っ込み、細かく出したり突いたりを繰り返す。


「ん!? ん!? んーっ!!」


 頭をフルフルと震えさせ、もがくリテアさん。

 しかしともさんは容赦なくパンを押し込む。


「ほれ、もっと舌を使うんじゃ。口全体を使ってパンを咀嚼するのじゃ……もっともっと……駄目じゃもっとはやく! そうそう。もっと吸い込みを強く!」


 食べ物を食べているだけなのに、ボクはその様子を直視し続けることが何故かできなかった。


 そして何とか食べ物を処理しきった後、今度は施設内のトレーニングジムに行くことになった。


「腹ごなしにちょうどいいじゃろ」


 ボクは腹筋する台に寝転がされ、ボクの両足の上にともさんが乗っかってきた。

 ボクの両足をともさんはふとももでがっちりと挟み込み固定する。

 ともさんのやわらかい太ももの感触、そしてお尻の感触がボクの足に伝わる。


「いっぱい食べたから消化させんと太るからのう」


 そういうとボクのお腹をさすりだすともさん。


「ボクこういうの苦手だよぅ……」

「ダイエットも女子の嗜みじゃろ? なら我慢するんじゃ」


 そうか。ダイエットならしかたないよね。

 ボクも女の子になったんだから、ダイエットしなくちゃね。


「ほれ、手を出しなされ」


 言われるままボクは両手を差し出すと、ともさんはボクの手とともさんの手を合わせて握ってきた。

 ボク達は向かい合って両手を合わせて繋いでいる格好になった。


「腹筋はこうやるのじゃ。ほれ、寝転がってみ」


 言われるまま寝転がると、その勢いでともさんがひっぱられてボクの上に覆いかぶさってきた。

 ボクの顔の目の前にはともさんの顔が迫ってきている。


「儂の目を見るのじゃ。目を離したら駄目じゃぞい?」


 とても綺麗なその瞳がボクの目を離さない。

 吸い込まれそうな綺麗な瞳だ。

 ボクの呼吸が荒くなる。


「ふふ……次は起き上がるのじゃ。ほれ、やってみぃ」


 起き上がったらともさんの顔とボクの顔がぶつかってしまうんじゃないのかな。

 でもこれが普通の腹筋の仕方なら、きっと大丈夫なのだろう。

 ボクが知らないだけなんだ。


「んんっ……」


 ボクがゆっくりと体を起こすと、ともさんは顔と顔の距離が1センチメートルあるかないかを上手にキープしながら体を後ろに動かす。

 この時も二人は目を見詰め合ったままだ。

 そしてともさんはボクの両手を急激に引っ張った。


「ひぇ!?」


 ボクは手を掴まれているので、手で勢いを殺せず、そのままともさんのふとももに顔をうずめてしまった。

 勢いよく顔をぶつけてしまったのに痛さはなく、むしろふんわり包み込まれた感じだった。


「あふん……儂の股間に飛び込んでくるとは、萌生もえっちなやつよのぉ」

「ふごっ……ごふぇんなふぁい……」

「儂の太ももに顔をうずめて喋られるとむず痒いわい。うっふっふ」


 腕を引っ張られているのでボクは身動きが取れなかった。

 目の前にはともさんの黒い水着とやわらかいふともも。


 これっていったい何なの? ボクは何をしているの? これが腹筋なの?


 ボクはどぎどきしすぎて頭が混乱してしまっている。

 そんなボクを見てともさんはボクを抱きしめてきた。


「ふぉっふぉっふぉ……どうじゃ? 息があがってきたじゃろ? これが大人の腹筋じゃ」


 確かにボクは息がすごく荒くなっていて、まるで運動をした後のようだ。

 全然運動したっていう感じはしないけれど、体中が熱くて興奮しちゃっているのがわかる。


「これが大人の腹筋……」


 ふと横を見ると顔を真っ赤に染めたリテアさんがじっとボクらを見つめていた。

 今度はリテアさんと一緒にやってみたいな。


 この後ボク達は温泉に入ってゆっくりしていると、見知った顔を見つけた。


「あそこにいるのマイクさんとカルナインさんじゃない? 何であんな所に隠れているんだろ?」


 ボクが指さすと、マイクさんとカルナインさんはすっと姿を消してしまった。


「あいつらなら最初っからずっと儂等を見ておったぞ?」


 そうだったの?

 もしかして陰から見守ってくれていたのかもしれない。

 優しい二人なんだなぁ。

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