第11話 ばかぁ! ボク、おしっこもらしちゃっても知らないからね!

 ボク達3人は冒険者ギルドで新たな依頼を受けた。

 内容は『レクバ草の採集』だ。

 どうやら回復ポーションの原料になるらしい。

 今回も危険のない街内部での採集作業になる。

 水辺でいっぱい採れるらしいとの情報をもらったので、街中にある池にいくことになった。


「カルナインさんは、草の見分けできるんですか?」


 歩きながらカルナインさんに質問してみた。


「実際に見たことはないが、知識は持っている。まあ、大丈夫だろう」


 姉ちゃんがウインドウを開きながらボク達に声をかけた。


「ほら、このクエスト受注の項目見て。レクバ草の画像が載ってるわ」

「ほんとだ! 特徴とかも書いてあるね。これならボクでも見つけられそうだよ」


 池にはすぐ着いた。

 あたりを見回すと、レクバ草が群生して生えていた。

 クエストの受注量はあっという間に採集できた。

 しかし、姉ちゃんは何かを考えているようで、レグナ草を眺めている。


「ねえ、カルナイン。ポーションってあたし達でも作れるかな?」


 カルナインはしばし考え込んでから答えた。


「うむ。アルケミーギルドという物があってそこで習うことができるらしい。今後の事を考えると、有効な選択肢かもしれんな」


 姉ちゃんはあたりを見回し、足元のレグナ草を採取する。


「これってどういう仕組みで生えてくるんだろ? 一定時間でリポップしたりするの? それとも地球環境と同じく種から育つの?」

「この世界の植物は全て一定時間で生え変わる仕組みだ。土地ごとに生える植物が決められてるから、また後でこの辺りに来ればまた採れるぞ」

「レグナ草はどれくらいのスパンで生え変わるの?」

「ちとまってくれ……レグナ草はだな……三日だ。その後は誰かが採取するまでその場で枯れずに咲き続ける。この草は季節の影響を受けないようだ」

「植物の種類ごとに変わるんだ? なるほどねぇ。んじゃさ、ちょっと今の内採れるだけ採っちゃいましょっか。

ポーション作成を覚えるか別にして、ギルドの依頼にも使えるし、普通に売れるかもしれないし」


 ボクとカルナインも了解して、辺り一面のレグナ草を手あたり次第採集した。

 ボク達以外はまだ誰もとった形跡がないようで、とてつもない量のレグナ草を手に入れることが出来た。


 冒険者ギルドに依頼報告をしたのち、ボク達はアルケミーギルドへと向かった。


 それから、姉ちゃんはアルケミーギルドに登録して、見習い薬剤師の称号を手に入れた。

 レグナ草から回復ポーションを作成するのに、レグナ草以外に必要なのはギルドで販売しており、溶液と瓶が必要だった。

 道具屋での販売価格を考慮しても、1本で300Gほどの利益があるようだ。


「露店を出してみたらどうだ?」


 とカルナインにアドバイスをもらい、今度は商人ギルドに販売許可申請を出しに行った。

 無事申請が終わった後、ボク達は一人の男性に声をかけられる。


「はじめまして。失礼ですが、人間の方ですか?」


 見ると年齢40代くらいだろうか。背筋を伸ばしたダンディーなおじ様だ。


「あたしとこの子は人間です。この大きな人はNPCですけど」


 姉ちゃんは警戒しながらおじ様に返答する。


「おお、既にNPCの方と行動を共にしているのですか。それは素晴らしい。

いやこれは失礼しました。わたくし、坂城 信(さかしろ しん)と申します。種族は人間です」


 種族は人間という言葉。NPCと行動を共にしている事を素晴らしいとこの人は言った。

 既にこの世界の事を多少は知っているとみて間違いなさそうだ。


「あ、私は宗乃 美乃梨(むねの みのり)といいます。その坂城さんがどのようなご用件でしょうか?」


 丁寧にお辞儀をする坂城に対し、姉ちゃんも丁寧に返答した。


「実はわたくし、転生前は企業コンサルタントを生業にしておりました。転生後もその経験を生かして、商いを考えていたところです。

どうやらこの世界では、魔物との戦闘がお金を稼ぐ一番の道のようで、戦闘もできてビジネスも行おうとする人間の第一人者に接触しようとチャンスを伺っておりました」

「それがあたし達ってこと? でもあたし達が魔物と戦えるなんて何で知ってるの?」

「それは人の流れで判別できます。あなたたちは、冒険者ギルドの道からアルケミーギルドへやってきました。そしてそのまま商人ギルドへとやってきました。

手始めに商売にするのに適したアイテムはポーションです。ですので、アルケミーギルドで張っていれば目的の人物を見つけることができるわけです」


 ずっとつけられていたと言う事なのだろう。

 

「そこで、提案があります。わたくしを雇っていただけませんか? 必ずお役に立って見せます」

「ちょっとまって。あたし達は別にそこまで大掛かりな商売をしようとしているわけじゃないの。ただ露店を出そうとしてるだけなの」

「ほほう。では美乃梨さん、露店はどこで出そうと思ってらっしゃいますか?」

「え……そ、そうね……出すなら広場とかいいんじゃないかしら」


 坂城は「ふむふむ」と頷き、そして広場の方へ歩き出した。

 その場に留まるボクらへと振り返り、手招きをする。


「さあ、ご一緒に参りましょう」


 一行は広場へと到着し、露店を出すのに良さそうな場所を見回している。


「あの辺りなんかいいんじゃないかしら?」


 姉ちゃんは噴水横を指さした。

 待ち合わせをして足を止めている一般市民が大勢いる。確かにここなら多くの人にピーアールできそうだ。


「さて、ではここでわたくしの存在意義を証明することにしましょう」


 坂城は辺りを見回すような大げさなパフォーマンスをし、「ふむふむ」と一人頷く。


「美乃梨さん、ここを通り過ぎる人々の種類が何だかわかりますか?」

「種類? 人間かNPCかってこと?」


 坂城は「ノンノンノン」と人差し指を左右に振る。


「ここにいる人々は、一般市民のNPCもしくは普通の人間達です。さて美乃梨さん、販売するアイテムは何でしたか?」

「ポーションよ」

「そうです。ポーションです。では、ポーションを使用する人々とはどのような人達ですか?」

「えっと……冒険者ね」

「その通りです。確かにここには人がたくさん集まっています。もちろん冒険者の方もいらっしゃるでしょう。

しかし、冒険者を狙い撃ちするのに適してはいません。また、ポーションを買おうとするタイミングに適した場所でもありません」

「重要なのは、ターゲット層の選別と、購入意識のタイミングなのです。両方に適した場所とは……さあ、どうぞ着いてきてください」


 坂城は広場から離れ、冒険者ギルドの前にある交差路で足を止めた。


「冒険者は依頼を受け、必要な準備を行うでしょう。そう、装備、ポーションなどです。ここは冒険者が依頼を受けて、街の外へと移動する際に通る場所です。

道具屋よりも近く、道具屋よりも1Gでも安いポーションをここで売ることが出来れば、みなさん買うと思いませんか?」


 確かに、坂城の言う通りだろう。

 近場で済ませられれば時間短縮になる。

 広場では逆に道具屋よりも遠くなってしまう。


「さて、場所も決まったところでお次は広報です。みなさんも以前の地球で看板を沢山見かけたことはあるかと思います。

しかし、その中で何を扱っているのかわかる看板がどれだけありましたか?

名前だけ大きく書かれただけ、モデルが大きく映し出されているだけ、一体この看板は誰に何をアピールしたいのか不明な物ばかりではありませんでしたか?

そういう看板は、看板としての役目を果たしていません。ですので……」

「おっけー! わかった! 任せる!」


 姉ちゃんが大きな声で坂城の言葉を遮る。


「お任せいただけるのは嬉しいですが……まだ視覚効果やカラー学、消費者心理学などまだまだご説明すべき事が沢山ございますが……」

「うん! 全部任せる!」


 そういうと、姉ちゃんは坂城とフェローIDを交換して坂城と別れた。

 というより逃げ出した。


 休憩しようということで、再び一行は広場へと戻ってきた。

 すると、一人の男が噴水の前で立ち止まり、拡声器を持ち上げた。


「ただいまより、月欠けの街フルムーン恒例、第一回『空中飛行レース』を行います。参加ご希望の方は、広場噴水前までお越しください。

豪華賞品も揃えておりますので、お誘いあわせの上、奮ってご参加ください!」


 第一回なのに恒例とは一体。

 魔法の効果のついた拡声器のようで、この大きな声は街中に響き渡った。

 転送されてから特にやる事のない人達が興味に惹かれ、大量の人間、NPCが広場に集まってきた。


「それでは、参加ご希望の方はこの箱に触って参加希望申請を行ってください」


 姉ちゃんとカルナインは瞳を輝かせて係員を見つめていた。


「空を飛べるなんて! なんて素敵なの!」

「うむ。俺も空からこの大地を眺めてみたいものだ!」


 二人ともやる気だ。

 頑張れ頑張れ。


「二人とも頑張ってね! ボク応援するから!」


 ボクは笑顔を二人に向けた。

 すると、二人はそろってボクへと振り返る。


「はーい萌生ちゃん、お手てだしてね~」

「うむ。俺も手伝うぞ。共に大空へと羽ばたこうじゃないか! がはははは!」


 ボクは二人に両手を掴まれてしまった。

 二人ともすごいいじわるそうな眼をしている。

 姉ちゃんだけじゃなくてカルナインまで!


「え? 手伝ってくれるって? 何を? え、え! えぇえええ!?」


 ボクは二人にひっぱられ、役員の所まで連れていかれる。


「やぁだぁ~! むぅりぃ~!」


 二人に引きずられ、強引に参加登録をさせられてしまった。


「ばかぁ! ボク、おしっこもらしちゃっても知らないからね!」


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